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パムレットの銅像

「おい、早くこれを何とかするんだ」


 目の前に立っていたのはミッドガルフ貿易国騎士団長のキューレでした。

 そしてその後ろには巨大な『パムレットの銅像』が三つありました。

 そういえばゴルドが気を利かせて生成したのでしたっけ。


「というより、何故ボク達ってわかったのですか?」


 ゴルドの疑問も当然ですよね。マオもその時は目の前の巨大なパムレットの銅像の所為で自我を失い何にも疑いを持ちませー……あ。


「……トスカには後ほど『心情偽装』でパムレットの刑に処す」

「怖いこと言わないでくださいよ。シャムロエも何か言ってあげてください!」

「さ、さあ。私は『しんじょうどくは』を使えないから、全くわからないわねー」

「……安心して。シャムロエも隣に並べて『心情偽装』をかけてあげる。皆『パムレット』しか考えられない体にしてあげる」

「背筋が凍る発言はやめてください! 後でパムレットをご馳走しますから!」

「むっ……それを言われると拒否できない。約束」


 パムレット一つで僕自信が救われるなら、そりゃ買いますとも。


「で、話は戻りますがどうして僕達だと?」

「ん? そんなの『魔力探知』でそいつの魔力と合致したからな」


 ゴルドに指を刺しました。


「やっぱり好きになれないですね。『神術』は」

「そう言って、僕に散々『心情読破』を使ってますよね?」

「それとこれとは別です」


 苦笑しながらゴルドはパムレットの銅像に手をかざして溶かし始めました。


「む? 一体何をしているんだ?」

「物が大きいので溶かして細かくした後ミッドガルフ王に譲渡しようかと」

「うむ、私も手伝おう。どうすれば良い?」

「そうですね。魔術の『火球』を使っていただければ」


 言われるがままにキューレは銅像に手を向けて、呪文を唱えました。


 ちょっと待ってください。


 キューレって『魔術は使えない』と言っていましたよね?


 何でしょう、この胸騒ぎ。そしてキューレが言葉を発しようとした瞬間、奇妙な音が『ゴルドから見えました』。


 いや、正確には『ゴルドの持つネクロノミコン』が妙に震えているように見えます。


「……これは……まずい!」


 マオが今までに無い声を出しました。そして僕の前に立ち、手を前に出しました。


「『火球』ーー」

「……『魔壁』!」


 何かが圧縮されていく音。

 一瞬の無音から、頭が割れそうなほど高音域の音へ変わり、そして……。



『ばああああああああああああああああああああん!』



 凄まじい音が鳴り響きました。その音の圧で僕は後ろに倒れかけました。

 もう倒れると諦めかけた瞬間、背中から何か押されました。


「トスカ様! 倒れてはいけません! もう一つ言うと、マオ様の『魔壁』から出てはいけません!」


 フーリエの声でした。両手でフーリエが僕を支えてくれています。


「フーリエ、これは……」

「話は後です! それよりも目の前の事態の収拾が先です!」


 目の前。そう言われて凄まじい爆風の中、何とか目を開けて目の前を確認しました。前には両手を広げて『魔壁』を展開しているマオ。その前には……。


「しゃ、シャムロエ!?」


 マオの前にシャムロエが立っていました。それも僕たちを守るように両手を広げて壁になっています。


「……! シャムロエ、何を!」

「かはっ、き、気がついたら体が動いていたわ」

「……『プル・グラビティ』!」


 マオは別の呪文を唱え、シャムロエを引っ張りました。


「マオ様! 今別の呪文を唱えては危険です!」

「……問題ない。二つまでなら」


 そして僕とマオの間に引きずりこまれたシャムロエは腹部に大きな怪我を負っていました。


「かはっ、はあ、はあ、一体何よ……」


 続いていた爆風は収まりつつあり、ようやく視界がはっきりとし始めました。


 周囲は大きな穴が開き、パムレットの銅像は木っ端微塵です。


 そして爆風の中央には……。


「ゴルド様!」


 ゴルドが倒れていました。一体何故!


「何が……起こったのだ?」


 ゴルドの隣にはキューレが立っています。爆風の真ん中に居たはずなのに、何故何事もなかったように立っているのでしょうか。


「この感じ……危険です! 今すぐゴルド様をこの場から出さないと!」

「はあ、はあ、フーリエ、せめて簡単に説明しなさい」

「空気中の魔力がほとんどありません! 『精霊』のゴルド様は今、呼吸ができない状態と一緒です!」

「私や、フーリエは、大丈夫、なの?」

「マオ様の『魔壁』のお陰でギリギリを保ってます。正直ワタチも油断をすれば倒れます! しかしそれ以上にゴルド様はもっと深刻です!」


 フーリエの焦り具合からよっぽど危険ということがわかりました。

 しかしこの場合どうすれば!



「魔力が無いなら、撒けば良い。ほらよ」



 そんな声が聞こえました。

 僕の頭上を超えて、小さなビンが飛んでいきます。

 そのビンはゴルドの近くに落ち、割れました。

 中から青い液体があふれ、空気に触れるとフワッとそれらが撒き散らされました。


「高圧縮魔力液。俺が百年かけて作った試作品の一つだ。借り一つだぜ」

「シグレット!」

「おっと、館長はできるだけ離れてくれ。『その体質』だと魔力を吸ってしまう」

「わかりました、ゴルド様をお願いします!」

「ああ」


 そう言ってフーリエはその場を立ち去り、シグレットが入れ替わりにこちらへきました。


「まさか館長の知り合いに『精霊』が居たなんてな。そりゃ勝てないわ」

「シグレット、貴方は」

「良かったな、俺が居て。その怪しい本について一つ疑問があったから偶然あの液体も持ってきたんだが、まあ話は今度にする。それよりも……そこの騎士団長に用があってな」


 シグレットがキューレを見ました。


「私に?」

「ああ。この魔力枯渇状態でこの魔術師ちゃんの『魔壁』の外に居ながら平然と立っていられるなんて、普通じゃねえ。一体何者だ?」

「さ、さあ。私は記憶が無くてな」

「本当か?」

「ああ。『神術』以外は使用できないこと以外は覚えて……」


 空気が凍りました。

 そしてマオが再度構えなおしました。

 シャムロエは膝を地につきながら体勢を立て直そうとしています。

 ゴルドは……微かですが呼吸音が聞こえます。


「もう一回聞こうか? 本当に記憶喪失か?」

「ふん。もう良い。全く人間は……」


 そう言って僕たちを強く睨みました。


「やはり好きになれないな」

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