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第44話 疑惑


 教科書と擬似ノートでカモフラージュし、誰も気付かない。ヤスヒコはしばらくゲームをしまくると心に決めている。その為だけに猛勉強し、両親が望んだ通りの進学校に入学したのだ。誰も僕を止める事は出来ないと本人は思っていた。


 けれどそこに捩じ込むようにしてある男が割り込んできた。少し迷惑な素振りを見せても彼は定期的にヤスヒコを訪ねた。


 「おはようヤスヒコくん。今日も一緒にどうかな?」


 朝の食堂で鉢合わせる。登校時間が同じならば、大体の寮生は同じ時間に朝食を食べるものだ。


 「おはよう…良いよ」


 二人に何か特に会話があるわけでは無い。彼は常に自分の感想を述べるばかりだ。ヤスヒコはまるでそのままでいる事を望まれているような気分だった。


 「今日も健康的なメニューだったね。アレを毎日食べたら病気になりづらいかも知れない」


 どういう意味なのか。皮肉なのか。ヤスヒコは「はぁ…」と理解できない素振りを見せた。味が殆どついていない温野菜に味噌汁にご飯。正直この時期の男子にとっては苦痛でしか無い朝食である。この学校は何を考えているのかとすら思う寮生が殆どだ。


 学校へと二人は一緒に歩いていく。相変わらずたわいも無い話題を彼がヤスヒコに言うだけの関係。そしてヤスヒコを煽り立てるワードがゲームであると知っているにも関わらず、あの日以来その事を一つも話そうとしないのだ。可笑しな男だ。どうして自分に関わろうとするのか不思議でならなかった。ヤスヒコは溜まりに溜まった思いが遂に溢れ出た。とうとう悩みの種を打ち明ける。


 「君はどうして僕に付き纏うんだ?」


 それを突然投げかけられた彼は少しキョトンとした後、その言葉に和かに答える。


 「迷惑だったかな?それならゴメンね。ヤスヒコくんが寂しそうにしてたから、僕に出来ることしたんだ」


 ヤスヒコはその物言いに犯人の尻尾を掴んだかのような気持ちになり、自分の解釈を彼にぶちまけた。


 「寂しくなんか無い。僕は好きで一人でいるんだ。君のそういういい人ぶったところが…気に入らない。偽善者だよ君は…」


 興奮したのか息が荒い。言ってしまった言葉は消す事が出来ず。手が震えている。けれど彼にならこんな事を言っても大丈夫なような気がした。少しの間が開く。彼はじっとヤスヒコの目を覗き込んだ。やはりそれはすぐに逸らされてしまう。そしてようやく口を開く。


 「僕に不信感を抱いていたんだね。それは申し訳ない。けれど安心してくれ。君の気持ちを聞けたからこれからは君を尊重するよ。気が向いたときにでも話しかけてくれ」


 乃木ヤスヒコは物凄い損失感に苛まれる。そして根拠のない恐怖が襲いかかってくる。彼の友好の幅を考えると今後、とんでもない嫌がらせとイジメが始まりそうな予感がした。けれどしばらく経ってもそんなことはなく平穏な毎日が過ぎていく。


 そしてある日、事件が起きた。部屋に隠してあったゲーム機が一式無くなったのだ。すぐに頭をよぎったのはルームメイトの一人。そして一時期絡んできたあの優等生である。少なくとも自分がゲームをやっていることを知っているのは彼だけだ。夜な夜な隠れてやっていたため他にバレたとは思えない。ルームメイトにさえその姿を見られていないはずだ。ヤスヒコは悩み、生きがいを無くした。絶望である。そして気付いた。誰にも相談できないことに。


 被害を打ち明ける事が出来ず、数日が過ぎる。何も手につかず、屍のように生きる。今まで完璧だったはずだ。寮に入って親の目を気にせずゲームが出来る。それが叶ったと言うのに酷過ぎる。下校時間になりヤスヒコは力無く立ち上がった。そして同じようタイミングで彼と目があう。無性に腹立たしくなった。ずかずかと歩み寄り彼に言う。


 「ちょっと話がある。一緒に帰ろう」


 突然のことで彼は慌てる。他のクラスメイトも見ている。すると名前も知らない男子の一人が言う。


 「良いよ。話してきな。俺は別に今日ってわけじゃないから」


 「ありがとう」


 彼はお礼を言った後、ヤスヒコの方を振り向く。


 「じゃあ久々に一緒に帰ろう。何でも話して」


 ヤスヒコは拍子抜けしていた。彼が盗んだかもしれないと疑っては見たもののそんな素振りがしない。勘違いかもしれないと疑心暗鬼な気持ちで歩を進めた。背が頭一個分違うせいかその背中から威圧感を感じている。いつ話が切り出されるのか無言でしばらく歩く。そして遂に決心がついたようだ。


 「君が盗んだのか?」


 「え?!」


 急な疑いに彼はまたもや調子を狂わせる。こんな表情も出来るのかと感心を持ってしまう。けれどそれを振り払って更に問い詰めた。


 「僕のゲーム機が盗まれたんだ…君しか知らないはずなんだ」


 彼はそれを聞いて何かを考え始める。そして彼と出会った本当の意味で知ることになるのだ。


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