♪☆新たなる明日への歩み
レイジは消え去り、辺りは静かでした。
約五十の兵士達は倒れ、ガラン王は未だに震え怯えています。
「マオ様、『聖術』を使える魔力は残っていますか?」
「……問題ない。『光球』で良い?」
「はい。むしろそれが良いです。兵士達に使ってみましょう。間に合う人もいるかもしれません」
マオは倒れている兵士に光る球を放ちました。
放たれた兵士達からは黒い霧のようなものが吹き出され、今まで血色の悪かった人が、徐々に人間としての肌の色を取り戻し始めました。
「あ、う」
「間に合いましたね。ですが三名はまだ動きませんか」
まだ。というのは、心臓の音がまだしない人がいました。
「仕方がありませんね。ワタチが何とかしましょう」
そう言って、フーリエは動かない三名に手をかざしました。すると、『ドクッ』と内部から音がし始めます。
「ふ、フーリエ? 一体何をしたの!」
「蘇生術。と言えば怖いですが、ただの魔力の衝撃を軽く放っただけです」
信じられません。魔術で人間を生き返らせるのはこの大陸で禁じられていますが、それ以外の方法があるなんて!
「フーリエ、貴女は一体?」
「秘密です。ワタチの事情はこの大陸全土を覆うほど広いものなのですから」
そう言って、怪我をした人達の方へ向かっていきました。
「謎は深まるばかり。そんな顔をしているわよ?」
「ええ、フーリエはただの店主ではありません。そしてシャムロエ、貴女もどうやらただの力持ちでは無いそうですね」
「ただの力持ちって何よ。でもそうね、記憶は無いけどこの世界の人間というのは分かったわ」
「その後はどうするのですか? もしレイジの言っていたことが本当なら、知り合いも誰もいないわけですし」
そう言った途端シャムロエが僕に向かって微笑みました。
「何を言っているの? あの自称神に言われた事をやるまでよ」
「それがありましたね」
そして僕も倒れた兵士達の方へ向かって傷の手当てを行いました。
☆
「我は愚かだった。いや、あの場でレイジに殺されてもおかしくなかった」
ガラン王はひどく落ち込んでいました。
「……うん、悪魔の魔力は感じない。でもなんで?」
「利用価値ですね。初代ガラン王と直系ではないにしろ、初代ガラン王の血がわずかにありますから」
珍しくフーリエが髪を外に出しています。やっぱりその方が良いのでは?
「我はレイジを信じていた。幼い頃から慕っていた。レイジの言う事に異を唱えたことは無かった」
「それでそんなに太ったのかしら」
「う!」
今ガラン王からすごい心臓の音が聞こえましたよ!
言葉って時に剣にもなるのですね。シャムロエの場合は拳ですね。
「ああ。王は威厳。王は権力。それを民衆や他国に見せるには身を見せる事こそ手っ取り早い。そう教えられた」
「それで……」
「だが、兵たちの目をよく見ればわかる事だった。我の目は節穴だった」
バンっと座りながら床を叩きました。演技ではありません。その証拠に手からは血がにじみ出ています。
「唯一、ゼイキンとやらを上げる事は不服だった! だが、我はレイジを裏切る事もできなかった! 我は……我は!」
ガラン王は操り人形でした。生まれた時から運命がレイジによって定められ、そして今日までずっと紐につながれていました。
「なら、今日から変われば良いじゃない?」
「我の代わりを民衆から探すことはできない! 我は民衆を見て見ぬふりをしていたのだから誰一人として信頼できる人はわからぬ!」
「代える必要は無いわ。貴方がやれば良いじゃない」
「我が?」
「ええ、今まで操り人形同然でも、そこには貴方が立っていた。なら代える必要は無いわ。そして今日から見れば良いじゃない。貴方のその目でそこの兵達と住んでいる人達を見定めれば良いじゃない。今日から中身だけを変えれば良いと思うわ」
シャムロエの言葉には力がありました。
僕は音が見えます。ですが、今の言葉には見えない音がありました。それは今まで見たことが無い、とても暖かい音でした。
「ああ、ああ! 我は……いや、この国を変えよう。ガラン王国は今日から変わるんだ!」
ぱちぱち。
ぱちぱちぱちぱち。
拍手がなりました。それは倒れた兵士達の手の音でした。
今まで心では憎んでいた王。ですが今はそう見えないでしょう。
「変わる為、『今までの我』の最後の言葉だ! 大いに歌い、大いに奏で、大いに笑うが良い!」
その言葉に兵士達は走り出しました。何事かと一瞬焦りました。
「……大丈夫。安全」
「何かするのですか?」
「……トスカの出番もあるかも?」
「僕のですか?」
そして現れたのは楽器を持った兵士達。なるほど、そういう事ですか。
「明日への門は開かれた! 今日より新たな風を、民とともに歩もうぞ!」
ガラン王の言葉と同時に凄まじい音楽が流れました。
歩くリズムの行進曲。その曲は以前聞いたガラン王国家よりも華やかで、まるで日の光が当たったような音でした。
「ふふ、トスカ。吹いたら?」
「……ここで吹かねば男が廃る……よ?」
「そうですね。ガラン王国に僕の存在を示してみましょう」
そして僕は思いっきりクラリネットを吹きました。
その音は今まで一番大きく、とても楽しく奏でる事ができました。
☆
「ふふ、お疲れ」
「……良かった。多分シャムロエの腰痛も治った」
「私の腰痛はとっくに治ってるわよ!」
ぐりぐりとマオの頭を撫でるシャムロエ。やはりこの二人はとても仲の良い姉妹の様です。
「少年。良き演奏だった」
「打ち合わせでもしたのですか? まさか僕が吹こうとした瞬間、打楽器以外全員音がピタリと止まるとは思わなかったです」
「少年を湛えたまでだ。だが、その勇気は初代ガラン王を超えるだろう」
先程まで見ていたガラン王とは雰囲気が異なっています。心なしか少し痩せて……はいませんか。
「事情はわからぬ。レイジの言葉も本当かもわからぬ。だが、一つ我からの頼みを聞いてくれるか?」
「なんでしょう?」
「ガランと因果関係のあるあの娘。もし本当なら……どうか頼む」
深々と頭を下げるガラン王に驚きました。
「あ、頭を上げてください!」
「うむ、すまん。だがケジメは必要だろ?」
「そうですが!」
人って急に変わるんですね。ここまで変わると逆に怖いですよ。
「わ! ここからの眺め最高じゃない!」
「……トスカも来ると良い。これは目に焼き付けて損はしない」
そう言ってマオは僕の服を引っ張りました。
「はあ、わかりました。僕が行かないと、色々心配ですからね」
そう言ってマオの引っ張る力に身を任せ、城から見える夕日を一緒に眺めました。
今回の劇中曲は以下のurl(Twitter)です!
https://twitter.com/kanpaneito/status/1112105929363750912
一章はこれで終わりです! 色々と挑戦した一章であり、私の今持てるすべての表現を使い切った感じです。レイジの野望はあっさりかもしれませんが、それもまた一つの流れなのかなとも思います。
今持てるすべての表現を使い切っただけで、二章はさらに表現を豊かにして、さらに超えられるように頑張ります!
まずは一章ご覧いただきありがとうございました!




