7 決意表明
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「……というわけなんです!」
あれから私はギルドに戻ってきた。
マイクたちのパーティーから抜けるための手続きをするためだ。
リーダーであるマイクが主に手続きをしている最中、私はマーオ町に戻ってきて、再びアラさんに会った瞬間涙を浮かべながら抱き着いた。
勿論カウンター越しで完全に抱き着けるわけでもなかったけど、それでも幼少期にお世話になり、そして学生時代にとてもお世話になった人物でもあるアラさんだったから、ついつい顔を見ただけで感情が込み上げてきたのだ。
アラさんは抱き着く私を受け止めて、ギルド内にある応接室に連れていく。
来客用の為に用意されているようで、向かい合うソファの間に背の低いテーブルが置いてあるなんとも質素な部屋だった。
私はアラさんに進められるようにソファに座り、そして経緯を説明した。
アラさんは私の話を聞いて「やっぱりね」と呟いた。
私が話した内容は学園でも地元でもなんで恋愛事情に巻き込まれたんだという愚痴を言ったくらいで、パーティーに対する話はしていない。
というよりも、話しつくした後に思い出してしまったが、手続きの最中にも関わらず置いてきてしまったことに罪悪感を感じ始めた。
どうしよう。マイクたち困ってる…よね。
そしてアラさんは私に告げる。
「サラちゃんはランクが上がるまでパーティーに加入しない方がいいわね」
私はアラさんの言葉にごくりと唾を飲み込んで尋ねた。
「それは、…他のパーティーも痴情のもつれみたいなものがあるってことですか?」
「え?」
「え?」
一瞬おかしな雰囲気になったけれど、アラさんはすぐに元の穏やかな表情に戻って首を振った。
「私が言いたいのは実力に合わないパーティーと組むことはサラちゃんにとって得策ではないということよ。痴情のもつれは関係ないわ」
アラさんは話を続けた。
「サラちゃんもたった一日とはいえ感じたでしょう?実力が合わないと」
その言葉に私は頷くことはしなかったけれど、それでもそれに近いことを感じてしまったことを思い出し俯いた。
「実際個人間に実力の差があるパーティーはうまくいっていないことが多いの。実力に見合う仕事をしているのに報酬は山分けだと問題を起こす人、実力があるからといってその人の能力を搾取しようとする人、反対に実力がないからと同じパーティーメンバーを召使のようにこき使ったりね」
よくいるのよ。と深いため息とともに話すアラさんは一体どれだけのパーティーを見てきたのか。
もしくはどれだけパーティーの問題を解決してきたのか。
ギルド職員って大変だなぁと思いながら、顔を上げた私はアラさんを見つめた。
あれ、でもおかしいな。
私恋愛関係は愚痴ったけど、パーティーの活動についてはなにもいっていないのになんでアラさんは私が疑問に思ったことを知っているのだろう。
でも今はそれを聞くよりももっと重要なことがある。
「…ちなみに参考までに教えて欲しいんですけど、私って一般的な冒険者で言うとどれぐらいのランクなんですか?」
そうだ。これだ。
私がランクをあげるまでパーティーを組まない方がいいとアラさんはアドバイスしたけれど、一体それはどれぐらいまでのことなのか。
というか、ランクをあげるまでといっても、大体の冒険者はパーティーを組んでしまって……、いや同じような実力者で、しかも長年パーティーを続けていたのならもう関係性もバッチリだ。
それなら快く受け入れてくれるかもしれない。
今回みたいに問題とか起きないかもしれない。
「そうね………」
アラさんは私をじっと見つめて考え込む。
私はそんなアラさんからどんな答えが出てくるのか、ドキドキしながら待っていた。
「Aランクくらいかな?」
「え、Aランクですか?!」
私は驚いた。
本音で言えば嬉しい。
私をそこまで評価してくれたこと、それが実力者でもあるアラさんなのだから嬉しくないわけがない。
だけど裏を言えば、私はAランクにあがるまでパーティーをあきらめなければならないということだ。
「ええ。私がサラちゃんをみたのは四年の頃までだけど、その頃もサラちゃんは私の攻撃にちゃんと対応できていたし、その後も成長していることを考えたらそれぐらいまでにはなっていると思ったの」
「アラさん……」
にこりと微笑むアラさんに、私の胸はきゅんとときめいた。
「……わかりました。私Aランクになるまでパーティー組みません!一人でやっていきます!!」
「ええ、頑張って」
「はい!」
パチパチと手のひらを合わせて応援してくれるアラさんは、「そうだわ」と口にする。
「どうしたんです?」
「サラちゃんはまだ霊獣と契約してないのよね?」
「はい」
霊獣との契約ははっきり言ってしまえば運だ。
主に霊獣が住んでいると言われている星域で生活している霊獣たちは、たまに人間たちが暮らしている地上へと降りてくることがある。
その時に霊獣の目に留まって気にいられれば契約できるが、なかなか難しい。
その為霊獣との契約をしている人はそれだけでも一目置かれる。
(しかも私の両親はどっちも霊獣と契約しているしね!!!)
「でもそれがどうしたんですか?」
「私の霊獣がね、サラちゃんを紹介してほしいといってる霊獣がいるっていってたのよ」
「私を?」
「ええ。だから会って欲しいのだけど、時間とれるかしら?」
「私はいつでも構いませんが…」
「じゃあ行きましょうか」
ソファから立ち上がったアラさんは腕を前に伸ばして大きく魔法陣を描いていく。
それがどんな魔法陣かはいつも先生に転移されてきた私はすぐに気付いた。
「え!?今から!?」
「そうよ」
ふふっと笑うアラさんに私は緊張する。
髪は乱れていないか、服は大丈夫か、というかもうすこしお洒落な服をきてくればよかった。
そんなことを考えていると、アラさんが私に手を伸ばした。
「さ、行きましょう」
魔法陣がアラさんの魔力で青く光り、その先には薄く靄のようなものが広がっている。
あの先に私に会いたいといってくれている霊獣がいるのか。
ごくりと唾を飲み込んで、私はアラさんの手を取った。
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