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第27話 人類最大


 今日は雨が降っている。激しい雨だ。何日も続くと予想される。つまり梅雨入りしたという事だ。サツマイモの植え付けが始まる頃にこれも一緒に始まる。湿っぽい季節は制服が乾きづらい。そんな不快感と共に朝から授業が始まる。


 「よーし、ええペースや。ようやってんな自分ら。気分転換にお金の話しでもしようや」


 まーた始まった。何て悪い顔なんだ。高利貸しの闇金融ですか貴方は。為になりそうなのはわかるけれど、いまいちピンと来ない。姫は相変わらず「待ってましたー!」とばかりにノートをパタンと閉じる。最近、成績が良くなったのはこれを聞く為だという事が明らかである。


 ダンスケ先生はいろんな脱線話をするが、お金の時だけ異様に熱がある。僕達を「お金持ちにしたる」。その意気込みがヒシヒシと伝わってくるのだ。

 

 「お、ええやないか。教えがいがあるわぁ。ほんなら、アレを話そか…」


 先生は黒板の一部を消して、何かを描き始める。それはグラフだ。最初は緩やかに上昇して進む線がどんどんと加速して急激な上がりを見せた。そして僕らの方を振り向くと「コレが複利や!」そう言ってドヤ顔をキメる。意味不明である。


 「かの天才アインシュタインは言った。人類最大の発明。それは何や。わかるか少年?」


 「えっと…。複利ですか…?」


 「せや!知ってるやないか!」


 ヒントを与えすぎである。当たらない方がおかしい。まんまと餌に釣られてしまったが仕方ない。先生は続ける。「複利は人類最大の発明だ。 知っている人は複利で稼ぎ、知らない人は利息を払う」それがこの世界のルールだと。


 「自分らは幸運や俺に会ったことがな…」


 僕と姫はまだ中学生。12歳である。大人になるまで8年。そして老後まで48年。その時間は複利を利用する者にとって最大のアドバンテージとなる。


 「複利はな人類の発展そのものや。みんなが世界をもっと良くしよー思うからお金が動く。そして増えるねん。その流れに乗るか乗らないか。それだけで人生は何倍にも豊かになる。しかも長く乗っかるのが良い。そういう話や」


 「どうやったら乗れるんですか?」


 「ええ質問や」


 ダンスケ先生は「その質問、待ってました」とばかりに黒板に書き込む。貯金、投資、借金、ヘソクリ。


 「この中で複利に乗ってんのはどれやと思う?」


 姫は「うーん」としばらく悩んだ後、指差して「投資!」と元気よく言った。先生は「正解!」と返す。けれど話には続きがあった。


 「正確にはなぁヘソクリ以外全部複利の効果が働いてんねん。だから正解や。けどな知らなあかんのはお金がどう動くか知ることや」


 貯金も投資も借金もヘソクリも実はお金が動いている。どれが一番お金を増やす動きをするのかそれが大事だ。


 「詳しい事はまた今度や、そやけどコレだけは覚えていてほしい。借金は絶対したらアカン。コレは先生との約束や」


 借金は利息を払う側に回るという事だ。それが貧乏人の姿である。この世界の敗者でもある。勝者に回りたければ複利を手にする者にならなければならないのだ。


 そして一日の授業が終わる。雨はまだ止んでいない。僕らは揃って帰宅部だ。傘をさして並んで帰る。相合傘はしばらくやっていない。すると姫がボヤいた。


 「うちのパパ。借金があるんだって…。農園を建てる時にお金を借りて始めたって、だから返す為に頑張って働くんだって言ってた」


 朝の脱線以来、妙にションボリしていた彼女はそんな悩みを抱えていた。先生に言わせれば借金をしている者が敗者で、それを貸している者が勝者だ。お金を貸す側に回らなければ幸せにはなれない。残酷な考え方だ。けれど僕はそう思わなかった。


 「けど、トモちゃんのパパは上手く稼いでるって父さんが言ってたよ。薔薇は花としてだけじゃい。化粧品とか香水にもなるって…」


 人から聞いた話をする。この調子なら計画より早く借金が返せる。そうすれば後は儲けるだけ。父さんは「良いなぁー」と酒が回ると「俺もやるかー!」と気分良く強気に言った。その時のことを思い出しながら説明する。


 「そっか。でもパパが倒れたらどうしよう…」


 姫は不安になってポロポロと涙を流す。涙脆い。思春期だからだろうか。僕が言えた義理じゃないが、この年頃は精神が不安定になる。そう教科書に書いてあった。


 「大丈夫だよ。なんとかなるよ。僕も手伝ってるし、今も上手くいってる。何かあっても助けあえるよ。心配しないで…」


 「うん…ありがとう」


 まだ納得は出来ていなさそうだ。出来る限り僕が姫を支えよう。ダンスケ先生の話に嘘は無いと思う。けれど僕らには刺激が強すぎる。次からはもっと簡単な内容にしてもらおう。いつも受け身過ぎた。お金は大事だけど知りたい事をリクエストするのはいけない事じゃない。僕はそう考え、行動に移すのであった。

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