3 第二王子エルフォンスの事情②
□
「なんだと!?まだ聖女が召喚されていないのか!」
いつまでも聖女が召喚されたという報告を聞かないことに、エルフォンスは焦っていた。
勿論エルフォンスだけではなく、誰もが関心を寄せている事柄だが、エルフォンスは違う意味で焦っていたのだ。
それもその筈。
恋心を寄せているアデラインがアルヴァルトの元に訪問している様子を目撃したからだ。
居ても立っても居られない様子でエルフォンスが訪れた先は聖女の召喚を行っている神殿だった。
神殿の者はほとほと困っていた。
誰もが聖女の力を必要とする中、いまだに召還が成功していないのだ。
何度も文献を見直した。
魔方陣も間違っていないことは何度も確認したし、現在の魔法研究所の者にも目を通してもらい、問題ないという言葉も頂いている。
魔方陣に問題なければ供給する魔力量も問題ないはずだ。
それなのに何故召喚されないのだと困っているところに、第二王子の訪問だ。
ぎゃあぎゃあ喚く第二王子に神殿関係者は頭を抱えた。
そもそも何故神殿が聖女を召喚しようとしているかというと、神殿では聖女の子孫と呼ばれる者たちが暮らしている。
その子孫たちは瘴気の魔物に対抗できるといわれる聖水を生み出しているのだ。
但し作り方は非公開。
作り方を公開してしまうと、効果のないただの水を聖水と偽り販売する者が現れ被害が出てきてしまうことを恐れたからだ。
ならば供給をしっかりと行うことで、聖水の情報を全て非公開にすれば被害にあう者も出ず、そして神殿の収益にも繋がると考えた。
そして聖女の子孫がいるのだから、聖水を作っているのが神殿だから。そんな理由で聖女の召還は神殿で行うようになったのだ。
だが状況は芳しくなかった。
問題ないとされている魔方陣に魔力を流しても発動すらしなかったのだ。
一体何が悪いのか。
魔方陣に途切れている部分でもあるのか、それとも時間帯の問題なのか、それとも…とあらゆる可能性を潰しながら召喚魔法を試していたのだ。
聖女召喚を行うようにと王家から依頼され、受けてから半年が経った。
それでも召喚出来ないで頭を悩ませている中の第二王子の来日である。
しかも事前連絡も無しだ。
あたり散らすかのように喚く第二王子に、神殿関係者はイラついていた。
連絡も無しに唐突に来ておいて、何故無能だと蔑まれなければならない。と。
そして口にしてしまったのだ。
「ならば第二王子殿下のその優秀な頭脳を、私共にお貸しいただけけませんか?!」
と。
ぴたりと罵る口を止めたエルフォンスに神殿側はホッとした。
そして急に踵を返し、戻っていく第二王子の様子に自然と口端があがった。
「さぁ再開しよう。今回は第二王子だったが、業を煮やした他の貴族や王家が乗り込んでくるかもしれない」
そうして召喚魔法を再開する。
□
エルフォンスは王宮までの道のりの間、馬車の中で物思いにふけていた。
こうして何もせずにただただ待つだけでいいのだろうかと。
勿論エルフォンスがなにかを企てていない事を証明するにはなにもしないことが正解だ。
だが果たしてそれでいいのかと、エルフォンスは考えていた。
現在進行形で親睦をとっているアルヴァルトとアデライン。
聖女が召喚されるのならば問題ないと思っていたが、恐らくアデラインは兄に少なからず心を寄せているのではないだろうか。
一方でエルフォンスとアデラインの関係は学園生活中に少し話をするような関係だった。
卒業してしまった今となっては話すらしていない。
勿論彼女はすれ違う際、学園で向けてくれた微笑みをエルフォンスに向けて挨拶をしてくれるが、それだけだ。
エルフォンスも彼女にアピールをしたほうがいいのではないかと、そう思うようになったのだ。
聖女が召喚出来ないのならば、神殿長にも言われた通り第二王子の自分が召喚に携わればいいのではないかと。
エルフォンスはアルヴァルトより劣ると言われてきたが、それでも他の貴族と比べれば優秀だった。
ただアルヴァルトがエルフォンスよりも優秀だっただけで、エルフォンス自身が劣っていたわけではなかったのだ。
そしてエルフォンスは思った。
彼女に振り向いて、そしてもう一度気兼ねなく話すような、そんな関係になる為にはなにかきっかけが必要だ。
それも周りに口出しもされないような、そんなきっかけが。
ならば神殿長が言ったように自身も聖女召喚に携わればいいのではないか。
自分は、アルヴァルトが成し遂げたように戦場の前線に立つことは考えられない。
それならば聖女召喚というのはとてもいい事案なのではないのか。
それに神殿だけで召還を成功させることが出来ないのなら、エルフォンスが加わり召喚出来れば、他の人に認められるのではないかと考えたのだ。
エルフォンスは王宮に到着するなり、父親でもある国王へと謁見を申請した。
国王に意見を求める者、承認を貰う者、援助を願う者、様々な理由で毎日のように多くの人たちが訪れているのを知っている。
だからこそ実の親子であるが、父親でもあり王でもある男性に謁見できるよう申請を行った。




