9 初めての友達
ご報告します。
私にも女の子の友達が出来ました!!
しかも二人も!
名前はレロサーナ・クティナナ。
程よいウェーブが上品さを生み出しているし、真ん中分けしているのも大人っぽくて、キラキラした金髪が更に気品を感じられる。
ちなみに顔も大人になったら美人になるぞっという感じで、今から将来が楽しみな女の子。
そしてもう一人は、エステル・シメオネ。
淡いクリーム色の綺麗な真っ直ぐストレートの髪の毛は思わずすくい上げてしまいたくなるし、少しタレ目がちの目元からは癒やしオーラが垂れ流れている気がする。
つまり同じ女性から見ても可愛いらしい女の子だ。
二人とも親は男爵で、貴族の中では下から二番目。
ちなみに一番下の爵位は準男爵だ。
どうやらあの日の放課後、私達に話しかけてきたのは、爵位が低い貴族の子たちみたい。
高位な貴族様は家で教えてもらっていたんだろうけれど、そうじゃない子たちは授業に後れを取っていることに焦っていたらしい。
そんな中、私がマルコ達に教えていた現場を見て声をかけたのだそうだ。
ちなみに余談だがマルコはエステルに一目惚れをしたと思う。
エステルをみた瞬間顔を真っ赤にしていたし、明らかに挙動がおかしくなった。
私は恋はしたことないけれど、挙動がおかしくなるマルコは見ていて楽しかったから、私も皆と一緒になって揶揄ってしまった。
「じゃあ今日からは詠唱魔法にうつるぞー」
いつも通りやってきた先生はクラス全員が聞こえるよう大きな声でそう言った。
その先生の言葉に、少しの沈黙の後皆が喜びの声を上げる。
皆が魔力の具現化が出来るようになったのはよかったが、その後は入学当初に戻ったように魔法陣の復習ばかりが続いたのだ。
流石に皆飽き飽きしていたのだろう。
私もだけど。
先生がちょいちょいと指を動かすと、大きな黒板に持ち上がったチョークが勝手に文字を連ねていく。
こういう場面をみると、この学校の先生は本当に魔法の使い方がうまいというかなんというか。
少し前までは私たちのような平民は文字すら書けなかったらしいが、数代前の国王の政策で平民の学習率が向上したのだ。
学校という設備は作れなくとも空の下での授業、つまり青空教室というものを国の予算で無償で開いていたという。
今では平民でも学校に通えるようになり、文字の読み書きが出来るようになった。
学校がない町や村では、ギルドが教育を行う仕組みになっているし、ギルドを新しく設立するために国へ許可を申請する必要があるのだが、教育を受け持つ機関でもあるためにギルドの設立は高い確率で許可が下りるのだ。
それにこの学園のように平民を受け入れる学園は他にもある。
そのことで貴族のプライドも刺激し、平民だけではなく貴族含めてキュオーレ王国全体の教育水準は上がっているのだ。
それでもこれほど簡単に魔法を使いこなす人はマーオ町にはあまりいなかったから、先生の魔法に私はいつも舌を巻いている。
「詠唱魔法に入る前に、この中で詠唱魔法が出来るやつはいるかー?」
先生の言葉に私含めてちらほらと手を挙げる生徒をみると先生は嬉しそうに頷いた。
「じゃあ先に詠唱魔法について話すぞ。
詠唱魔法は、声という信号に魔力を乗せ魔法陣を描くという発動方法だ」
知っている人が多いのか、静かに頷く者もいればなにも反応せずに聞く者もいた。
「まぁ、他にも諸説を口にする者もいるが……」
ボソリと呟かれた先生の言葉を聞き取った者は少ないだろう。
呟かれた言葉に疑問を口にする生徒はいなく先生はそのまま話を続けた。
「詠唱魔法の詠唱内容について決まっている言葉はない。
ただ短ければ短いだけ発動するまでの時間を短縮できるが、その分発動準備に時間を割くことが出来ずに失敗する可能性が高くなる。
逆に長ければ長いだけ魔法陣を描く時間が長くとれるが、発動に時間がかかるということを覚えておけよ」
先生のその言葉に一人の生徒が手を上げる。
「先生。俺、家で教えてもらった時詠唱の言葉を教えてもらったんですが、それは意味がないんですか?」
「リク・シェイリンか。例えばシェイリンは何と教えてもらったんだ?」
「治癒の魔法です。怪我を治すときは”汝の傷を癒せ”と教わりました」
「そうか。汝の傷を癒せ…か、かっこいいな。
でも俺が子供の頃は”痛いの痛いの、飛んでけー”と大人に言われたぞ」
ニカっと笑う先生に、数人の生徒がくすりと笑う。
確かに痛いの痛いの飛んでいけって言われたら、本当に痛みがどこかに飛んで行ってくれそうな気もするよね。
「魔法の発動で大事なのは発動者の魔力操作だが、その他にもイメージが最も重要だ。
今シェイリンが言ったように”傷を癒せ”という言葉から怪我が治るとイメージが沸くだろう。
そして、先生が教わった言葉も痛みを飛ばすイメージがしやすい点から、どちらも問題はない。
詠唱の内容に問題がでてくるのはチームやパーティーを組んでいる場合だ」
「パーティー?」
「そうだ。仲間に自分がどの魔法を発動させようとしているのか、それを伝えるために必要な時…主に戦闘時に必要になる。
その為に具体的にイメージしやすい言葉ってのも、ある程度は必要だ」
教卓に手をついたままの先生の背後でチョークが動く。
小さな丸に棒を付け足し、それを中心に小さな円と大きな円を描いている。
大きな円に書かれたた文字は、イメージ。
「先生はこのイメージがとても大切なものと考えている。
基本的に魔法は発動者が描いた魔法陣から発動されるが、逆に離れた場所に魔法陣を書けるようになれば、どこにでも魔法が発動できる。
だが離れた場所に魔法陣を描くのは難しい。
離れた人間の怪我を治したい場合、離れた場所でも正確に治癒の魔法陣を描くこと、それにはイメージが備わっていないと正確に発動できない」
「先生!魔法陣には魔力を流すと魔法が発動するんですよね?何故術のイメージが必要なのですか?」
「イメージといっても、術のイメージではないぞ。
いや、確かに魔法を作り出す際は術のイメージも必要になってくるが中、それは自分のオリジナルの魔法を作る時だ。
魔法にとって大事なのは魔力を届ける行為であり、それは正確なイメージによって行うことが出来る」
数名の生徒が首を傾げる、先生は悩んだ後教卓についていた手を放して前へと出た。
「実際に見せた方がわかりやすいな」
そう告げると先生はふうと息をついた。




