74:芸術的ゴーレム製作
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近衛騎士団の駐屯地を脱走してきたディードゥルを仲間に加え、駐屯地を後にした俺たちはインバハネスの街から更に南に向かった先にあるラハマン鉱山を目指していた。
深夜に駐屯地を出て、夜道を慎重に飛ばしてきたものの、そろそろみんなの眠気も限界な様子を見せていた。
すでに地平線からは朝日が昇り始めるのが見えている。
きっと近衛騎士団は自前で追手を準備して、こちらを追ってきているため、俺はディードゥルと地上、ディモルに空からの警戒を任せここまで来ていた。
だが、先頭を走るスザーナの馬車は先ほどから右に左に蛇行を繰り返し、街道を外れかけたりしている。
俺は危険だと判断して跨っているディードゥルをスザーナの運転する荷馬車に寄せた。
「スザーナ、だいぶ距離は稼げただろうし、そろそろ仮眠を取ろうと思う。君も半分寝てるみたいだし」
「はい? 私は寝てませんよ。はい、寝てません!」
完全に寝ぼけ眼のスザーナが、自分は寝てないと言ったので、休息の必要性を感じていた。
完全に居眠り運転してたよね。
口のところに涎が垂れたあとがあるし。
「分かった。分かったから、あそこの森の中に荷馬車を隠して休息しよう」
「そ、そうですか。では、そちらに寄せます」
寝入りばなにディードゥルが来て、そのままずっと走ってきたから眠気も限界だな。
ノエリアも何度か交代して荷馬車を運転してくれてたけど、慣れない夜道で疲れが溜まって限界がきて寝てるし。
休息して眠気をとらないと事故が起きそうだ。
俺もスザーナの馬車に付き従い、森の奥に行くと、上空にいるディモルを口笛で呼び寄せた。
森に分け入り、街道から見えにくいところまでくると、そこでようやく休息をとることができそうだった。
「ふぅ、それにしてもみんなタフね。あたしは徹夜がお肌に悪いから先に寝ちゃってたけど」
皮の被り物をしたシンツィアが、御者席で倒れ込むように寝たスザーナの頭に止まっているのが見えた。
「シンツィア様、元気そうなんで歩哨を頼んでいいですか? 俺も仮眠を取ろうと思いますし」
「えー、めんどくさい。ゴーレム出しておけばいいじゃん。ゴーレムなら寝てる間も術者と意識は繋がってるし、変な物が寄ってきたら勝手に攻撃するように指令を出しておけばいいのよ」
「へー、それは便利かも。聖域と併用してゴーレム配置しておくと、鉄壁の迎撃網ができそうな気も」
俺も眠気が酷く、深く思考できない状態だったため、シンツィアの提案と自分の考えがとてもいい案に思えていた。
「シンツィア様、使役魔法ってたしか、元になる物質とそれをどんな形にするのかを想像するんですよね?」
「ええ、そう。フリックくらい魔力があれば、たいがいの物質はゴーレムとして使役できると思うわよ。物質によって消費する魔力も性能も違ってくるし、一番簡単なのは土かしらね」
スザーナの頭から地面に降りたシンツィアが、くちばしの先で土を突いていた。
土のゴーレムか、歩哨は大体は八方向くらい立てればお互いの視界をカバーできるだろうし、いっちょ八体くらい作ってみるか。
ノエリアはすでに成功したって聞いてるしな。
弟子としては師匠が使える魔法は使えないと恥をかかせちゃうだろうし。
俺は眠気でよく回らない頭のまま、ゴーレムを作ることを決めていた。
「えっと、形を失いしものよ、わが魔素をまといて、人の姿となれ。傀儡人形」
地面に手を触れ、詠唱しながら、人に近い形の土のゴーレムを想像していく。
放出された魔力が土を動かし始め、地面が波打ったかと思うと、人の姿を模した土の人形が浮き上がり始めていた。
おおぉ、成功しそう。
なかなか上手くできて――
