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第23話 訪問


 先生は本当に謎の多い人だ。大きな荷物を持たずリュック一つでこの村に赴任してきた。中学校の先生と言えば一人につき一科目を専攻しているのが一般的である。けれどこの村にそんな予算はない。出来る限り複数の科目を教える事ができる先生を呼び込むのが当然の流れだった。近所のお兄ちゃんが卒業して全寮制の高校に行くまで何人か先生が入れ替わり立ち替わりして何とかやってきた事を憶えている。


 こういった村は全国に沢山ある。それをNPO法人が支援してくれる。そこから派遣されて来るのは決まって引退して暇になった元気なご高齢な元教師か正義感の強い変わった人格者か。けれど今回来た後鳥羽ダンスケ先生はまだ現役バリバリ世代。そしてどんな裏技を使ったのか、一人で全科目を教える事が出来るという。スーパーエリート。そんな第一印象をこの村の人々に抱かせた。


 この村に来る先生は至れり尽くせりな歓迎で持て囃される。タダで古民家を貸し出され食事の世話もしてくれる。何せお客さん扱いだからだ。村人には暇な老人が多い。好き好んで世話をするのだ。それを遠慮する人もいれば大歓迎でお酒を飲み交わす宴会好きの人もいる。先生はどちらかと言うと前者だ。


 「いやぁ〜。そんなありがとうございます〜。いやそんな。こんなに沢山。助かります〜。はい、あ、はい。どうもです〜」


 そう言って何人目かわからない村人を何とか応待した。後鳥羽ダンスケは「はぁ〜」とため息を吐いた。その手には作り過ぎたおかずと称した品を持ち、そのまま食卓の上に置いた。まるでこれから宴会でも始めるのでは無いかと言うメニューがズラリと並ぶ。


 酒とビールとつまみ。ご飯物も複数。人と飲み交わすのが好きな性格ならあのまま何人も家に中に招き入れ、流れで何回目かわからない歓迎会といったふうになるのだろう。そして初日にそれをかまされてから後日は全て断っている。何せ酒が飲めない。老人は耳が悪かったり覚えが悪かったりする。仕方がない。未だに酒を持ってきてくれるが後に返却するしかない。


 「まいったなぁ。なんちゅー村や。疲れるでほんまに」


 そしてまたインターホンが鳴る。今度は誰なのか。無碍にできないから困る。村とは恐ろしく閉鎖的だ。流石にこの時代に村八分は無いだろうが、関係を悪くすると同じような目に遭う。それがNPO法人の代表者から忠告された。それだけは気をつけるようにしようと思っている。そして先生は玄関を開けた。


 「はーい。すんませんねぇ。今開けます〜」


 ガラリと開けられたその向こうに今年なったばっかりの教え子二人がいた。


 「何や、お前らか。どうした?」


 「あのー。これ先生に…」


 男の子の方が野菜でぱんぱんのビニール袋を携え、渡した。先生はそれを「すまんなぁ」と受け取る。けれどいつもなら「ほなさいなら〜」となるところ二人は帰らない。何かを期待した目だ。


 「あぁ〜、何や…中入るか?」


 珍しく家の中に招いた。何故かは本人もわからない。「いや。良いです。僕達はこれで…」みたいな返事を期待していたのかも知れない。けれど二人は元気よく「はい!」と興味津々で古民家に乗り込んだ。


 案内は要らない。むしろダンスケの方がこの家の間取りを把握しきれていないぐらいだ。


 「ダンスケ先生は本当に荷物が少ないんですね」


 元々あった家具以外に持ち込まれた物の形跡がない。リュック一つでやってきた事を二人は信じていないらしい。


 「そんなにモノ持たんでええ時代やでな。俺はこれで十分や」


 その手にはスマホが握られている。そこに子供たちの視線が集まった。この村でそれを持っている者はいない。みんなガラケー信者である。もしくは未だ携帯すら無い人の方が多いかも知れない。


 「スマホだぁ。先生すごーい!」


 何が凄いのかわからない。先生はまるで未開の地にやってきたような気分になる。


 「…そんな事あらへんけど…何や二人とも何しに来てん?」


 「あの…。先生って隠れてお金儲けしてるんですか?」


 ダンスケはキョトンとする。そして男子生徒が言ったセリフが壺にハマり大声で笑い出した。


 「あーはははははは!!こりゃオモロいわ。何や二人とも俺が何か変な事して金稼いでる思ってるんか?」


 二人はコクリと黙って頷いた。大人を引き連れていないところを見ると、悪意があったり、懲らしめようとしているとは違うようだ。むしろ仲間に入れて欲しいと言わんばかりの目をしてる。


 ダンスケはニヤリと笑い。覚悟を決めてやって来たまだ若い子供二人を歓迎することにした。


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