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第39話 犯行


 彼女、花井ミツキは至って普通の女の子だ。この年齢まで普通に生きてきた。そして高校デビューを果たし、遂にJKというプレミアムを手にする。その時がやってきた。テンションは爆上がりし、何かが始まりそうな予感がするのは彼女だけじゃないだろう。


 きっとこの3年間で彼氏が出来る。いや、数ヶ月の内に作ってみせる。そう意気込んでいる。けれどそんなに高望みをするつもりはない。学生時代の彼氏と結婚出来たら最高だが…受験勉強が始まったら結構な確率で別れると聞く。だから彼女はそうやってある程度、謙遜している気でいた。


 しかし理想は違う。誰もがそうだろう。つまらない大人になるぐらいなら少し高望みしても良い。もちろんイケメンは大好物だし、高身長なら尚更申し分ない。欲を言うと可愛い系が好きだ。しっかりした性格だけど、何処か抜けたところがあると最高である。守ってあげたくなる母性強めなのが彼女の個性だ。


 そして理性とは裏腹に彼女は妄想の世界で最高の彼氏と付き合う夢をみる。それは日常茶飯事だ。暇を見つけてはそれが頭の処理能力を圧迫している。この年頃になるとその症状は余計顕著に現れた。それは歳を重ねる毎に具体的になる。もしかしたらという期待は薄くなり所詮は妄想だと思うところもあるが、まだその想いを捨てきれずにいた。


 人間とは哀しい十字架を背負っている。夢を大きく持つと未だ見ぬ未来へと頑張る事ができるが期待はずれが続くと反動で立派な大人へと成長するものだ。だからもうお姫様になる夢はとうの昔に捨ててきた。現在では少しマイナーチェンジしてお姫様のような恋をしたい。その辺りで手を打っているのだ。


 そしてある日、彼女の前にその男子は現れた。学校説明会の時もいた。自分のことで頭が一杯になっていても記憶に焼きついた。少女漫画出てきそうな雰囲気を醸し出していた。パキッと爽やかに歩いていくその姿は映画のワンシーンだった。


 後に知る事になるが彼は高校受験でトップの成績を叩き出し、首席入学した期待のホープである。新入生代表あいさつで堂々と話す様に緊張の色は見えない。自分達とは何かが違う。彼女はそう思わされた。それも中々に可愛い顔をしているではないか。身長も180はあるだろうか。伸び代しか感じない。半開きの口を注意されるぐらい夢中になって観ていた。そういう女子が大半だった。


 事件はそれだけではない。彼は教卓の一番前の席に座っている。担任に熱く直談判したらしい。その噂は生徒全員が知っている。職員室が騒ついた。勉強熱心な生徒は前の席に座りがちだが入学して数日でそれを希望する者は少ないだろう。けれどその言葉に感動した担任の先生は快く認めた。席を譲った男子生徒も歓喜した。何故なら窓際の後ろの角と入れ替わってくれると言うのだ。誰もが正気を疑うだろう。自ら進んで先陣に立つ猛将の如く偉大に見えたとか。


 そしてクラスメイトが順番に自己紹介していく中、遂に彼の番が来た。立ち上がり後ろを振り向いたとき、皆に送る視線には絶大な破壊力があった。様々な心境からフィルターもかかっていたのだろう。散弾銃の流れ弾で心臓射抜かれた女子は後を絶たない。その時に感じた異様な空気。女子による戦いのゴングがその瞬間鳴り響いた。誰もが彼の言葉を固唾を飲んで待つ。そして彼は自己紹介を始めた。それはとても変わった名前で直ぐに覚えた。出身地も聞いたことがない。少し謎めいていた。その後に言う言葉で皆は絶句する。


 「僕は25歳までに会社を立てて社会的自立を目指しています。まだまだ未熟者ですが。日々精進して参ります。よろしくお願いします」


 深々と頭を下げた。クラス中がザワザワと騒つく。よくわからない奴がきたと。会社を立てる?社会的自立?雰囲気が変わっているとは思っていたが、考え方も変わっている。彼女はそう思った。けれど何故か彼を私の王子様というカテゴリーにどうしても入れてしまう。それは遥か遠くを観るその真っ直ぐな視線だった。


 きっと将来は大物になる。とんでもない事を平気で言った姿も凛々しく、お辞儀の所作も洗礼されている。仕上がっている。全く気後れせず顔を上げる瞬間に一瞬見せた強気な眼差し。立ち振る舞いや仕草、そして言葉遣いにも育ちの良さが出ている。きっといいとこの坊ちゃんだ。そう思わずにはいられない。


 彼の事をもっと知りたいと思うのは必然だった。担任が眼の悪い子は前の席の人と交われると立候補者を募った時、彼女は一目散に手を挙げた。周りを観るとそのライバルの数に肝を冷やす。けれど彼は絶対に私のものだ。そんな歪んだ恋心が花井ミツキを狂わせた。


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