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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
学園編~四学年~
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23.秘策と進路希望






「サラ……」


別の日、教室でレロサーナたちと話していると、どこか居心地の悪そうに俯いたリノスが近づいてきた。

そんなリノスに私は首を傾げて問いかける。


「どうしたの?」


「あの…」


ちらりと教室の扉に目を向けるリノスを見て私は察する。


「ああ、”いつも”のね」


「ええ…、ごめんなさい。今回は身分が高くて私では…」


申し訳なさそうにするが、そんなことを感じる必要もない。

このクラスの人たちはお願いしたわけでもないのに、私とレルリラの関係を疑い且つ私にちょっかいを出しに来た者達を追い払ってくれているのだ。

本来ならばもっと_呼び出しの_声が掛かっているはずなのに、ここまで少なくすんでいるのもリノスをはじめとするクラスの皆のお陰である。


「ううん。寧ろいつもありがとうね。

レロサーナ、エステル、あいつ呼んできてくれない?」


頷いた二人に私は未だに申し訳なさそうな顔をするリノスにぱちんとウィンクをしてから扉に近づくと、一人の女性が立っているのが見える。

はたして本人か、それとも代理か。


「私がサラ・ハールですが、なにか用ですか?」


そう声をかけると待っていたとでもいうように顔をあげる女性はどこかホッとしていた様子だ。


(これは代理の方かぁ…)


女性の様子からは主犯的な人に私を呼んで来いと頼まれたのだろう。

遣いにされたこの子にも同情するが、私は着いて行くつもりはない。


「あ、あの…貴方にお話があるという方がお待ちしておりますの!ですので…」


「サラ、ちょっといいか…っと話し中か」


「!?」


突如現れたレルリラに対して驚く女性に、私は心の中で笑ってしまう。

如何にも私に用事があるように話すレルリラだが、実はこうした呼び出しが最初にあった頃相談し助太刀をお願いしたのだ。

レルリラも快く引き受け_というより原因はこいつなわけだが_、私が呼び出しに応じなくて済むような状況を作り出してくれているのだ。

勿論それでも連れていかれたら行かれたで、対応する。

どう対応するかって?

レルリラのトレーニングに参加させるのだよ。

トレーニングの言葉を出すと顔色悪くするため、敢えてその言葉を出さないのがポイントである。

こういう女子ってちょっと煽てて、レルリラとの接近のチャンスを作ってあげるっていうとホイホイついてくるのだ。


「急ぎで終わらせてもらえると助かるんだが…」


「あ!いいえ!もう終わりました!失礼させていただきます!!!」


勢いよく頭を下げてパタパタと駆けていく女性を見送った後で、私はレルリラと共に教室に戻る。

ふと視線に気づいて視線を向けるとリノスと目があったので、勝利のVサインを立てるとリノスもくすりと笑った。

これで彼女もわかっただろう。

私の秘策とやらを。


実際にこうしてから嫌がらせもかなり減った。

前までのプレゼント攻撃もなくなり_たぶんこれは私にダメージがないことが理由だろう。貰ったプレゼントを魔物に餌として与えているからだ_、それでもうっぷんが溜まっているのか呼び出される回数は多くはなったが対策は万全だ。


「ありがとうね、レルリラ」


「いや、用事があるのは本当だ」


「そうなの?なに?」


「今度、一緒に勉強しないか?」


その言葉に一瞬戸惑ったが私はすぐに返事をする。


「…勿論構わないけど…、まさか二人とかいわないよね?」


「そのつもりだが?」


「…」


思わず足を止めてしまったが、仕方ないだろう。

それよりコイツ、私がなんで助太刀をお願いしているのか理解してい…いやいや、まだ待って。


「ち、ちなみにどこでするつもり?」


「学習部屋でだが」


な ん だ と !?


「お断りさせていただきます」


「何故だ?俺の教え方、わかりずらいか?」


「いや、そんなことないけど…」


わかりやすいかわかりずらいかで聞かれたら、わかりやすい。

だけど私が言いたいのは、そういうことじゃない。


「じゃあ一緒に勉強した方が捗るだろう」


「あ、だから……」


レルリラからの誘いを断ったことがなかったから、こうも食いついてくるとは思わなかった。

そもそもレルリラと学園以外ではトレーニングするのが通常の流れで、一緒に時間を作って勉強をしたことがなかったのだ。

でも隣の席になって、レルリラの教え方がうまいということはわかっているから、一緒に勉強する事には賛成だが、今のこの状況で二人で部屋を借り、健全とは言え勉強するわけにはいかないことは私にもわかる。

そんなことをしてしまったら、より呼び出しの回数が増えるだろう。


私が一度はっきりと断っている為、どういえば伝わるのかとあたふたとしているところをエステルがレルリラとの間に入る。


「れ、レルリラ様!」


「エステルぅ」


「…なんだ?」


「さ、…サラは今、特定貴族との過剰な接触を理由に他クラスの貴族から注目を_」


「呼び出しのことだろ?だけど特定貴族って誰だ?俺の知ってるやつか?」


「レルリラ様のことです。ですので、特に人目がある学園の設備施設での交流は控えた方がよろしいかと思うのです」


エステル流石!

