sideアルフィーネ:マリベル
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※アルフィーネ視点
地下の施設から地上に上がると、
アビスフォールの地下施設から運び出された遺体が、野営地近くにある大襲来で亡くなった人たちの眠る墓地の近くに次々と並べられていた。
骨だけになっているもの、半分腐乱しているもの、まだ腐乱して間もないものと遺体は様々な状態であった。
総数はたぶん二〇〇体ほど。
たぶんと言ったのは、白骨化している骨がバラバラになっており、正確な数が分からないからだ。
そんな遺体が並べられた墓地にあたしとメイラとマリベルはいた。
遺体の話はすぐに冒険者の間で噂になると思い、察しのいいマリベルのことだから隠しても無駄だと感じて先に連れてきていた。
「マリベル……辛いとは思うけど、この中にお父さんは居る?」
真っ青な顔をしてメイラの腰にしがみついていたマリベルは、並べられた遺体一体ずつに真剣な視線を向けていく。
幼い子に惨いことをさせている自覚はあるけど……。
この状況を見てお父さんだけ行方不明って言ったとしても、マリベルは自分で察しちゃうだろうしな。
あたしはジッと視線を凝らして自分の父親を探すマリベルの手を握ってあげた。
「アルお兄ちゃん……ありがとう」
薄っすらと涙を浮かべたマリベルがか細い声でお礼を言ってくれた。
「辛かったら、見なくてもいいよ。ボクから辺境伯様には報告しておくからさ」
「ううん、これはマリベルのお仕事なの。お父さんたちなのか、そうじゃないのかは辺境伯様にとってもとっても知りたい情報だと思うんだ。だから、ちゃんとお仕事する」
目の端に溜まっていた涙を自分の袖で拭ったマリベルは、一瞬だけあたしの顔を見ると、また遺体の方へ視線を戻した。
とっても強い子……。
そして、とても賢い子ね。
あたしとは大違いだ……。
その後、しばらくマリベルの傍で手を握っていたが、一人の獣人の遺体に彼女の目が行った時、身体が震えはじめていた。
「あの背中に大きな古傷がある遺体。ドントおじさんだと思う……」
「ドントおじさん? お父さんではない?」
「うん、でも父様と一緒にこの場所にきたおじさん。同じ村の人だから……」
背中に大きな古い刀傷を持った遺体は、まだ比較的腐乱が進行していないものであった。
マリベルが一人で地下施設に隠れることになったのが三週間以上前だと考えると、腐乱の具合からちょうどそれくらいの時期に亡くなった可能性が強い遺体だった。
「ということは……」
マリベルの話を聞いたメイラが比較的腐乱の進んでいない遺体の方を見る。
ざっと二〇体くらいか。
ばらばらになっているのもあるけど。
それくらいの人数はいるわよね。
あの遺体はマリベルが一緒についてきたインバハネスからの一行ってことか。
「マリベル……」
「アルお兄ちゃん、ありがとう。ちゃんと仕事できたと思う。辺境伯様には父様たちは殺されていたと伝えておいてくだ……さい……」
それだけ言うと、マリベルは顔を伏せ、声を殺して泣き始めていた。
あたしはそんなマリベルを何も言わずにそっと抱きしめる。
周囲にいた騎士やメイラも、そのマリベルの姿を見てすすり泣きを始めていた。
―― 一週間後―――
新たに発見された地下施設の発掘は未だ続いていたが、大半の業務が機密保持も兼ねて騎士団の方へ移り、冒険者ギルドの出張所も閉鎖されたことであたしたちはユグハノーツに戻ってきていた。
発見された遺体はあのまま野営地の近くの墓地に埋葬された。
父を失ったマリベルはその後も冒険者ギルドの手伝いを笑顔でこなしていたが、その笑顔が空元気であるのは誰の目にも明らかだった。
あたしたちはそんなマリベルを引き取り、辺境伯が用意してくれたユグハノーツの宿で一緒に暮らしている。
「アルお兄ちゃん、メイラお姉ちゃん、辺境伯様から呼び出しが来てるよ! 至急来てくれだって! ほら、早く起きて」
すでに起きていたマリベルは、眠っていたあたしから毛布を剥ぎ取ってきた。
同様にメイラの毛布もすでに剥ぎ取られている。
マリベルには一緒に暮らすことを決めた時に、自分の素性と性別を話しており、それを内緒にするという約束を交わしていた。
頭のいい彼女はあたしが素性を隠す理由をすぐに理解してくれるとともに外でも中でも『アルお兄ちゃん』で呼ぶことを徹底してくれている。
しかも、この一週間の共同生活ですでにあたしとメイラはマリベルにお世話される側になっていた。
「マリベルちゃん、ご、後生だからあと少しだけ~! はぁ、お願いします」
薄っすらと目を開けると隣ではメイラがマリベルから毛布を取り返そうと縋りつくのが見えていた。
あれだとどっちが大人か分からないわね……。
ふぅ、それにしても眠い……。
メイラの気持ちも分からないでも――
そっと、毛布を取り戻そうと手を伸ばすが、そこに毛布はもうなかった。
「二人とも起きてー!」
むむ、これは案外手ごわいかもしれない。
降参して起きるとしますか。
あたしは毛布を取ろうとした手が空を切ったところでマリベルに対し降参することを決めた。
「おはよう、マリベル」
「おはよう! アルお兄ちゃん、これ着替えだから! はい、どうぞ!」
マリベルは手にしていた着替えをあたしに渡すと、まだベッドの上でもがいて起きそうにないメイラの身体の上に飛び乗っていた。
「メイラお姉さんも起きて! 寝たままだとマリベルが着替えさせちゃうからね」
「うぅ、それがいいっ! 起きるのいやぁああ……」
起きるのを拒否したメイラは両手を上げ着替えやすいような体勢になると無抵抗を示していた。
「もぅー。またー」
ぷぅと頬を膨らませたマリベルが、起き上がろうとしないメイラの着替えを手伝い始めていた。
このやりとりは、この宿に泊まるようになってからずっと続いている朝の恒例行事だった。
父親や村の知り合いを失った傷は大きいと思うけど……。
少しでも彼女の傷を癒せる手伝いが、あたしたちにできればと思っている。
癒せてるかどうか自信は全くないけども……。
実際、この一週間夜中にマリベルがベッドですすり泣いているのは知っているので、少しでも気が晴れるようにとは思っていた。
「メイラもマリベルに着替えさせてもらってばかりだと、自分で着替えられなくなるわよ」
「それでいいもん。マリベルは私の嫁にするんだからー」
そう言ったメイラが着替えさせてくれていたマリベルに抱き着いていた。
「マリベルの旦那様になる人はお金を稼げないとムリー」
「ひぐうぅう! らめぇええ、今日も頑張ってお仕事しゅるぅからぁああ!」
「はい、じゃあすぐに辺境伯様のところに行くから準備してね。よろしく」
「すぐに着替えましゅうっ!」
マリベルから着替えを手渡されたメイラは渋々立ち上がるとすぐに着替え始めていた。
第二章のアルフィーネ編、明日で終わりです。
その後、一話他者視点入り、フリック編で二章はお話がまとまるかと。
書籍版の方はWEB版をベースにして再構成しけっこう加筆してるので、よろしければそちらも読んでもらえれば幸いです。12万字で収めようとして、16万字になぜかなってました。(-_-;)
発売まであと8日です/)`;ω;´)







