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第43話 客観


 僕はクラス全体を見渡す。廊下で個別に話をする者。教室の後ろで戯れる者。誰かの席で輪を作り話をする者。それぞれのグループには個性があった。そして気づく。自分を観る謎の視線に。そこに目を合わすと必ずと言っていいほど目が合う。和かに笑いかけられる。気持ち悪い。注目されている。いや、これは僕の主観だ。人間は主観で物事を考える生き物だ。けれど知性で相手を客観的に見る能力が備わっている。だから相手がそう思っているとは限らない。ただ…何かが始まっているのは確かである。


 僕以外にも孤島に取り残された難民がいる。僕を定期的に見るその目の持ち主だ。そして情報収集のためそのクラスメイトを観察した。彼は背が高く、しっかりと背筋を伸ばし姿勢が良い。爽やかでザ・優等生なイメージ。そして本を読んでいる場合が多い。僕が中肉中背でメガネで癖の強い天然パーマがトレードマークである事を除けばほぼ僕である。ただ決定的に違うところがあるとすれば、彼の元には定期的に人が集まるという事だ。


 彼はこのクラスのご意見版。僕は正直そこに虫唾が走っている。偽善者のような物言いに吐き気がする。けれど周りはそう思っていないらしい。何故なのかわからない。こんな気持ちは国民的アンパンヒーローを目の当たりにした時以来だ。何故か裏があると決めつけてしまう。今のところボロは出ていない。けれどいつか必ず人間関係で問題を起こすと確信してしまうのは何故だろう。そしてそれを一番に望んでいるのが僕である事を僕が一番に知っている。


 彼をもっと観察する。気になって仕方がない。授業中に視線は下を向き教科書を見ている。ノートとは別にバインダーを持っている。そこにA4用紙を挟み込み何かを書き込む姿が度々見受けられる。受験勉強の延長戦のような意気込みだ。全身から漂う本気のオーラ。そのおかげか僕と同じようにどのグループに所属する事はない。


 そんな彼に長いこと視線を送っているとチラッと目があった。笑いかけてくれる。僕は不覚にもドキリとした。少し嬉しく思えたのは何故だろう。いつか彼と話す日がやってくる気がしていた。僕は思った。彼から何か学べる気がする。別々の孤島に住む者同士。何か共通点があるはずだ。彼を客観視する事でその原因を知ろうと僕は考えた。最初のキッカケはそんな感じだった…。


 入学早々、色々と目立つあの超優等生が自分を見ている。乃木ヤスヒコは擬似ノートにゲームの攻略データを書き込んでいた。その手が止まる。それは本来、至福の時である。にも関わらず今しか無いと身構えた。


 何故なら今は選択科目であり、席は基本自由だ。けれど彼はヤスヒコの隣に座った。そして握手を求める。


 「ヤスヒコくんだっけ?よろしくね」


 とても爽やかな切り出し方だ。並の訓練を受けていない。コミュニケーション上級者のような振る舞いだ。


 「え?あ、う、よろしく…」


 それに対してヤスヒコは無様だった。普段はスリープモードにしている声帯を再起動させるのに時間がかかったのだ。まるで喉の調子が悪いかのように咳払いをしてアピールするのが精一杯の言い訳だ。けれど彼は気にしている素振りもない。


 「ヤスヒコくんも寮でしょ?今日は一緒に帰ろうよ」


 まさかのお誘いだ。パニックである。何を企んでいると言うのか。他にもっと仲の良い友達がきっと居るはずだ。それはヤスヒコにとって謎の出来事であった。そして放課後、彼は本当に迎えに来た。


 「行こっか」


 「う…うん」


 たわいも無い話が彼から一方的に話される。ヤスヒコは心を開かない。「うん…」と言って話を終わらせてしまう。それでも彼は終始、和かに笑顔だ。個性が違いすぎる。傍目からは見慣れない組み合わせに見える。そして遂に興味を引くワードが出た。


 「最近は僕らと同年代でもお金をいっぱい稼いでいる子が増えたね。ゲーム実況とか…」


 「ゲーム実況…」


 ヤスヒコの目が変わる。何かに火がついたようだ。


 「それはいかがなものかと。そもそもゲームと言うのは一人で黙々と実績を積み上げて少しずつ攻略法を見出していくのがその醍醐味で、あんなのはゲーマーのフリをしてただそのゲームの表面しか見てない!そもそも…」


 急にスイッチが入ってしまう。下手な鉄砲も数撃てば当たるとはこの事か。何処に人の興味があるのかはわからないものだ。立場はスッカリと逆転し、彼が聞き手に回る。ヤスヒコは水を得た魚のようにペラペラと話し始めた。それは独断と偏見で塗り固められた何ともお粗末な価値観で側からは聴いてられないがそれでも彼は笑顔を絶やさず言葉の感情に寄り添うのであった。


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