黒き陰謀
「何事だ!」
突如扉が開き、中から兵士が数名と大きな男性が入ってきました。
「誰ですか!」
「ふん、俺様を誰だと? 教育が行き届いていない田舎者か!」
「……む、少しイラッときた」
「マオ、落ち着きなさい。私も耐えている。でもそれ以上に腰が痛むわ」
マオが腰を押さえていると言うことは、ゴルドも?
そう思って見たら案の定ゴルドは僕に向かって苦笑いをしていました。
「俺様はミッドガルフ王。この国の王である」
ガラン王と比べるとやや筋肉のついた大男。そしてその装備は……鉄ですが黒いですね。
僕がそう思っているとゴルドがマオに向かって話しました。
「マオ、すみません。あの黒い装備を『見て』くれませんか?」
「……悪魔が宿っている。しかも凄まじい」
黒光りしている鎧からは禍々しいオーラが醸し出しています。
よく見ると周囲の兵士の武器も黒い鉄が使われています。
「この武器は一体何よ?」
「人工魔剣と俺様は呼んでいる。そこの悪魔から血を抜き取り、その血に鉄を浸すことで完成するんだ」
そこの悪魔と言って指をさした場所には何もありません。当然です。僕達が倒したのですから。
「な……悪魔はどこだ!」
「どこって、倒したわよ。あんな怪物、この世にいたことに驚きよ」
「馬鹿な! アレは数百年前にこの地を消滅しかけた『災厄の欠片』だぞ!」
災厄の欠片? 初めて聞く単語ですね。
「ゴルド、何か知っていますか?」
「いえ、ボクにもわかりません。おそらく寝ている間に起こった歴史でしょう」
「危険な事にかわりないわよ。それで、私たちをどうするのかしら?」
シャムロエが訪ねた瞬間、兵士達は剣を抜きました。
「当然、この場で始末だ!」
「『風爪』!」
ミッドガルフ王が叫ぶと同時にゴルドが術を唱えました。
唱えた術は三本の爪の様な物でひっかく感じのもので、周囲には風が舞いました。
「風の魔術も使えるのですか?」
「今のは『精霊術』です」
「鉱石の精霊は風の精霊術も使えるのですか?」
「ふふ、実は色々事情があってボクは色々な術が使えるのですよ」
「ずるいですね。ですが、それを今回は利用させていただきます」
風から鳴り響いた音を掴み取り、それをゴルドとシャムロエに投げます。
もちろん念じながらです。内容はそう……。
『腰痛治療』!
「ん! 腰の痛みが減ったわ!」
「一時的な物です! 今のうちに兵士を倒してください!」
「分かった!」
そしてシャムロエは一気に三人ほど兵士に拳を入れました。やっぱり強いですね。
「……トスカ、マオは戦力にならないかも」
「突然どうしたのですか!」
「……! 『火球』!」
突如僕たちに迫ってくる鉄の物体をマオが魔術で防ぎました。
「……相手の持っている盾、アレにも悪魔の血が混ざっているせいで魔術が効かない。多分ゴルドも」
「そうなのですか?」
僕がそう訪ねるとゴルドは頷きました。
「はい、あの鉄は元々ボクから生成された鉄。そしてそれと相性が良いというべきか悪いと言うべきか、悪魔の魔力を吸ったことでより強固になっています。魔術も効かないでしょう」
もしやこの武器を作るために鉱石をため込んでいた?
「あの怪物をここへ閉じ込めていたのと、鉱石の独占はやはり関係あるのですか!」
「ふん、勘の良い少年だ。良いだろう、死ぬ前に教えてやろう」
そう言ってミッドガルフ王は話しました。
「この鉄を使えばどんな国にも勝てる。最強の剣に最強の盾。魔術は防ぎ、鉄の剣をへし折る。南北どちらの勢力にも劣らない武器を我々は手に入れたのだよ!」
「一体なぜそんなことを」
そう言うとゴルドが話しました。
「かつてこの国の歴史には暗い過去があります。悪魔から生成した薬を利用して巨大な力を手に入れた人間が大量に発生し、結果失った物の方が多かった過去が」
ゴルドが悲しい目でミッドガルフ王に語りかけました。
「ふん、英雄ミッドの物語か。確かにこの国は国になる前に滅びかけた。しかしその歴史は悪魔を体内取り入れるから失敗した。ならどうすれば良い。答えは簡単だ。武器にすれば良いのだから!」
その瞬間、シャムロエがミッドガルフ王の目の前に現れました。
「なっ! いつの間に!」
「巨大な力を得たところで、破滅が望みなら自国内でやりなさい。少なくとも他人に迷惑をかける自己満足は迷惑よ!」
ぱあああああああああん!
ミッドガルフ王の顎を思いっきり殴り、気絶させました。
「ふう、マオ。良い作戦だったわ」
「……問題ない」
「え、一体何をしたのですか?」
僕が疑問に思い質問をしました。
「相手は全員人間よ? 『にんしきそがい』で近づけば見つからずに相手を殴れるわよ」
賢いけどズルいですね!
でもまあ、今回は良しとしましょう。
「ミッド……」
ゴルドは少し悲しそうな目で天井を眺めていました。千年前に何があったかわかりませんが、その辺もすぐに話せるような仲になれたらと、そう素直に思いました。




