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第40話 壊れたブレーキ

 

 複数の男子が彼を質問攻めにしている。彼は聞き手に徹しとても大人な対応に勤めている。やはり他の男子とは違うようだ。花井ミツキはそれを眺めるだけだ。入り込むチャンスがあれば良いのだが第一印象の破壊力により彼女を含め殆どの女子が手をこまねいている。けれど離れた先でも彼の話題は尽きない。このクラスは未確認生物に出会ったかのような好奇心でいっぱいである。けれど目を離した隙に彼はすぐに教室から姿を消す。何処へ行くと言うのだろうか。彼女は新しい友達グループを焚き付けてその跡を尾行する。


 遊びの延長線である。悪気はあるようでない。ケラケラと笑いながら探偵にでもなった気分で彼らは追いかける。男女混合のイケてるグループの地位を確立する事を期待して集まった集団だ。この日本でも見えないスクールカーストが存在している。その地位が機能するかしないかではない。思い出の中で自分がイケていたか、そうで無いか。そこに学生としてのアイデンティティが彼らの中に存在している。普通ではいられない。だから目立つモノにアンテナが立ってしまうのは必然だった。


 「おいおいおい…ちょっと良い感じじゃん…」


 一人がそう呟いた。髪型が慣れないワックスでパキパキである。それが物陰からコソコソとボヤいた。その視線の先には同じクラスの地味でメガネでポニーテールの女子。名前を思い出せない。けれど一緒にいるのがあの話題の男である。断然興味が湧く。未だあの男子の正体を掴んだ者はいない。彼の身元に関する情報には高い価値がある。そして聞き出そうとした者は決まって立場が逆転するのだ。


 聞き出す側から聞いてもらう側にいつの間にかなってしまう。何でも話している内に問題に決着が着くのだ。不思議な現象である。今では彼に相談すると何でも解決できると言う噂が立ち始めている。まだその流れに火は付いていない。けれどこれからは学校内にとんでもないブームが勃発しそうな予感である。今のうちに仲間にしてそのカリスマ性を利用したいと言うのが彼らの動機だ。


 けれどまだ出会って間もないこのグループはイケてる風の集まりであり探り合いの真っ最中だ。今は声のデカい花井ミツキがリーダーのような立ち位置にいるが状況が変わればまた違う者の意見に流されるだろう。側から見れば微笑ましい光景である。それでも彼らは今を必死で生きている。


 「もう付き合っちゃってんのか?…早…」


 男子は脳天気にケラケラと笑い合う。色恋沙汰ほど盛り上がる話題はない。特にまだ女の子と付き合っていない者にとっては刺激が強いのだ。そう言った雰囲気に持ち込みたいと野郎共は思い、気を引いている。けれど女子は気が気じゃない。この場で一番の色男は間違いなく向こうの花壇で花の手入れをしているあの男子だ。そんな彼と抜け駆けしていつの間にか仲良くなっているいけ好かない女が側で笑顔を振りまく、楽しそうに談笑している。そんなピリついた空気の中、花井ミツキは言った。


 「ちょっと男子は黙って…」


 そこでようやく状況を飲み込んだ。男子の中にゴリゴリのヤンキーがいた場合こうはならない。幸運にもここは進学校だ。曲がりなりにも偏差値の高い生徒が集まる。高校デビューで多少背伸びをしているが、元はガリ勉族。根は小心者だった。そこそこ気になっていた女子に「黙って」と言われれば、そのセリフが永遠の如く耳にリフレインする。言い返す気持ちの前にショックが大きい。それを知ってか知らずか彼女は続ける。


 「ちょっと感じ悪くないあの子…。てかアイツ小学校の時、同じクラスで虐められてた奴だし…。てか…なんか調子乗ってない?」


 そのセリフはYES以外の返答を拒否している。高圧的で怒っているのは明らかだ。何か嫌な予感がしている。まるで軽犯罪に手を染める前の危険な匂い。イジメの誘いを受けている。そう勘づくぐらいの知能は備わっている。けれど断ればどうなってしまうことか、このグループに信頼関係はない。先に動いた者に票が集まる。そして票は動く。


 「うんうん」と一人の女子が頷いた。「へ?何が?」ととぼける弱気な男子。明確に拒否権を行使できる勇気ある者はこのグループにはいなかった。そんな風に混ざり合わない付け焼き刃の友情に統一性はない。するとそのうちの一人がテンション上げながらポケットから何かを取り出した。皆が優等生とは限らない。勉強は出来るが知能指数が低い者が紛れ込んでいる。若しくはサイコパスが少し高い部類の人間だ。


 「ジャジャーン…。良いモノ見つけたぁ」


 ここに来る途中で拾った剪定鋏だ。落として行ったのだろうか。けれどそんな事は今は関係ない。犯罪の匂い。後には引けない反社会的な誘惑。勢いだけの若い少年少女にこの場でブレーキをかけるだけの勇気さえあれば状況は随分と良くなっていたはずだ。けれど残念ながらそうはならなかった。


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