09:どうやら俺は謎の爆発音の容疑者だったらしい
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「というわけで、昨日は結局ノエリアと魔法の練習をすることになったわけなんだけどさー。これがうまくいかなくって。威力調整ってなんであんなに難しいんだろうな」
俺は昨日預けた分の報酬の受け取りと、今日の分の依頼を見繕いながらレベッカと昨日のことについて雑談をしていた。
人の多い王都なら混んでるところを長時間ならんで窓口に座るところだが、なんでかこの街の冒険者たちは俺の姿を見ると順番を譲ってくれる心優しい人が多く、来てすぐにレベッカの窓口へ座れていた。
「話を聞いてふと思ったのですが。まさかとは思いますけど、昨日ギルドに報告が相次いだ謎の爆発音ってフリック様たちが魔法の練習をしてた音じゃないですよね?」
「謎の爆発音? いや、俺としては初歩の火の矢の練習をしてた。確かに爆発はしてたかもしれないが」
「火の矢の練習で爆発とか普通しないと思うんですが?」
レベッカの顔に『まさか、フリックさんが原因ではないですよね』と言いたげな表情が浮かんでいる。
え? その謎の爆発音って俺のせいなの? けっこう街から離れた郊外でやってたから問題ないかと思ってたが。
「ノエリアが言うには、俺の火の矢は終末の光級らしいが、そんなに遠くまで爆発音なんて聞こえないだろ」
終末の光級と聞いた冒険者たちが、一斉に俺の近くから遠ざかった。
「おい、やっぱりフリックだったぞ。しかも、終末の光って上級魔法だろ」
「炎魔法の上級で爆発と暴風範囲が段違いの凶悪な魔法だぞ」
「ノエリア様を気絶させたから、すげえ実力者だと思ってたが……上級魔法を連発しても平然としてやがる」
「剣士だとか言ってたけど、凄腕の魔術師じゃねえか。よかった新人イビリしなくて」
周囲の冒険者たちが、俺のことを凄腕魔術師だと言っているのが耳に届いてきた。
いや、制御ができないだけなんだけども……。
って言うか。もしかして、俺が来たらみんなが列をあけてくれてたのって、もしかしてビビって譲ってたとか?
チラリと周囲の冒険者に視線を送ると、みんながザっと一歩下がった。
めっちゃビビられてる。
ノエリアとの魔力合わせの件は事故だし、昨日の爆発音もわざとじゃないんだけどなぁ。
レベッカも『やっぱりフリック様のしわざだったわね』と言いたげな顔をしていた。
「謎の爆発音の犯人はフリック様でした。みなさん、安心してください。冒険者ギルドからしっかりと指導しておきますので」
レベッカがそう言うと、周囲の冒険者たちが安堵のため息をついていた。
「もしかして、魔法の練習をしたらダメだったか?」
「いいえ、そのことは大丈夫です。ですが、大規模魔法に分類される魔法の行使は、事前に冒険者ギルドにご連絡いただけると助かります」
大規模魔法……俺は初歩の魔法練習をしていたつもりなんだが……。
アレは大規模魔法に分類されてしまうのか……。
「その必要には及びません。フリック様が魔法を行使されて発生した損害に関して、全ての責任はノエリア・エネストローサが補填いたします。それに父上からの書き付けもこの通り」
背後から声をかけてきたのは、剣を携えたノエリアだった。
彼女はレベッカの前に羊皮紙に蝋の封印がされた書簡を差し出していた。
「……分かりました。すぐにギルドマスターの判断を聞いてまいりますのでお待ちください」
「よろしくお取り計らいのほどをお願いいたします」
そう言うとレベッカはノエリアから預かった書簡を持って窓口の奥へ消えていった。
そして、ノエリアは俺の前にくると、手にしていた剣を差し出してきた。
「これは父のコレクションから選んだ業物の剣です。昨日、助けて頂いた謝礼としてお受け取りください」
彼女が手にしている剣は、一目見ただけでも名剣だと思えるほど作りも仕上げもしっかりしていた。
王都で冒険者をしていた時、アルフィーネに買ってもらった剣にも引けをとらない、いい出来の剣である。
助けたとはいえ、謝礼として受け取るには豪華すぎる剣だよな。
それにせっかく辺境で出直しの生活を始めたんだから、剣も自分の稼ぎで手に入れた物を使っていきたい。
「あー、ごめん、それはしまってくれ。俺は自分の剣があるから大丈夫だ」
「!?」
剣の受け取りを断ると、ノエリアの表情が焦ったものに変化していた。
ジッと差し出している剣を見て、表情をこわばらせていた。
「お気に召しませんか?」
「いや、そういうことじゃなくて。自分の命を預ける相棒は自分の金で作ろうって思っててね。気持ちだけありがたくもらっておくよ」
「それではこちらが困ります。命を助けてもらい謝礼を受け取ってもらえなければエネストローサ家の名誉にもかかわるので」
声こそいつもどおり抑揚はないが、表情はとても困っている様子なのは見て取れた。
うーん、困っているみたいだし、剣以外で謝礼代わりにもらえそうなものにしとくか。
あ、そうだ! 魔法の練習に付き合ってもらうってので手を打ってもらえないかな。
まだ威力こそ調整ができてないけど、自分が使えると分かったからには色々と魔法を見て覚えたい。
無限の魔術師の二つ名を持つ彼女なら、色々な魔法を知ってそうだし、剣技を向上させる魔法とかもあるかもしれないし。
「ノエリアさえよかったら、剣じゃなくて魔法の練習の講師をしてもらえるかな? 使えると分かった以上、上手く扱えるようになりたいし。剣だけで生きてきた俺だから、なかなか上手くはならないかもしれないけど教えてくれるかい?」
俺からの提案にノエリアの目が点になった。
さすがに謝礼として魔法を教えてくれってのは欲張り過ぎたかもしれないか。
辺境伯の令嬢だし、白金等級の冒険者だし、色々と忙しいかもしれない。
そう思った次の瞬間――
ノエリアが剣を放り出して俺の手をしっかりと握っていた。
「承りました。その条件で大丈夫です。わたくしがフリック様にしっかりと魔法の基礎をご教授いたします。そうと決まりましたらフリック様に是非お伝えしたいことがありますので、今日は一日わたくしと郊外で魔法の練習をいたしませんか?」
目を輝かせたノエリアが、すぐにでも魔法の練習を始めたそうに俺の手を引いていた。
一週間の魔物討伐でしばらくの生活費くらいは稼げたから、一日くらいは彼女と魔法の練習に時間を割いても問題はないか。
いきなり上手くなるとは思わないけど、魔法も剣と同じで練習は必要だろうしな。
「分かった。レベッカが戻ってきたら、許可をもらって練習しにいこうか」
「大丈夫です。許可はいらないはず。けど、確認だけはしておきましょう」
ノエリアはニコリと笑って頷いていた。
レベッカが戻ると、ギルドマスターから俺の大規模魔法の使用許可申請は不要との判断が下ったとの報告を受け、俺たちはそのまま郊外へ移動して魔法の練習をすることにした。







