第36話 決意
自信に満ち溢れた。確かな時間が僕を揺るぎないものとした。時間だけが有限だ。それをこの年で明確に気付けたことは僕の最大の叡智となる。人生をカテゴリー別にするなら、家族と友人と仕事と健康だと僕は学んだ。
まだ学生でしかない僕は仕事をしていない。だからその分だけ時間にボーナスがある状態なのだ。そのかわり学校の勉強がそこに入るだろう。思い描いた夢を叶える。そのためには費やすための時間が必要なのだ。それに関係しない事は全て断るか、やらないかを選択しなければならない。
けれどこのカテゴリーのうちあと1つを削らないと夢は叶わないと言われたらどうするか。家族を削る事はもう僕の選択肢にはない。父さんと母さんが支えてくれているから今の僕があるのだ。そして健康も論外だろう。僕が持つ最大の資産は僕自信だ。全ての選択と実行は僕から生まれてくる。体を壊してまで頑張るのは間違っている。そして学ぶ事こそが今の僕が手に入れられる最大の武器だ。そのために時間を大切にしたいと思ったほどだ。
ならば残されるのは後ひとつ、友人である。僕の筆はそこで止まった。これからの目標とスケジュールをノートにまとめている最中だった。本で学んでこのノートで実践する。それを日課にしているのだ。だから4つのカテゴリーのうち3つに丸をつけて納得する。けれど友人という文字にバッテンをつける以外に方法はない。動悸が激しくなる。
果たしてコレは正しい選択なのだろうか。トモちゃんと縁を切る事が果たして出来るのだろうか。以前のような交流は確かに無くなった。僕と彼女が一緒に過ごさなくなってから、家族間の交流もなくなった。もちろん仕事での関係は続いている。けれどプライベートでバーベキューをする事はめっきりなくなったし、トモちゃんとは学校でしか合わない。そこでも必要な会話しかしなくなった。お互いに避けあっている節もある。だから間違いなくバッテンをつけるならここなのだ。
僕はノートの最初のページに戻る。そしてそこに書かれた文を読み上げる「25歳までに東京で会社を設立し軌道に乗せ社会的自立を果たす…」それが僕の夢だ。
まだまだザックリとしている。何の会社を設立するかも決まっていない。けれどコレが今の僕の精一杯だ。だからできる事は全部やろうと決めている。その一つに僕は手をかけた。友人。すると…トモちゃんの顔が脳裏に浮かんだ。バラのように美しい彼女の笑顔が堪らなく好きだった。正直今も好きだ。けれどそれはもう、僕のものじゃない。
それにバッテンをつける。手が震えた。妙に力が入った。二つ目の斜線を描き終えると、途端に鉛筆の芯がポキッと折れてしまう。それと同時に僕も心の何処かで何かが折れる音がした。けれど僕はそれを無視して湧き上がったモノにそっと蓋をする。それを心の何処かに厳重に保管した。すると目の前が一気に開けた。やりたい事だけにフォーカスする。それ以外は全て断る。その覚悟が全身に込み上がってくる。絶対にやってやる。そんな根拠のない自信だけが後に残された。
それから時間はあっという間に過ぎた。家族と学校。それ以外は全て勉強に打ち込んだ。テストでいい点を取るための勉強じゃない。人生に必要な最先端の情報と価値観。そして普遍的な概念と成功者達の共通点をとことん調べ上げた。興味が出たテクノロジーについても満足するまで勉強した。毎週のごとく図書館に通い、資金は農家の手伝いをして稼いだ。それでも8時間の睡眠は必ず確保した。
そんな生活を続けていると、周りの視線が変わってくる。今まで村での頼み事は何でも請け負っていた。とても良い子だと誰もが褒めてくれていた。そんな子がある日を境に何でも断るようになる。ダンスケ先生の言葉を思い出す「嫌な事も一生懸命で何になる」。それが今更ながらに胸に響いた。
村の大人達は口を揃えて言った「アイツも反抗期が来た」と。父さんと母さんには肩身の狭い思いをさせた。本当に申し訳ない。けれど当然の如く僕は発表資料を作り、父さんを説得した。最初は受け入れ難い事だったと思う。
「それがお前のやりたい事か…ならばやってみせろ」
その強烈な眼差しを忘れはしない。この時、父さんも覚悟したのだ。それがどんなものだったかは知る事はできない。ただそれ以来、祭りごとや運動会などのイベントは全て僕の耳に入らなくなった。正確には聞こえていたが、直接言ってこようとする人を父さんが前もって話をつけてくれていたと言う。母さんも納得していない者の一人だったが、それも何とかしてくれた。
そんな支えもあり、あっという間に中学3年生になる。高校受験が迫っている。重要な分岐点だ。ここでの選択がのちに重要な意味を持つ。それでも僕が目指す進路に迷いはないのだった。




