39 謝罪とパーティー解消
ランク上げについての詳細の話をする為、ギルドへと戻ると先程の轟音か歓声かわからないけど、目を覚ましたアレグレンさんが慌てた様子で目の前にいた。
後ろには少し気まずそうな表情を浮かべるルファーさんもいる。
「サラちゃん!」
私はアラさんの前に出るような形で二人と顔を合わせた。
「アレグレンさん、無事でよかったです。ルファーさんも助けを呼んでくれてありがとうございます」
ギルド長からは寝ているだけで問題はないということを聞かされていたが、それでもついさっきまで一緒に窮地を体験した仲だ。
本当に大丈夫なのかと心配していたから顔を見れてホッとする。
そんな私とは対照的にアレグレンさんは口をきゅっと結んだあと、勢いよく頭を下げた。
「足を引っ張ってごめん!サラちゃんを守る為に残ったのに、俺の方が守られてばかりか、サラちゃんの足を引っ張ってしかも危険な目にあわせてしまった!本当にごめん!!」
「え、えええ、ちょっ、顔をあげてください!」
戸惑う私に、更にルファーさんが謝罪を口にしながら頭を下げる。
「俺もすまなかった。ギルドに戻り報告した後すぐに戻ろうとしたが、二人のもとに行くこともできなかった」
私は二人の言葉に首を傾げる。謝る意味が分からなかったからだ。
アレグレンさんは私の為に残ってくれて、ルファーさんは後ろ髪を引かれる思いをしながらも頼みを聞いてくれた。
だからなんでこんなに悲しそうな顔をしているのかがわからなかったのだ。
先ほどのギャラリーが今度はギルド前に集まり私たちの様子を見て、ヒソヒソと話している。
私は慌てた。
状況だけみると大人の男性に頭を下げさせるヤバい女って図だ。しかも二人に。
どんな勘違いをされているのかわからないだけに、私はどうにかして二人の頭を上げさせようとするが、私を助けてくれたのは一緒にいたアラさんだった。
「そこまでよ」
アラさんの声に二人が顔をあげる。
「気持ちを伝えるのは素晴らしいことだけど、場所を選ばないとそれは返って迷惑にもなるわ」
見てご覧なさい、とアラさんがたくさんいるギャラリーを指差した。
ギャラリー達はアラさんに指差されると散らばっていくが、自分たちが見られていることを知ると、アレグレンさんは顔を赤らませ、ルファーさんは顔を青ざめた。
全然違う二人の反応に私は一瞬間をおいて思わず笑ってしまう。
すると私が笑ったこと気付いた二人が同時に顔を向けた気配を感じ、口元を隠していた手をどけた。
「謝らなくても大丈夫ですよ。
それに私はアレグレンさんに足を引っ張られたとは思っていません。寧ろ頼もしさを感じました。一緒に戦ってくれてありがとうございます。
ルファーさんも、私のお願いを聞いてくださってありがとうございます。おかげで騎士団から助けが来てくれました」
私の言葉に、「でも…」と口にするアレグレンさんにアラさんが口を開く。
「…ランクに差がない冒険者は基本対等な立場よ。仲間を守ろうとするのは素晴らしいことだけど、それに責任感を持たなくてもいいの。それにクエストに必要なメンバーを三人に設定したのは救援を呼べるように、そして残った側だけで時間を稼げるようにギルド側で設定したこと」
ギルド側の意図を汲んで行動したと思ったのだけど、違うかしら?とアラさんが二人に問いかけた。
横目でしか確認できなかったが、アラさんの目はまるで凍てつくような厳しい目で、思わず私もぞくっと身を震わせた。
学生時代、アラさんに年齢を尋ねたクラスメイトがいて、その時に似ている。
というか、なんで怒っているの?