エステルの言葉にレルリラは首を傾げ、そして眉間に皺を寄せる。


「…そもそも何故階級制度を設けていない学園内でそんなことになるのかがよくわからないのだが…」


怪訝な顔をしてそんなことを言うレルリラに、こいつ自分自身の事ちゃんとわかってるのか?と疑問に思ったのは私だけではないだろう。

エステルも近くで見ているレロサーナも、そして他のクラスメイトも皆唖然とした様子で口を大きく開けていた。

鏡見てこい!鏡!


「要は二人なのがいけないということだろう?お前らも一緒にいればいいじゃないか」


矛先が向いたとエステルとレロサーナがびくりと体を揺らす。


「校外授業が自粛されたことで、次の進級テストでは何が試験内容になるかわからない。今のうちから備えた方がいいだろう」


そういったレルリラに私は思わず口を出す。


「じゃ、じゃあ!クラス皆でやろう!?

ね!いいよね!」


ぐるりと教室を見まわし、皆に同意を求めるとすぐさま頷いてくれた。


「ええ。構いませんわ」


「俺も。教えてもらえるのは助かるから」


そういって好意的な言葉を口にする皆に、レルリラも嬉しそうに微笑んだ。





そして皆で勉強会を開くのならば学習部屋ではなく集まりやすい場所で行った方がいいのではないかと考えた私達は休日、寮の食堂の使用許可を求めに先生の元へとやってきた。

返事は勿論問題なく了承してもらい、よかったと胸を撫でおろし教室に戻ろうとしたとき先生に呼び止められる。

私はレロサーナとエステルに先に行くようにと告げて、先生に向き直った。


「まだ四年で卒業まではまだ日があるが、お前の進路希望を尋ねておきたいと思ってな」


「私の進路、ですか?」


「ああ、この学園では優秀な人材に対して推薦状を出せる。

勿論優秀生徒を決めるのは卒業試験の時だが、ずっと上位の成績を維持してきたお前なら選ばれる可能性は高いだろ?

それでどうなんだ?なりたい職業は決まってるのか?」


「冒険者になることです」


冒険者になるのが私の夢だから、卒業後は速攻でギルドに向かうつもりである。

そんな私の返答に驚いたのか、先生は目を点にして固まった。


「冒険者?王立騎士団じゃなくてか?」


「はい。そうです」


悩む素振りもなく答える私に先生は困惑した様子を見せる。


「……この学園の推薦状を得る為に通う生徒もいるくらいなんだぞ?」


「そうなんですか」


「、…はぁ、まぁいいか。お前のことだから考えは変わらないんだろう?」


「はい。ずっと目標にしてきてたことなので」


「だよな」


私は頷いた。そして子供の頃からの目標を交えて話す。


「私の目標はSランク冒険者になることですから、学園の卒業生最初のSランク冒険者として語り継がれるかもですね」


すると先生は笑った。

面白おかしく笑うんじゃなくて、納得したから笑ったような、そんな感じの笑いだった。


「そうなったら教師の名前にはちゃんと俺の名前を出せよ」


「属性魔法はアラ先生から教わりましたけどね~」


「あ!そんなことをいうのか!?」


慌てる先生に「冗談ですよ」と返事して、先に行っているレロサーナとエステルを追いかけた。







そんなサラの後姿をどこか心配そうな表情で見送るヒルガースは、誰かに尋ねるわけでもなく小さく呟く。


「……サラはアイツに話しているのか…?」


当然のことながらヒルガースの問いに答えはない。

自分の目標の為に同級生の力も借りて成長していくサラと、そんなサラを今のうちから囲おうとしているもう一人の優秀生を思い描くヒルガースは頭を振った。


「まぁ、それはアイツらの問題か……」


優秀な人材を就職にもれた平民の行き先ともいえる冒険者にさせてしまってもいいのかと思う一方で、希望通り冒険者になるのもサラの為にはいいのかもしれないと、ヒルガースは踵を返す。


結局騎士団に入団できても、平民という身分は変わらない。

それが学園からの推薦状を発行されたとしても、身分による制限はどこかしら出てくるものだからだ。




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