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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
学園編~五学年~
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■視点変更



サラが魔物と闘っている間、俺は別の場所からその様子を見下ろしていた。

窓越しだがよく見える。

サラが十分に距離を保ちつつ、魔法を展開している様子を眺め、昨日は自身もあの中にいた為に観察できなかった部分を探し出すよう、注視する。


「……それで、昨日はよく眠れましたか?」


昨日とは打って変わって言葉遣いを改めた男が楽しげに尋ねた。

俺は男の方に視線を向けることなく答える。


「お陰様で」


全く眠れなかった。とは口にせず答えると、男は「そうですか」と言った。


「安心してください。今日からもう一部屋用意させますから」


男がそう言うと俺たちの間には沈黙が続いた。

男は沈黙を気にしていないのか、それとも別のことに関心があるのか、ただ楽しげにサラを見つめている。

まるで俺のことなど興味ないかのようだ。


(まぁ、それはいい)


俺のことに興味を持たないほうがありがたい。

だがその分サラに興味をいだいているような男の態度が気に食わなかった。


監督役としてその態度は正しいものではあったが、この男はサラには不要な人間だろう。


そうだと俺が判断したのは男が後のことも考えずサラに話した内容が原因だ。

男の話はサラが今後実際に魔物と向き合うようになり、遅かれ早かれ感じるようになることだとは思う。

魔物とはいえ命を奪うということはそういうことだ。

だが初めて魔物と対峙する直前に話す内容ではない。

それも話すだけ話しその後はなんのフォローもなく放置するような男の態度が、サラには不要な人物だと判断したのだ。


実際サラは男の話を聞いて困惑していた。

人間を見れば襲ってくる魔物。本能だけの存在と思われていた魔物には感情がある。

だが守るためとは言え果たしてただ戦うだけの選択肢をとっていいのか。

なぜ魔物が人間を襲うのか。

もしそれが本能によるものではなく魔物が持つ感情がそうさせているのだったら、戦う以外の選択肢があるのかもしれない。

サラはきっとそう思ったはずだ。


(アイツは優しいからな…)


本来は男のように自分自身の気持ちを見つけることが正解なのかもしれない。

だがあのときはそんな時間がなかった。

だから俺は戸惑うアイツに俺の考えを押し付けた。

自分自身の答えが正しいなんて思っていない。

それでもサラが戸惑わないよう押し付けるしかなかったんだ。


楽しそうにサラを観察する男に俺は沈黙を破る。


「…随分熱心に見てますね。昨日から…アイツのことばかりみているでしょう」


そういうと男は目を大きく開いて口を開けた。

呆けたような顔に俺はイラつきを覚える。


「プッ!アハハハ!」


何を笑っているのかわからないが、男は大きく口を開けて笑っていた。


「よっぽど彼女のことが好きなんですね!」


男が言った。

涙が浮かぶほどに面白いのか、俺には笑う理由がわからない。


「ええ。好きです」


「素直ですね」


「隠すつもりはありませんから」


本人以外には。


だがこれは俺の本心ではない。

本当は気持ちを伝え、もっとそばにいてもいいか尋ねたい。

だけど身分の差が邪魔をする。

貴族と平民。いや、サラが例えSランク冒険者となり貴族の爵位を与えられたとしても、男女の仲を深めることは難しいだろう。

貴族社会を知れば知るだけ、きっとサラは俺の気持ちには応えてくれない。

そもそもサラが俺を男としてみているのかは甚だ疑問であるが。


「…じゃあ、宿舎の部屋はそのままのほうがいいですかね?」


「……」


そういえば、と何故男がこんなことをいうのだろうと不思議に思った。

まるで俺がサラと同じ部屋になったこと。

そして眠れない夜を過ごしたことを知っているようではないか。


「…プ、嘘ですよ、冗談です。

あれはちょっとした僕なりの仕返しだったんで、もう元に戻しますよ」


「仕返し…?」


俺は男に視線を向けた。

男は俺を見て口角を上げると「疑われるのは好きではありませんから」と言って笑った。

男の真意まではわからなかったが、どうやら俺の言動で仕返しのつもりで宿舎の部屋数を決めたみたいだ。そんなことを決められる力がこの男にあるということだ。


「彼女を見ていたのは本当に不思議だからです」


「不思議とは?」


「聖女様にそっくりなんですよ」


持って生まれた色以外がですがね。と男は言うと続けて「そうは思いませんか?」と俺に尋ねる。

だが俺は男の問いに答えを持っていなかった。

だから素直にわからないと口にする。

すると男は不思議そうに首を傾げた。


「…え?っと…、聖女様の教育担当としてレルリラ家が選ばれてますよね?」


「その件については知ってはいるが、実際に会ったことはない」


「えぇ……」


口端を引きつらせ男が言った。いや、声を漏らすといったほうがいいか。


「……まぁ、いいです。そのうち会うかもしれませんから」


「……」


男は俺と聖女が会うことを見越しているようだが、それも近いうちに現実のものになるだろう。

レルリラ家が聖女の教育をしているということは、聖女がレルリラ家にいるということだ。

学園を卒業したら顔を合わせることになるだろう。


(あのクソ爺が喜んでそうだ…)


権力には目がない人間が聖女という存在を家に招いたとき、どんな反応をするかなんて予想ができる。

教育係りを名目に聖女を利用することだって考えられるのだ。


勿論父上や兄上たちがそうさせないだろうが。


「……そういえば」


男がまた口を開く。

俺はサラを見つめたまま「なんだ」と返事をした。


「レルリラ様は五学年ですよね?卒業では卒業パーティーがありますが、早めにハールさんにエスコート役を申し込んだほうがいいですよ」


好きなら、ね。と片目を閉じて楽しげに男は言った。


「……何故だ?」


「何故って…、ひょっとして平民女性は貴族男性に誘われないとでも思ってるんです?」


「……」


男の言葉に俺は黙り込む。

実際に貴族と平民の身分差を感じているからだ。


「アハハハ!それは誤解ですよ!いや、正解ですが不正解です。

確かに平民を貴族は婚姻相手には選べませんが、学園最後の思い出として行動に出る者はいくらでもいます。実際僕が学生時代もそうでしたよ。

それに本当に愛し合った人達は身分差ももろとはしませんでしたし」


男の言葉に俺は愕然とする。

勝手な考えでサラには男が出来ないと決めつけていたんだ。


俺は男の話途中で魔物と対戦中のサラへと向かって駆け出した。

厳重な扉を開けて、驚くサラに向かって叫ぶ。





「誰とも付き合わないでくれ!!」






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