二人はそんなアラさんに萎縮し、すぐに視線を逸らせて私を見た。
「そ、そうだ、別に話があったんだ」
「は、話ですか?」
私までどもってしまったけど、アレグレンさんの言葉に首を傾げた。
アレグレンさんはルファーさんを振り向くと、ルファーさんは斜め掛けしている鞄からあるものを取り出す。
「俺たちクエスト以外にもキラービーの蜂蜜手に入れたでしょ?それをどうしようかと思ってたんだよね」
「ああ!」
瘴気の魔物の印象が強すぎてすっかり忘れてしまっていたが、キラービーの巣を手に入れていたことを思い出す。
私の魔法で凍らせたままの状態ではなく、お店に頼んだのかしっかりと蜂蜜の状態になっているそれに、私は口角を上げて喜んだ。
「サラちゃん、蜂蜜が好きって言っていたよね?これはサラちゃんの分だから売るかどうかは好きに決めていいよ」
手渡された蜂蜜を私は両手で受け取りながらアレグレンさんの話を聞く。
ちなみに換金したらいくらになるのかと考えていると、アラさんが教えてくれた。
「この量なら少なくとも一万オーレくらいにはなるわね」
「い、いちまん!?」
私は驚愕した。
王都に一番近い町の宿で飯付き一泊一万オーレなのだ。
キラービーとはいえ、消耗品である蜂蜜に、しかも百グラム程の量にそんな大金がつくのかと目を見開いて掌にある小さな瓶を凝視した。
「…そろそろいいかしら?」
アラさんの言葉に私は我に返り頷いた。
そして二人に向き合い私は軽く頭を下げる。
「アレグレンさん、ルファーさん、一時的にパーティーを組みましたが、解消をさせていただきたいんです」
「勿論いいよ。サラちゃんの実力に俺たちが追いついていないことに気付いた時点でそう提案しようと考えていたんだ」
ね?と顔だけをルファーさんに向けるアレグレンさんの言葉に同意するようにルファーさんが頷いた。
私はモメることがなくホッとしていると、アレグレンさんの眉が下がる。口角は上がっているようにみえるけど、少しだけ引きつっているような感じだから無理して笑っていることがわかった。
「でもサラちゃんから言ったのはやっぱり俺たちが弱い…」
「違いますよ!」
私はアレグレンさんの言葉を遮って否定する。
先ほども言ったが、私は二人にとても感謝しているのだ。
それに魔力量が少ないからとあまり魔法を使っていなかったが、剣の扱いは私よりも動きがいい。魔法なしで対戦すれば絶対私が負けるぐらいだ。
「…えっと、詳しくは言えないんですけど、さっき騎士団の人が助けに来てくれたっていいましたよね?
その人私の同級生で、学生時代の私を知っているからと指名依頼を出したいっていってくれたんです。でも指名依頼のためにはランクが足りず…、それでギルドに確認したところランクを上げる方法があると教えてもらったんです」
私はそう説明する。かなり端折っているが嘘はいっていないと自分に言い聞かせながら、心の中で二人に謝った。
詳しく言えないこともそうだけど、結局は自分都合でパーティーの解消を願い出ているから罪悪感ってものはどうしても出てくるからだ。
「じゃあ、サラちゃんはランクを上げるために俺たちとのパーティー解消を願い出たってことだね」
「はい」
私がすぐさま頷くとアレグレンさんはよかったぁと胸を撫で下ろした。
ルファーさんもアレグレンさんと目が合うと薄く微笑んで頷いている。
「通常のやり方以外のランク昇格については…」
「口外しないので大丈夫ですよ」
アラさんが最後まで言い終わる前にルファーさんが口にする。
ルファーさんに続くようにアレグレンさんが笑みを浮かべた。
「そうそう。詳しくは知らないけど、騎士団が絡んでいるってことは急を要すことだってことくらいわかるよ。それにサラちゃんにはそれだけの力があるってことも。
羨ましいからってそのやり方を聞くような無粋なこと、俺たちしないから安心してよ」
「それならよかったわ。じゃあそういうことだから」
「はい。…サラちゃん、ランクがあがったらサイン頂戴ね」
ぱちんと右目を閉じウインクをしたアレグレンさんの頭をルファーさんは軽く叩く。
私はそんなアレグレンさんに吹き出すように笑った。
そして二人と別れた私はアラさんに続いて応接室へと戻る。
……そういえばギルド長をそのままにしてきちゃったけど……、まぁいいか。