波打っていた地面が収まりを見せるなか、浮き上がってきた土のゴーレムの出来に満足しかけたら、あと少しのところで爆発し、見るも無残な姿に変化していた。
「ぶふぅ! いいわね。さすが、フリック。これは芸術点高いわよ。この出来はなかなか見ないレベルの出来ね。でも、一発で発動させるとはさすがノエリアより無駄に魔力が多いだけのことはあるわね」
出来上がった土のゴーレムはかろうじて人の形を残していたが、どうみてもゴーレムゾンビとしか形容できない姿だった。
「は、初めてですし。ちょっと不格好かもしれませんけどちゃんと動くと思いますよ――ってどうやって指示出すんです?」
「ゴーレムとは意識が繋がってると言ったでしょ。ようは使い魔と同じで視界も感覚も共有できるの。自分がこうしたいと思えばゴーレムはその意識に応じて動くわ」
なるほど、たしかにゴーレムが生成された瞬間、自分の感覚とは別の感覚が増えていたな。
そっちに意識を向けてみればいいのか。
自分の中のあらたに発生した感覚を研ぎ澄ましてみる。
すると、視界と身体の感覚がそちらに切り替わる感じがして、肩にいたシンツィアをそっと掴んでいた。
「ちょっとー。はーなーしーて! 潰れちゃうから! 感覚をリンクさせすぎるとゴーレムがやられた時にショックで死んじゃうこともあるんだからね。あんたの今の状態だと、そのゴーレムがやられたら死ぬわよ。もっと鈍くていいわ」
手の中で暴れていたシンツィアは俺の意識がゴーレムに移っているのを見抜いていた。
もっと鈍くか、意外と難しいかも。
コツがいるみたいだな。
シンツィアに感覚を鈍くしろと言われたので、意識をゴーレムから離してみる。
身体の反応の良さや視界の明瞭さが失われていくが、その分本来の自分の身体の感覚が残っていた。
なるほど、意識の強弱で動きが変わってくるか。
今は戦闘させるわけでもないし、歩哨として周囲の警戒だけだから、意識レベルは最低限でも十分かもな。
そうやって自分の中でゴーレムとの意識の繋がりを調整していくうちに普段使いに丁度いいレベルの場所が分かり始めてきた。
「少し、鈍重だけど動きはしょうがないよな」
「初めてにしては造形以外は大成功だと思うわよ。で、なんで八体も作ったのよ。あんたね、無駄に魔力が多いからってそんな無茶すると――」
「歩哨用ですよ。八方向にそれぞれ置いておけば全方位が見えると思って――」
俺はそう言って生成した八体のゴーレムの視界を自分に共有してみた――
な、なんだこれ!! 視界がっ!!
視界がおかしなことになってる!
「はぁ、もう、馬鹿ねー。八体分の視界を共有したら自分の視界がおかしくなるのくらい分かるでしょ。そういう時は反応があった時だけ繋ぐのー! あとは待機状態!」
リンクしたゴーレムの視界でまっすぐ歩けなくなった俺に、シンツィアがため息混じりに対応策を教えてくれた。
一体ずつ待機状態にして視界をカットしていくとしだいに視界は元に戻ってきていた。
「ふぅ、助かりました。どうなることかと。常時見てればすぐに反応できるかなって思ったけどまともに歩けなかったとは……」
「物質を扱う使役魔法は意外と奥が深いのよ。でも、人の意識を扱う死霊魔法の方がもっと難しいけどね。そっちも極めてみる?」
「い、いや。まずは使役魔法が完璧に扱えないと、事故が起きそうですし。まずはこっちを極めます」
「そう。今のところノエリアにも使役魔法しか教えてないからね。人の意識を扱う死霊魔法はあたしだけで途絶えさせた方がいい魔法かもね」
俺の肩に止まったシンツィアは少し悲しげな声でそう呟いていた。
本日も剣聖の幼馴染を読んで頂きありがとうございます。
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