30 卒業パーティー②
「サラじゃない」
「ご、ごめんね、邪魔だよね」
例えこの場が無礼講であっても、平民に気安く話しかけられれば貴族の気分だって悪くなるだろう。
レロサーナとは互いに砕けた言葉遣いをしていても、今この場にはレロサーナのご両親だっているのだ。
私は日頃の自分の態度を𠮟りつけたくなった。
「邪魔じゃないわ。寧ろちょうどいいタイミングよ」
「いいタイミング?」
レロサーナにそう言われた私は首を傾げた。
何故に?と不思議そうにレロサーナに説明を求める前に、レロサーナのお父さんとも思われる男性に私は話しかけられる。
「レロサーナから話はよく聞いていたよ。君がサラさんだね」
「あ、はい。サラ・ハールといいます。レロサーナ…いえレロサーナ様にはいつもお世話になっています」
授業で習ったカーテシーをとり、私は深く頭を下げた。
そしてゴクリとツバを飲み込んだ。
うぅ、緊張する。
そして気付いた。
(そうか!必要ないと思ってた礼儀作法は卒業パーティーで使うのね!)
必須科目にしてくれて本当にありがとう、そうじゃなかったら今この場でワタワタしていたと心の中で感謝しているとレロサーナのお父さんが笑い声をあげる。
「アハハハ!そんな気を遣わなくてもいい!
私は貴族と言っても男爵で、平民の方が付き合いが多いんだから!」
「そんな高笑いをあげないでください。いくら無礼講と言っても態度は常にきちんとしなくては」
「そういわないでくれ、妻よ」
そんなことを言い合うレロサーナのお父さんとお母さんは、ふふっと笑いだす。
「サラさん。これからもレロサーナと仲良くしてくださいね」
「なんならいつでも遊びに来てもいいぞ!」
「レロサーナが騎士団に入団すれば、家には帰ってこないでしょう?サラさんが遊びに来てもレロサーナがいなければ居心地悪い思いをさせてしまうでしょう。
サラさんこんな男の言葉は気にしないでいいからね」
「あ、はい……」
なんだかよくわからないけど、レロサーナが普段から私の事を話しているのかかなり好印象を抱かれているようで、レロサーナのご両親にはとてもいい顔をされた私は、後ろにいるお父さんとお母さんを紹介する。
お父さんもお母さんも私と同じように最初は緊張していた様子だが、それでも気兼ねなく話してくれるレロサーナのお父さんの態度に緊張が解けていったようだ。
私はエステルの元にも向かって、同じように親切に迎えてくれるエステルとエステルのご両親に同じように両親を紹介した。
(あ、そうだ。レルリラのことも紹介しようかな…)
レロサーナとエステルに両親を紹介し終えた私は、ふとそう思った。
レルリラはずっと私と一緒に切磋琢磨し合って成長してきた存在だ。
男の子だからと気にせず、お父さんとお母さんにレルリラのこと紹介すべきなのではないかと思った私は、レルリラを会場内で探す。
(どこいるんだろう……)
そもそもレルリラは参加しているのか。
いや親が公爵なんだから参加はしているかと納得させて、私は会場の中を見渡した。
すると壁の端に燃えるような真っ赤な髪の毛をした男性と、レルリラの姿を捉える。
(……流石にやめておこう…)
先程までの気持ちはどこに行ってしまったのか、私は急に気分が沈んだ。
だってレルリラだけならまだしも、レルリラの実家は公爵家なのだ。
つまりレルリラと話しているあの男性は公爵となる。
流石にやめておいた方が無難だと、私は考え直した。
ふるふると左右に首を振ると音楽が流れる。
緩やかなリズムの曲だ。
そして曲に合わせるように先生たちが踊り始める。
『皆さんもどうぞ』と拡声魔法を使ってダンスを進める声に、他の生徒も踊り出した。
生徒同士も少なくないが、親と共に踊る生徒も多かった。
「お父さんも踊ろう!」
私はお父さんの手を掴んで、中心部に向かう。
「さ、サラ、お父さんは踊れないぞっ」
「大丈夫!私が教えてあげるよ!」
そう言った私はお父さんを少しだけ浮かせた。
浮遊の魔法だ。
そしてステップを指示しながら、お父さんを笑顔で見上げる。
最初は難しそうな顔していたお父さんは、やっぱりもう無理だと根を上げた。
だよね。私もダンスの授業は本当に手間取ったもの。
そしてお父さんは私に浮遊の魔法を解除するように告げ、言われた通りに魔法をやめる。
「わぁッ!」
脇の下に手を差し込まれ、急に持ち上げられた私は楽しそうに笑うお父さんを見下ろした。
急にダンスに誘ったのは私だけど、無理といって沈んでいたのに今のお父さんは楽しそうに笑うものだから、私もついつい笑顔になる。
「それくらいなら私も踊れそうね」
そういってお母さんがやってくる。
「ならやってみてくれ」とお父さんがいうと、お母さんがお父さんに浮遊魔法をかけた。
そして、なんと綺麗に踊ってみせたのだ。
流石はお母さんだ。
「なんで俺を…」と浮遊魔法がいやなのか、それとも難しいダンスが嫌なのかわからないが、ゲッソリとやつれたお父さんの肩を叩く。
「お父さんお母さん、お腹空いてるでしょ?ご飯食べに行こう?」
「…ん?ああ、そうだな」
それからはやつれた頬を元通りにさせるため、お父さんにたらふく食べさせたり、お母さんの「美味しいわ…レシピが知りたいくらい」という呟きには「それなら私知ってるよ。教えてもらったの」と話すと目を輝かせて喜んだ。
そんな感じで初めてのパーティーというものを楽しんだ私は「あっ」といって両親の元を離れて先生のところに向かう。
足早に近付いた私にすぐに気付いた先生は「楽しんでいるか?」と声をかけた。
「はい、凄く。…あの、お願いがあるんですけど…」
「お願い?言ってみろ」
首を傾げる先生に、私は私が過ごしてきた学園を両親に案内したいとお願いする。
だけど流石に他の学年の生徒もいること、信じてはいるが何かあった時に真っ先に疑われる人物になってしまうこと等様々な理由から断られる。
「…まぁ、寮ならいいぞ。もう卒業だし、生徒が全員出たらクリーニングかけるからな」
「本当ですか!?」
「あぁ、ただ父親がお前の部屋に入るのはだめだぞ。男だからな!」
そういって先生に了承をもらえた私はすぐに両親のもとに向かう。
「待てサラ」
「?どうかしました?」
先生が呼び止めるので、私は振り返った。
え、まさか他の先生にダメだと言われたとか?やっぱり寮もだめとかいうつもり?
だけどそんな心配は杞憂だったみたいだ。
「寮まで距離あるだろ?先生が送ってやる」
「っ!ありがとうございます!」
私は素直に感謝した。
だけど先生のイタズラ心はここにもあり、両親になんの説明もしていない段階で、私と私の両親を転移させる。
あぁ、ごめんねお父さんお母さん。
先生はこんな感じの人なんです。




