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ただいま、タプル村

 お墓の掃除を少しだけ行い、最後にもう一度黙祷をした後、僕とシャムロエはティータ村長の家に向かいました。

 村もそれほど大きくないのできっとゴルドとマオも途中で出会うでしょう。

 そんな事を思っていたら村の入り口で二人は立っていました。


「ゴルドとマオは予想できていたのかしら?」


 シャムロエの質問にマオが少し困った表情をしました。

「……変に皆トスカに優しかった。『心情読破』で状況把握して、その後マオはどうして良いかわからなかった」

「そういう事ね」


 そう言ってマオの頭をシャムロエは撫でました。


「……トスカ、ごめん」

「謝る必要はありません。いずれ知る事実でしたから」

「……ん」

「へえ、そこの銀髪のお嬢さんがマオちゃんかい?」

「……ちゃん」


 地味に子供扱いが嫌なのでしょうか?


「……む? こん……けつ?」

「ああそうさ。私はエルフと人間の間に生まれたハーフエルフでこの村の村長をしているティータさ」


 ティータ村長の言葉にゴルドが反応しました。


「エルフですか?」

「ああ。本来なら『精霊の森』に住むエルフだが、私の母が禁忌を犯してね。追放された後、この村の人間と恋に落ちたのさ」

「その、母親というのは?」

「ん? ずいぶん昔に亡くなったよ。父は人間だからさらにその昔さ」

「もしかしてその母親の名前って『セイラ』ですか?」

「おや? どうして知っているんだい? ずいぶん昔に亡くなった筈だけど……」


 かつてゴルドはこのミルダ大陸を歩いた精霊です。そのときに遭遇していてもおかしくはありません。


「ボクも『人間では無い』ので。訳あって長い時間旅に出ていて、その昔セイラにはお世話になったことがありまして」

「ああ、まさか母の知り合いだったとはねえ。ただのトスカの知り合いという訳では無いようだね」

「色々あってね」

「立ち話も何だし、とりあえず私の家に来な。お茶くらいしか無いけどね」


 ☆


「……ふおおおおお! まさかトスカはこの存在を今まで隠していたなんて。絶対に許せない」

「嬉しいのか怒っているのかわからないですが、とりあえず僕の命の危機というのは理解しました。ゴルド、後で『心情偽装』を防ぐ方法を教えてください。きっと僕は明日『パムレット』しか発することができなくなります」

「『心情偽装』を防ぐには同じ神術を使うのが一番ですね。それ以外ですと……気合いですね」

「気合いなら任せなさい。五日間でそれなりの忍耐力がつく特訓を教えるわよ!」

「ふふ、賑やかさね」


 僕の目の前には『クッキー』というこの村の名産のお菓子が並べられていました。

 かつて作物は必要な場所にのみ使うと言われていた時代、人々の娯楽と言えばお互いの力自慢や魔術自慢だったりしましたが、『お菓子』という分野を確立したのはこのタプル村とも言われています。


「……ミルダ大陸のお菓子の原点はこの『クッキー』から来ていた。これは歴史を感じる」

「あはは、面白い事を言うね。ただ作物をコネて焼くだけさ」

「……達人だからこそ言える言葉。マオの舌はごまかせない。途中に甘い調味料や動物の卵、他にも色々工程を重ねて作っている」

「へえ、マオちゃんは普通の女の子じゃないのかい? 神の舌でも持っているのかい?」

「ぶふっ!」


 神という単語にゴルドが吹き出しました。いや、神という存在にある意味近い存在の精霊ですからね。こんな近所に神様がいたら驚きです。


「まったく、こういう時こそ落ち着いて食べるのが礼儀なんじゃ無いのかしら?」

「珍しく正論っぽい事を言ってますが、マオよりも早くクッキーを食べきったシャムロエが言わないでください。僕のを少し食べますか?」

「食べる」

「……ズルい」

「はいはい、二人でわけようね?」

「……シャムロエは神だった」


 神様の大盤振る舞いにゴルドは笑いをこらえるので精一杯のようですね。


「さて、場も和んだことだし、色々と聞きたいこともあるが、まずはお礼を言わせて欲しい」

「お礼ですか?」

「ああ。トスカではないさ。この三人にさ」

「ボク達ですか?」

「ああ。本当はマーシャさんから言った方が良いのだけど、トスカの面倒を見てくれてありがとう」


 ぺこりと頭を下げるティータ村長。その姿を見てシャムロエは焦りました。


「いやいや、私たちも助かっているし、そもそもトスカは私たちに協力してくれている側なのよ」

「……あ」


 マオが『そういえばそうだった』と言いそうな顔をしていますね。僕も忘れていましたがそういえばそうなのですよ!


「それでもね。同年代の人とあまり関わりの無かったトスカが三人も一緒で……」


 ティータ村長とゴルドが目を合わせました。


「言い直す。同年代の人二人と凄い大人一人が一緒で私も安心さ」

「言い直す必要はありませんよ! そのまま話してくれれば誰も傷をつくことなく会話は進んでいましたよ!」

「いやあ、間違いは許せない性格でね。ゴルド……って言ったかい? もし母ではなく『父』も知っているなら察してくれ」

「そう言われると……そうですね」


 ゴルドってティータ村長の父親とも知り合いだったのですね。


「どういう人だったのですか?」

「そうですね。正義感が強くて、人間なのにとても強い。色々過去を捨ててティータの母親のセイラを選んだ男の中の男というべきでしょうかね」


 精霊も絶賛するほどの人間とはまた凄いですね。


「あはは、親を褒められるなんて何百年ぶりさね。そうそう、トスカはミルダにも会ったんだって?」

「どうしてそれを?」


 そう言ってティータ村長は懐から一枚の手紙を出しました。


「長い年を生きていると楽しみも無くなっていくものさ。同じ時間を生きる者同士の秘密の繋がりってわけさ」

「まさか静寂の巫女ミルダとも知り合いだったのですね」

「それこそミルダもここへ来たことがあるからね。しばらく会ってなかったが、元気だったかい?」

「元気と言いますか、思ったよりも子供っぽかったです」

「……マオの方が大人だった」


 マオのその意地は何なのでしょう。


「あはは、まあ彼女は彼女なりに苦労しているからね。あの鈴を託されてから色々と苦労しているからね」

「『静寂の鈴』ですか」


 ゴルドが少し考え込み、一つの提案をしました。


「トスカ、一つ提案です」

「何でしょう?」

「『精霊の森』へ行きませんか?」

 この章はここで終わりとなります。次回は『精霊の森と原初の魔力』です!

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