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第34話 気分転換


 田舎の環境は自然とは言わない。僕はふとそう思った。キャンプの為に向かう施設も本当は自然ではない。人工的に整備されて調整されている。イメージされる楽しさが全て作り物のように思える。誰のものでもない手付かずの自然などこの世界にあるのだろうか。そんな下らない事を考えながらぼーっと窓の外を眺めていた。


 山道をクネクネと走り、何度も何度も等間隔に植えられた樹木が視線を通り過ぎていく。これも人の手が加わっている。木材にする為に植えたのに何故か多過ぎて消費しきれず余って放置されていると本で読んだ。林業の実態を暴くようなその警鐘は僕の影響範囲内にない社会問題だ。だから知らないふりをして瞳を閉じる。


 問題だらけだ。僕もこの世の中も。まるで僕だけが一人ぼっちに感じる。孤独だ。けれどそれも主観に過ぎない。みんなもそうだ。村は自分達の死を目の当たりにしながらそこから目を逸らすように目の前のどうでも良い問題に注目が集まる。人間はそう言う生き物らしい。自分に大きく影響する問題を目の前にすると人は小さくてどうでもいいことに視点が向いてしまう。ストレスをぶつけ易い方向を向いてしまう。だから跳ね返ってこない。積極的に傷つけてこない関心の輪を攻撃して一時の悦に浸ろうとするのだ。


 「ほら、もうすぐ着くよ。そろそろ起きなさい」


 「…うーん」


 眠ってはいなかったけれど、寝ていたふりをした。その方が自然だと僕が選択した。そんな必要はないのに、親子なのに。何だか心が騒つく。どうしようもない漠然とした不安が何度も僕を襲う。コレが思春期なのだろうか。何故か反抗的にそれを否定したくなった。誰かのせいにしたくなった。


 僕を勝手に振ったトモちゃんが悪いと、秘密をバラしたトモちゃんが悪いと、何もかもを裏切ったトモちゃんが悪いと。そんな考えは主体的じゃないと心の偉人達は僕に注意する。原則に反すると。けれど頭でそうだとわかっていても心が言うこと聞かないのだ。再び込み上げてくる。止める選択が出来ず、涙が溢れてきた。寝たふりをして寝ぼけたふりをして家族の視線からそれを隠す。目的地に着いて車が完全に停車するまでに何とか治めることが出来た。少しスッキリした。


 「よーし着いたぞ。とりあえず受付に行ってくる。荷物を下ろして置いてくれ」


 「はーい」


 父さんが受付を済ましている間に母さんと僕は黙々と車からテントや椅子やバーベキューコンロなどの入った入れ物を順次下ろしていく。無になる。そうしないとまた何度もあの苦しみが襲いかかってくる。彼女の笑顔が脳裏に浮かぶたびに掻き消す。それが僕の全てだったから心の大半を占めていたものが没かり空いてしまった。それを埋め立てようと凡ゆる知識を流し込んだ。けれど底なし沼のようにどこまでも沈み、からっぽであった。


 「楽しみね。川遊びも釣りも出来るらしいよ。アンタ釣りやった事ないでしょ?お父さんは上手よぉ」


 父がかつてどんな趣味を持っていたか何度か聞いた覚えがある。けれど釣りのことは初耳だ。そんな一面もあるのかと何気なしに思った。長い付き合いでも話さなければ隠し通せるのか。親であってもそうなら、他人はもっとそうだろう。トモちゃんのことを全てわかった気でいた。それは思い込みだったのだ。たった3年ちょっと一緒に過ごしただけで彼女の何もかもを知ることなど無理だと客観視すれば納得がいく。


 けれど短い仲のはずなのに小学生の三年間は永遠に感じるほど色濃く、ずっと昔から一緒にいる気にさせた。もう絶対に離れることは無いと、一生を共にすると、全てを捧げてもいいと、そんな気持ちになっていた。


 「アンタお父さんそっくりね…。自分で決めたこと何も言わないんだから。でもね…我慢しなくて良いんだよ」


 母さんは突然僕を後ろから抱きしめた。久々の感触。以前はもっと大きく感じた。けれど今はもう身長が頭一個分しか違わない。啜り泣く声がする。母さんは泣いていた。僕も止まらなくなった。その態勢のまま何か通じあったような気がして思う存分涙を流す。そして気付く。家族は僕の影響の輪の中に入っていたと。だから僕が苦しんでいると家族も苦しいのだ。それすらも主体的に選択を迫られているのだとすれば、間違いなく家族は僕が幸せにするべきだと思う。


 だからまずは幸せに出来るだけの力と知識を身につけよう。僕は何処か吹っ切れた。偉人達には怒られてしまうかも知れないが、まだ僕は家族か誰かに依存してしまうらしい。社会的に自立するまでもう少し待っていてほしい。そうしたら出来る気がするから、みんなを幸せに出来るかも知れないから。


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