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第24話 補修授業


 子供はいい。詰まらない大人と違って理屈じゃない。純粋に現在と将来の自分を思い描いている。けれど誤った常識を幼い頃に教え込まれた子供はかわいいそうだ。ダンスケがかつてそうであったように。


 ごく一般的な家庭に産まれてはごく一般的な大人に育っていくものだ。親の教育と環境が全てである。良い大人は「良い人でありなさい」と言い、役に立つ大人は「人の役に立つ人間に成りなさい」と教える。


 人間は自分が教わった事を繰り返し我が子に継承していく種族だ。その証拠に虐待を受けた子供は親になるとまたその子供に同じ事をする。そんなケースが多いと言う。けれど稀にその呪縛を突破し良き人に、良き父であろうとする人がいる。けれどそう簡単には行かないものだ。


 「授業じゃ、あんなこと言うたけど…お金はな、ただの数字や。ほんまに大事なんはココやで」


 ダンスケ先生は親指を立てて自分の心臓を指差した。つまり「心が大事」と言いたいのだろう。最初にそれを言ったのには訳がある。誰しもが金儲けと聞いて隠匿されたビジネステクニックがあると想像するだろう。けれど本質は全く違う。お金はただの数字。それを増やすのは贅沢三昧をする為じゃない。自由を手に入れる為だ。心の自由。お金はそれを手に入れるための手段でしかないのだ。


 「俺はな、お前らをお金持ちにしたるって言うたけど、詰まらんお金持ちにしたい訳やない。だからやないけど志から教えたる。良く聞きや」


 その前に「よっこらしょ」と立ち上がり「飲みもん持って来るわ」と先生は言った。女の子の方もそれに反応して「私も手伝います」と一緒について行く。良い子だ。男の子は自分にも何かできる事はないかと辺りを見回すが何もすることがなかった。そして直ぐに戻ってきた。ちゃぶ台にコップと麦茶が注がれる。


 「ほんなら今から臨時の補習授業や」


 腕を組んで語り始める。子供達は真剣な眼差しでそれを聞いた。先生はその態度に内心感動する。「こんなええ子らよー居らへんで」そう心の中で思った。


 「人間はな、必ず死ぬんや。せやから悔いがないように一生懸命生きようとする。せやろ?でもな、その一生懸命を間違うたらせっかくの限られた時間は失われてまうんや」


 先生は話を続ける。子供の頃に「何のために働くのか」。そこをちゃんと教えてもらってない子共はいずれ金の為に働くようになる。それは生活費を稼ぐため。友人や恋人と過ごす交際費を稼ぐため。車や家を買う資金を稼ぐため。それは全て重要な事だが、それでは労働をがむしゃらにこなす。それだけの人生で終わってしまうのではなかろうか。少なくとも大半の人間がそうなるのだ。


 「それは哀しい事や。俺もなそうなりかけた事があんねん。金に振り回されたらあかん。せやから今のうちにお金のことよー勉強すんねん」


 お金は人を働かせる。けれどそれは初めのうちだけだ。立場が逆転する瞬間がある。それはお金を働かせた時だ。


 「ようは投資のことやけど、それを教える前に大事なもんがある。何のために自由を手に入れなあかんかや。それを知らんと虚しくなるだけやで。億万長者やけど友達が一人もおらへん。そんな奴は幾ら裕福でも詰まらん人生になる」


 何のために自由になるか。それは他者を幸せに導くため、より多くの人々を救うために自由の身にならなければならない。スーパーマンになって人々を救うとは少し違う。人生に苦しんでいる人を助ける事が出来るのは人生にゆとりがある人だけだ。今の生活で精一杯の人にそんな時間はない。もしギリギリの生活でそれをやれば共倒れする可能性の方が高いだろう。


 より多くの人が幸せに成り、自立し、自由になる。その先に争いがあると想像する事はむしろ困難だ。争いは常に富や資源の奪い合いから発生する。それが意味をなさなくなる時、人類に初めて平和が訪れる。ダンスケ先生はそう語る。


 「お前らがそうなるかは俺にもわからん。せやけどコレを知ってるんと知らんじゃ人生は全く別のもんになるはずや。少なくとも俺は変わったで」


 子供達は真剣だ。コレが純粋さである。大人にこんな話をしてもこうはならない。不勉強な常識が人を哀しい人生に導くのだ。常識とは「法律を守ろう!」みたいな事ではなく。人を思いやる情愛から来るものだ。そしてそれを達成しようとする意志と、達成へ導く知恵。それこそが人を幸せな人生へと導く。


 ダンスケ先生は静かに熱く語る。まるで自分の人生を振り返るように。まるで過去の過ちを繰り返さないように。丁寧に丁寧に言葉を選び子供達を導くため、限られた人生の時間をこの村で使うと決めたのだった。

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