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第30話 図書館


 歴史のあるこの建物は国の指定文化財になってもおかしくない程だそうだ。木造で当時の姿を今でも維持し続けているのは奇跡なのだとか。詳しいことはわかっていない。そのせいで奇妙な噂が幾つも立っている。


 何度も増築を重ね迷路のようになった間取り。数多くの立ち入り禁止区域。所有者が国の財界を牛耳る巨大企業であること。その全てがゴシップのネタになる。


 そして極め付けのカラクリ。数ある本棚の中にそう言った細工がなされた不思議な仕掛けがあるそうだ。警備員にバレないようにコッソリとその謎を解いた人がいるとか…。その中には日記が入っていたという。


 けれどその内容は脈絡がなく。何を意味しているのかは人によって解釈が変わる。見事それを図書館の外に持ち去ることに成功した輩はインターネットでそれを見せびらかし警察沙汰になった。その時に流出した画像。日記のページにはこう書かれていた。


 (迷宮の蔓、急ぐがよい。そうでなければ悲劇を産む。命を大事にせよ。蕾が咲いたら振り出しに戻れ。それが賢明な判断だ。)


 意味不明すぎる。その投稿者は炎上しネットの凡ゆるSNSを賑わせた。それ以来、カラクリ目当てに訪れる人が増え。一時期はお茶の間で話題にならない日はなかった。歴史があり、謎を多く持ったこの図書館を研究し始める学者が現れるぐらいだ。みんなネタにする。ワクワクがそこで待っているのだ。しかし警備が厳重になった今は極めて平和である。


 そしてそこは幸運にも村から電車で行ける。ちょうど隣街にあるのだ。若いカップルがデートプランに加えることは珍しい事じゃない。不思議な体験を求めて訪れる人は多い。


 「すごーい!おっきいね!」


 「うん。雰囲気あるね。面白そう」


 姫は大はしゃぎである。僕も嬉しくなる。まるで冒険に出掛けるような気持ちだ。サイボーグのように固まる警備員に監視され館門を通る。身が引き締まる。そして暫く歩いて施設内への自動ドアが開く。木造ならではの古い木材の香りがする。僕らの校舎と同じだ。


 「私たちの学校と同じ匂いがするー」


 「確かに、親近感あるね」


 天井が高く吹き抜けでシャンデリアの光が降り注ぐ。とても豪華で重厚感があった。床はワックスがけされたばかり。そう思えるぐらいに艶々だ。眩い光沢を放っている。ゴミ一つ落ちていない。埃もなく掃除が行き届いている。とても好感が持てた。


 そんな広い廊下を進んだ一番奥。そこに立ち入り禁止と書かれた看板と、凛々しくガードする警備員。何か貴重なモノがその先にある。そう言わんばかりに硬い雰囲気を放っている。その先を観てみたい。そんな誘惑に駆られるが変な動きはしない方が良いだろう。


 「なにもかも高級感が凄いね。傷つけたらヤバそう」


 飾ってある壺や装飾品、絵画などどれも値段が高そうなものばかりだ。壊したらヤバイなんてモノじゃない。破産する。そう心に警鐘が鳴った。萎縮してしまう。


 「うん…」ゴクリ。


 そして唯一入れるのは大図書館室だけだ。その門を潜ると視線の先に本が聳え立っていた。


 「これは凄い…」


 言葉を無くす。高い天井まで伸びる本棚。中二階へと続く階段とそれをグルリと囲む廊下。何処までも広い。お目当ての本を探しているうちに迷子になりそうだ。所々人だかりが出来ている。バスツアーの団体客だ。もはや図書館というより博物館である。


 展示されている本も最近の流行りから、物凄く古いモノまで年代の幅が広い。どの層の人が訪れても読みたくなる一冊がどこかにありそうである。そして一区画に雰囲気のあるモダンで新しいスペースがあった。最近できたばかりなのかもしれない。そこからコーヒーの芳しい香りが立ち込めて心を落ち着かせる。


 「カフェだ…。本当にあった」


 「うん…」


 僕らは声の音量を下げながらも興奮していた。目を爛々にトキメかせ一直線にそこへ向かう。


 「最高ー…。カフェだ。カフェしちゃお」


 「うん…。良いね。やっちゃおう」


 列が出来ていたが流れは早い。店員の接客スピードが尋常でない。頼んだ数秒後に商品が手渡されている。


 「いらっしゃいませ。何になさいますか?」


 初めてかも知れない。いや…間違いなく初めてだ。両親にもこんなところには連れてきてもらった記憶がない。メニューを見る。コーヒーだ。けれどまだブラックは飲めない。


 「あ、ラテアートだ。私はコレがいい…」


 姫は即答した。決断が早すぎる。そして僕の番だ。店員さんは終始ニコニコしている。それがかえって「はやくせんか!」と言われているような気がして焦る。


 「じゃあ僕はコレで…」


 指差したのはアイスココア。精一杯考えて無難な策を取ってしまった。


 「ココアかぁ。後で一口ちょうだい?」


 「え、良いよ…」


 意外と受け入れられた。そしてコーヒーに読書。素晴らしい組み合わせだ。僕はココアだけど、それも悪くない。そこから中学生らしくないちょっと背伸びした優雅なデートが始まるのであった。

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