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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
学園編~五学年~
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33 閑話 視点変更_家族が元に戻った日

レルリラのお話も書きたくなったので、閑話として差し込ませていただきます。





□視点変更



ヴェルナス・レルリラはサラ・ハールと言葉を交わした後、自分の父であるエイヴェル・レルリラの元に向かった。

人が減ってきてはいたが、それでもまだ行われていたパーティーの場にいたエイヴェルにヴェルナスは近寄る。


「…用事は済んだのか?」


ヴェルナスはエイヴェルの言葉に頷いた。


「ではもう帰ろうか。明日も早い」


エイヴェルはそう口にすると、今まで言葉を交わしていた人たちに礼を告げ、パーティーから立ち去る。

エイヴェルはヴェルナスが用事を済ませるのを待っていたのか、既に正門前に馬車を用意させていたようで、ヴェルナスと共に乗り込んだ。


「…アイツはいいのか?」


ヴェルナスがいうアイツとは、幼かったヴェルナスの心に傷を負わせた原因でもあるヴェルナスの祖父でエイヴェルの父のことだ。

エイヴェルと共に卒業試験に来ていることを知っていたために、馬車に乗っていない祖父のことを尋ねた。


「父なら先に帰ったよ。あれでもいい歳だ。パーティーには参加していないし、試験中早々に帰ったんじゃないかな」


いい歳した爺だとわかっているのなら、黙って領地で引っ込んでいればいいのにとヴェルナスは思ったが口にはしなかった。

あれでも父の親でもあり、先代公爵であるのだ。

自分が祖父にいい思いを抱いていなくても、サラに口にしたようにクソ等という言葉をいうことはしてはいけないことをわかっていた。


「……試験、お疲れ様。凄く成長したな」


静かな馬車の中でエイヴェルがヴェルナスに言った。

エイヴェルの中でのヴェルナスは卒業前の記憶で止まっている。

ヴェルナスが幼い頃、戦場へと向かったエイヴェルにはその間のヴェルナスとの思い出がなかったのだ。

だからヴェルナスがどれだけ成長したのかもわからなかった。

あるのはただ、自らの妻であるミリーラ・レルリラとヴェルナスに心の傷を負わせてしまったこと。

そしてヴェルナスはその傷を癒す前に、学園へと入学したことだけ。


学園に入学した自分の息子に手紙を送ったエイヴェルは、返事が来なかった数年間ずっと不安だった。

もうじきヴェルナスは卒業を迎える年となるのに、自分は父親の顔をして息子の姿を見てもいいのだろうか、息子と顔を会わせても大丈夫なのかと問いかけるようになった。


そして手紙が届く。

ヴェルナスが謝らなければならない要素など一つもないのに、手紙にはエイヴェルとミリーラに対する謝罪と母に、そして家族に会いたいという気持ちが綴られていた。

最後にはこれから母と顔を会わせるその日まで、手紙を書くから届けて欲しいという、お願い事にエイヴェルは涙を浮かばせた。


父には?と思ったが、それでもよかった。

また昔のように家族の時間を過ごしたかったから。


エイヴェルは息子に返事を書いた。

ミリーラはまだ戻ってきてはいないが、次の長期休暇帰ってこないかと。

実際には第一王子殿下が持ってきた陛下からの勅令で、感動の再会とまではいかなかったが、元気でやっているだろう息子の柔らかな表情に安堵したものだ。


そして迎えた息子の卒業試験。

ヴェルナスの成長具合も知らないまま参加したが、予想以上に二つの属性を使いこなしていた姿に感動した。


(あぁ、同じ火属性くらいは俺が教えてあげたかった)


そんなことを考えながら息子の成長を妻のミリーラにも見せたかったエイヴェルは、新しく販売されたフィルム~まる見え君~を手にしながらヴェルナスの雄姿を記憶に留めながら見つめたのだった。


「……ありがとう、ございます」


いつの間にか敬語を使うようになったヴェルナスの姿に、少しだけ寂しい気持ちになりながらもエイヴェルは続ける。


「実はな、父が早々に帰宅したのもお前の立派な姿をみたからなんだ」


「?」


ヴェルナスがエイヴェルの言葉に首を傾げる。

エイヴェルは(確かにこれだけだと言葉が足りないか)と思いながら補足した。


「よっぽど火属性以外の属性魔法を受け付けられないのだろう。お前が風属性魔法を使う度に、暴れて騒いで大変だったんだ。思わず一緒に観戦していた第一王子が部屋からつまみだしたくらいだ」


悪びれもなく笑みを浮かべるエイヴェルの姿に、ヴェルナスも緩く笑った。

恋愛結婚で結ばれたエイヴェルは、態度にも表情にも出さないが大層ご立腹なのである。

ただ、先代公爵はその実力も確かなもので、当時付き合いのあった貴族からの信頼も厚く、現当主であるエイヴェルであっても簡単に追い出せるような人物でもない為、少しずつ“老いて以前の輝かしい人材ではなくなってしまった”と意識づける必要があった。


「王族も参加すると聞いていましたが、陛下ではなく第一王子がいらっしゃったんですね」


「ああ、今後聖女様が外に出る際には護衛が必要となる。

現状我が家で教育を受けている為まだそのような機会もないが、……聖女様の教育をレルリラ家で引き受けたとはいえ現在の聖女様の責任者は第一王子殿下だからな。同じ年頃で優秀な生徒がいるか、確認のために訪れたんだろう」


「…そうですか」


ヴェルナスは表情を変えずに答えた。

エイヴェルは興味のなさそうな息子の姿に苦笑する。


「……そういえば殿下がお前のことを気にしていたぞ。もしかすると聖女様の護衛、特務隊のメンバーに選ばれるのかもしれないな」


「………」


冗談なのか本気なのか判断がつかないことをエイヴェルが口にした。

エイヴェルも息子はどんな返事をするのかと、少しワクワクした気持ちで見つめていたが、ヴェルナスが口にした言葉は全く違う言葉だった。


「……そういえば、ラルク兄上はいますか?」







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