事情聴取と緊急事態
ミッドガルフ貿易国の騎士団長キューレが行方不明になったという情報は一瞬にして広まりました。さすがは商人の町ですね。
そして僕達は今、個室に呼ばれて椅子に座っています。いわゆる事情聴取というやつですね。
「シャムロエ、調子はどうですか?」
「ええ。マオからしっかり治療してもらったからね」
「牢屋の中で魔術を使って大丈夫だったのですか?」
「ミッドガルフ王が許可をくれたのよ。もともと顔見知りだったということが良い方向に働いたというわけね」
「……お陰でおなかすいた」
「後でパムレットご馳走しますから、我慢してくださいね」
「……(こくこく)」
マオ限定ですが、僕にも魔術が使えるようになりましたね。名前は『マオ・パムレット』にでもしますか。
「で、まさか俺も捕まるとは思わなかったぜ」
「ワタチも牢屋に入れられるとは思わなかったです」
シグレットとフーリエも並んで座っています。現場に居た人物ということでシグレットはその場で捕まり、フーリエは近くの兵士が通報でもしたのでしょうか。
ドアがノックされ、二人のローブを着た人が入ってきました。
「はじめまして。私達は本事件の調査担当の者です。ミッドガルフ様ならびに『ガラン様のお知り合い』ということで、ほぼ無罪ではありますが、貿易国としての体裁もありますので調査にご協力ください」
「「「「ああ」」」」
全員が口をそろえました。そういえばガラン王とも知り合いでしたね!
「体裁と言っても簡単な質問に心で答えてもらうだけです」
「心で?」
「はい。こちらは『心情読破』を使います。質問も簡単な内容なのでご安心を」
しん……じょう!
その一言で一名の目が泳ぎ始めました。
「あ、いや、その、ワタチは……」
「え……確か寒がり店主の休憩所の店主さんですよね? その……どうして目をそらすのですか?」
フーリエは確か『心情読破』を使っても心を読めないんでしたっけ?
そう思った瞬間、マオが僕の服をちょんちょんと引っ張りました。
(……正確には『心情読破』を使われると大変なことになる)
僕にしか聞こえない声なので周囲には聞こえていません。マオはいつも通り僕の心を読んでいるのですね。
(……トスカの心はもはや無法地帯)
悲しいことを言わないでください。僕にも羞恥心はあるのですよ。
(……冗談はさておき、フーリエは『心情読破』を使われても基本的には何も読めない。それはフーリエは普段から心を『無』にしているから)
凄い特技ですね。瞑想しているということでしょうか?
(……深い事情はある。でも今は後回し。今回の調査で調査者が質問をして、フーリエが心で『はい』か『いいえ』と心で答えることは可能)
でしたら何も問題は無いのでは?
(……大陸中のフーリエは繋がっている。仮にこのミルダ大陸に十人フーリエが居た場合、十人が心で『はい』か『いいえ』と答える)
そこに何か問題でも……ん? 何か心当たりが。
(……『心情読破』は本来一人を対象にした神術。二人以上の意思を読み取ろうとすると頭が割れそうになる)
そういえばマオに『心情読破』を使おうとすると『二人分の思考』が入ってくるのでしたっけ!
(……正解。マオの場合は二人分だから被害は小さかった。最低でもマオたちは四人のフーリエに会ったから、フーリエは四人以上。その心を一度に読もうとすると)
読もうとすると?
(……頭が破)
やめましょう! 今すぐ止めましょう!
「何さっきから変な顔をしているのよ。ただでさえ体裁だけの調査なのに、変な誤解が生まれるじゃない」
「事件が発生しかねないですよ! ふ……いえ、寒がり店主! どうするのですか!」
汗を流すフーリエ。そして深呼吸をしました。
「一つ、良い案が出ました」
さすがは魔術研究所の館長です!
きっとその二つ名にふさわしい名案が!
「ポンといったら走りましょう!」
それだけは色々と駄目です!




