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第28話 借金


 借金は様々な名前に姿を変えて無知な人を誘惑してくる。先生は僕のリクエストに答えてお金の授業を始めた。世の中は常に誰かに借金させようと必死である。そうすれば勝ちだからだ。


 「ここら辺はそんな輩が居らんで平和や。都会はわんさか居る。向こうから来る旨い話は全部、自分らを借金漬けにしようと狙っとる。気い付けなアカンで。でもな…」


 ダンスケ先生は変な事を言い始めた。「良い借金もあるにはある」。矛盾する話だ。


 「それは資産か負債の違いや。…まぁムズイな。要するにお金が増える借金か減る借金の事やな」


 資産と負債。前者は返済額より多くのリターンが期待出来るモノを指す。ビジネス、事業などがそうだ。後に価値が上がって売却益が発生するモノもそうだ。後者は新車のローンや新築マイホームのローン。購入した時点で価値が減額する。そう言うものは売却してもお金が購入時より減る。取り戻すのは困難だ。しかも利息も支払い続けなければなさない。良くないスパイラルに陥りがちである。


 「わかりやすく言うと賃貸経営と持ち家の違いやな。賃貸は人に住んでもらって家賃を貰うやろ?そんでそのアパートを買った時の借金を月々返せたら利益が残る。絶対やないけどな…」


 そうすればお金が増える。それが資産だ。先生は続けた。


 「けどマイホームもええけど…自分らに言ってもわからんと思うけどな…アパートに住んで家賃払うより、ローンを月々払って家と土地が残った方がええ言う人がおるやろ?…居るねんそれが、最後に資産になるんやて…」


 僕らは既にローンのない持ち家だった。だから良くわからずにキョトンとする。先生はなるべくわかりやすいように説明する。


 そして僕らの実家は購入時より価値が目減りした事実は変わらない。何なら払い終えても多額の利息が上乗せされている。もし10年間控除が付いていたとしてもそれ以内に返さなければ意味がない。30年ローンが当たり前の時代にそれが出来る人は少ない。


 「払い終えてもうたならそれはしゃあない。次は気い付けるだけや。だからやないけどな自分でビジネスを始めるためにお金を借りて利益が出てんならそれはええ借金や、いずれ資産になる。コレでええか?」


 「はい。ありがとうございます」


 僕はお礼を言った。違和感は払拭される。もし借金が絶対悪だとすれば、法律で規制されないわけがない。それがないと言う事は借金をするメリットがきっとあると思った。特に姫の実家みたいに仕事を始めるためにお金を借りる人もいるのだ。もしそれが許されない事だったら、そういった人達はいつ夢を始めることが出来るのか…。


 サラリーマンになってお金を貯めて始めるにしたってよっぽど倹約家でなければ不可能に近い。自分で稼いだお金だけで事業を始める。それにこしたことは無いが難しい話だ。だからきっと別の方法があると僕は思ったのだ。


 その後、姫は納得したのかしてないのか。あえて聞くこともない。けれど自分の中で何かを決めたのだろう。そういう話になった。


 「ありがとね。アレ、私のために聞いてくれたんでしょ?」


 「うん…前、泣いてたから」


 僕も急に不安になることが多くなってきた。知らない事を知るごとにこの社会の困難さにぶち当たる。それを乗り越えるための知識が不足すると悩みになる。時間が解決してくれる場合もあるが一生付き纏うモノもある。特に将来については不明瞭だ。子供のうちに出来る事はなるべくやろうと、そう思った。


 「アンタは凄いね。何でも自分で解決して自分で答えを探して。私には無理だなぁ…」


 「トモちゃんに出来ない事は僕が代わりにやるよ。僕もどうしても出来ない事があるから。トモちゃんと一緒なら何でも乗り越えられる。ずっと一緒に居ようよ…」


 「何それ…ふふ。プロポーズ?」


 姫は笑いながら沿道の先に駆け出した。夕陽が降りてくる。少し遠くから満遍の笑みで僕を見た。それは太陽より輝いている。僕が大好きな笑顔だ。


 「それって!!オーケーしても良いのー!!」


 聞こえるように彼女は大きな声で叫んだ。僕は本気だ。けれどまだ中学生である。不安も多い。そんな危うさでストレートに言ったとしても子供の言ったことと流されてしまうだろう。何か証明出来る事はあるだろうか。けれど見つからない。


 「どうすればオーケーしてくれる?!!」


 姫は悪戯な笑みを浮かべて少し悩んだ後、すぐに返事をくれた。


 「アンタがずっと!!そのままだったら良いよー!!」


 その日から僕らは手を繋いで帰った。もちろん。大人の前ではやらない。恥ずかしいからだ。けれどまだ大人じゃない。恋人でも夫婦でもない特別な感覚。言葉にするならば伴侶という言葉がしっくりくる。同じ方向を向いて支え合う者同士の関係。僕らはお互いが迷わないように手を繋ぐのだ。そうやってお互いの居場所を探り合うのであった。


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