第46話 疑心暗鬼
人の作り出した創造物は素晴らしい。悲劇を選ばなければ、大体はハッピーエンドで終わる。拡張されたゲームの中で自分はその登場人物の一人だ。頼もしい仲間と一緒にどんな困難も乗り越えて最後は感動的なラストが待っている。
だから彼らとなら最高の人生を終えられる。何度自分の肉体を忘れたことか。ゲームの中と現実の境界線が曖昧になり呪文を唱えれば魔法が発動すると本気で信じていた時もある。歩いていると敵が急に襲いかかってくる感覚も味わった。けれど何一つ実現はしない。それでも良い。麻薬で錯乱したような曖昧な思考は理不尽な現実を麻痺させてくれる。
乃木ヤスヒコは久々に孤独な時間を得た。ゲームと言う逃げ場を失い、多少は混乱してるものの当初よりかは冷静だ。容疑者かも知れない彼を部屋に招き入れて現場検証の真似事をする。
「ルームメイトはコグレくんだっけ?部屋には居ないんだね」
寮の部屋は基本的に2人部屋だ。ルームメイトであるコグレは他に仲のいい友達がいていつもそこに居る。消灯時間まで帰ってこないことが多い。いつも部屋に篭ってゲームをしているヤスヒコにとって都合のいい間柄だ。
コグレは同じ部屋であることで容疑者の1人である事は容易にわかるが盗むチャンスは少ない。それに今まで隠し通してきた自信がある。ヤスヒコはそう言って別の可能性は考えられないと頑なだ。
「とりあえず、コグレくんが帰ってくるまでここで待つよ」
「え?…あ、うん…」
何か都合が悪いのだろうか。彼がこの部屋で待つこと自体に問題はない。コグレの椅子を借りて座る。あまりにも冷静だ。他人事と思っている節もある。ヤスヒコはその大人を気取った冷静な対応がむしろ鼻につく。まるで自分が駄々をこねているだけだと言わんばかりだ。
「君は冷静だね。ここでコグレくんを待っていても仕方ないよ。だって、彼の持ち物に僕のゲーム機はなかった。申し訳ないけど探させてもらったからね。だから次は君の番なんだよ」
とても流暢に話すのはゲームの話題になったとき以来だ。興奮すると本性を見せる。そう言うタイプだと彼はヤスヒコを見た。そして事件現場を見せたから後は「君の部屋を調べさせてくれ」そう来た。もちろん彼に断る理由はない。
「なるほど、僕の部屋にあると思っているんだね。良いよ。すぐに行こう」
その堂々とした態度がヤスヒコを混乱させる。もっと動揺して良いはずだ。何故、そんなに冷静で居られる。心の中でそう叫ぶ。これで本当になかったらいよいよ。希望がなくなる。帰ってくると信じられるうちは心を強く保てるが何処にも無いと知ったら…。ヤスヒコはそう思い動悸が激しくなる。
そして彼の部屋に着いた。中にはルームメイトのオニシがいて勉強をしていた。
「 おかえり…あれ?珍しい。お客さん?」
入って早々に揶揄われる。彼は少し苦笑いになり話を誤魔化した。
「ちょっと探し物があってね。ヤスヒコくんの持ち物が僕のところに紛れ込んでいるかも知れないんだ」
そう言うとオニシは「ふーん」と興味を無くしてまた勉強を再開した。
そしてヤスヒコは念入りに彼のベットや鞄などあらゆる所を探す。その様子には流石に引く。容赦がない。荷物がほとんど無いのが救いだ。ひっくり返してまで探す必要は無かった。けれど、とうとうゲーム機は見つからない。すると白羽の矢は当然、ルームメイトに向く。
「君たちまさかグルじゃ無いだろうな!どうなんだ!!」
興奮している。冷静さを失いかけている。そのなふうに言われては勉強どころでは無い。オニシは何のことか説明をお求めた。
「グルってどういう意味?探し物を俺たちが盗んだってこと?」
「そうだよ!僕のゲーム機を盗んで2人で隠して僕を馬鹿にしてるんだ!そうなんだろ?!」
すると彼が間に入ってルームメイトを守る。
「オニシくんは何も知らないよ。これ以上の詮索は許さないよ」
「ズルい…。ズルいぞそんなの」
ヤスヒコは被害妄想に思考を奪われていた。冷静な判断が付かないようだ。そんなとき、オニシが何かを思い出す。
「ゲーム…。そう言えばアツシの奴がゲームにハマってるって聞いたけど…多分違うかも知れないけど聞いてみる」
「え…」
アツシはコグレが入り浸ってる部屋の友達だ。何かが繋がりかけている。そんな予感がした。けれどヤスヒコにとってそれは良くない事であった。強気でガタイが良く。クラスではいつも男子から一目置かれる存在がアツシである。いわゆるジャイアン的ポジション。とても良くない事が起きると予想された。




