42 知らせ
ギルドから出た私はそのまま家へと直行した。
心配する両親にこれからのことを伝えるためだ。
うまく話せるかな、お父さんはかなり過保護なところがあるから説得出来るかと不安に思いながら家に帰ると、大体の話が通っていたことに私は驚いた。
あれ、またレルリラが話してくれたの?
「……そりゃあお父さんは心配だ。だけどサラが聖水を作れることが知られたら、それこそ離れ離れになってしまうんだろう?なら、騎士団の手伝いをしつつ、冒険者として過ごしたほうが自由にできる」
お父さんの言葉にお母さんは頷いた。
「そうね。…それにあの人がサラを守ってくれるのでしょう?」
と口にするお母さんに私は一瞬であの人といった人物がレルリラのことだと気付き、お母さんの問いに頷いた。
本当は頼るようで嫌だから頷きたくもなかったけど、それでもレルリラが私を見捨てる姿は想像できないし、何もなくても気を使ってくれる姿しか思い浮かばなかったから。
今回のこともそうだ。
いつの間にか両親に説明しているし、学生の頃だって頼んでもいないのにまるで師匠のように私のことを鍛えてくれていたのだ。
これで私が拒否したとしても、レルリラが簡単に見捨てるわけがないと考えてしまうのも、無理はなかった。
そして私は背中を押されるように部屋へと押し込まれた。
疲れているでしょうと、お母さんに言われたからだ。
昨日ぐっすりと休んだから大丈夫だと伝えても、それでも心配するお母さんは私をベッドへと押し込んだ。
「おやすみ。晩御飯が出来たら呼ぶわ」と告げるお母さんが一階に降りていく音を聞きながら、たくさん寝たし、疲れていないと思っていたはずなのに、うとうとと睡魔がやってくる。
お母さんの言う通り、今までずっと目標に向かって走り続けていたから、ここにきて疲労が一気に押し寄せたみたいだ。
私は眠りについていた。
□
朝日が昇り、太陽の日差しが部屋へと差し込んだ頃、コツコツという音が夢の中にも聞こえてきた。
私は夢から現実世界へと意識を浮上させ、重い瞼を持ち上げながら頭だけで周囲を見渡す。すると真っ白な鳥がクチバシで窓を叩く様子がみえた。
色もない真っ白な鳥の姿に、私はガバっと布団を剥いで窓へと近寄った。
窓を開けて鳥の形をしたそれを手のひらに乗せて部屋へお招き入れると、鳥は姿を変える。
「誰からだろう…?」
私はドキドキとしながら封を開ける。
無地の飾りっ気のない手紙は初めてだった。
レロサーナやエステルならばもっと柄のついた可愛らしい便箋を選ぶからだ。
まるで男の人が選ぶようなその手紙を私はきゅっと口を結びながら手紙を取り出す。
手紙に書かれていた文面を読むとどうやらギルドからだった。
なんとなく残念な気持ちになりながらも手紙を読む。
サラ・ハール様と書かれたあとに簡単な挨拶が書かれたそれはマーオ町にあるギルドからではなく、王都のギルド、つまりギルド本部からの手紙だった。
早速伝えてくれたのか、ギルドからの推薦があったこと、私の短期間での累積報酬額や完遂しているクエスト達成率等を鑑みて、ランク昇給試験の推薦枠を許可するという内容だった。
そしてこの手紙を受け取ったその日から一週間の間に本部まで来てほしいということも書かれていた。
「……え、一週間…?」
私は口端を引きつらせた。
マーオ町から王都まで以前行ったときでも飛ばして四日かかり、そしてほぼ一日は爆睡してしまったほどに疲れてしまったからだ。
つまり魔力回復の分も含めると五日、いや余裕を持って六日は欲しい。
つまり今から急いで準備をして出発しなくてはいけないというわけだ。
「…ちょ、お、お母さん!!」
私は手紙を片手に部屋を出た。
まだ陽が差し込み始めた時間帯で起きているわけもないのに、両親が寝ている寝室へと向かう。
案の定今起きたといわんばかりに眠そうな目で私を見たお母さんとお父さんに、私は手紙を突き出した。
「まだ起きるのは早いわよ…」と再び布団の中に潜り込もうとするお母さんに、私は手紙を顔に押し付けながらも布団をはぎとる。
隣に寝ていたお父さんは寒そうに身を丸めていた。
寝ぼけながらも手紙を読むお母さんを待っている間、私はお父さんを起こす。
「え、今から王都に行くってこと!?」
「そうだよ!だって間に合わないもん!」
レロサーナとエステルに会いに行った時は日帰り(移動日を除く)のつもりだったから、お母さんからお弁当を作ってもらっていただけで、なにも用意しないまま出発したのだけど、今回はそうではない。
試験内容がわからない状況ではせめてポーション類だけでも用意した方がいいだろう。
タイミングが悪く、先日まで作っていたポーションたちは全てギルドに提供してしまったために手元には一つもないから、出発前に作っておかなければいけない。
買うにしてもマーオ町のギルドに卸しているのは私とマークたちの数えるくらいで、しかもスタンピートの件もあり、今枯渇しているというタイミングだから絶対に売っていないだろう。
だから自分で作らなければいけないのだ。
お母さんが寝ているお父さんをバシバシと叩いて起こし、私はとりあえず手元にある薬草で作れるだけのポーションを作るため部屋へと戻った。
昨日の夜に起こしに来てくれたお母さんが置いて行ってくれたのか、夜食が机の上にあることに気付き、私は有難く朝食になった夜食へと手を伸ばしたのである。
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