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第22話 労働


 汗水働いて食う飯は美味い。毎日コツコツと働いて得た収入で生活する。老後は年金暮らし。そしてのんびりと余生を満喫する。それが僕ら日本人への教育方針である。ダンスケ先生はそんな夢物語を否定する。


 「そう上手くいかへんのが日本っちゅう国や。頭でそれがええ言うても心がおかしい言うんや」


 昔のお偉いさんにも何か考えがあった。けれど現代においてそれは正しい結果を生み出していない。そういう話だ。


 「一生懸命働く事はいけない事ですか?」


 姫が先生の考えに意を唱える。確かに仕事は大変だ。父さんと母さんは毎日休みなく働いている。作物の手入れをしたり、植え替えたり、出荷したりと何かしらやる事がある。それで僕らは食べていける。感謝しかない。いずれ継ぐことになるならもっと良くしたい。頑張りたい。そう思える。


 「そりゃ一生懸命はええことや。毎日そうありたい思うやろ。好きな事やったらな。けどな嫌なことも一生懸命がええんか?」


 農業を営んでいる両親が好きでこの仕事を選んだのか。あえて聞くこともない。ただ先祖代々この場所で生きてきたわけだから好きも嫌いもなく。誇りであり尊いものだと感じている。だから言う。


 「確かに嫌な事は出来るならやりたくないです。けれどそれがみんなの為になるならやるべきだと思います」


 「せやな。でも少しだけ自分を客観視して見てくれへんか?」


 ダンスケ先生は言う。それは社会的欲求であり、誰かに必要とされたい自分がそう思わせている。そう捉えてみてはどうか?人間の欲は深い。それだけでは満足出来ないはずだ。更にその先がある。誰かのためになるからと言って嫌なことを一生懸命続けて、得られるものは何なのか。想像する事を勧められる。


 「…じゃぁその先は何ですか?」


 僕は自分の無知を自覚した。そして自信が無くなり不安になる。取り戻すにはそれを穴埋めするための情報が必要だ。そうやってこれまでも自分を成長させてきた。今回も同じである。先生の話は僕を高めるだろう。そう確信した。


 「それはな。承認欲求っちゅうもんや。ありがとうーとか、助かりましたぁーや」


 僕は「何だそれなら知ってる」そう思って一瞬油断した。けれど次の言葉で我にかえる。


 「そっから自己実現欲求。つまり夢を叶えたい気持ちや」


 脳髄に雷が走った。繋がりかけていたピースが全て繋がったような。そんな感覚だった。僕の夢…。子供は何にでもなれる。そう言われてきた。けれど周りの大人は僕らに理想をチラつかせて型にはめようとしてくる。それが嫌で外の世界が観たくなった。あの時の気持ちが熱く込み上がる。


 「社会的に頼られたいから嫌なことも頑張りますじゃー、一生夢は叶わへんねん。よく覚えときぃ」


 すると感極まった姫がポロポロ泣き出した。先生も流石に焦って慌てる。


 「あっ、あ、すまん!言い過ぎたな!自分らの夢が叶わんなる話とちゃうで?今から好きなことのために頑張れっちゅう事や!」


 そして深呼吸して少し落ち着いた後、彼女は言う。


 「先生は夢を叶えたんですか?」


 良い質問だ。僕もそう思った。僕ら子供にとって一番ガッカリするのは大人の話に筋が通ってない時だ。「子供だからダメ!」とか、「子供だからやりなさい!」じゃ話にならない。行動一つ一つに結果が伴ってくる。大人なら証明出来るはずだ。それができない者の話など聞く必要はない。


 「夢かぁ。りょうさん叶えたでぇ。今も叶えてるで?俺は先生になりたかったんや。でもな。普通の先生やなくて、日本をもっと良くしてくれるオモロい大人を育てたかってん。子供のうちからな?」


 ダンスケ先生の叶えた夢。そしてこれから叶えようとしてる夢とは何なのか。話は続く。


 「日本は労働者に向いてる人間を育てすぎたんや。世界にはいっぱいオモロい大人がおるで。それこそ世界を本気で救おう言う歴史上の人物や。今も生きてる。せやけど日本はそう言う大人が少な過ぎんねん。頼むでホンマにぃ」


 頼まれてしまった。一体僕らに何をさせようと言うのか。それが次の一言で明らかになる。


 「お金持ちにしたる」


 「「…え?」」


 僕と姫はハモるようにしてその言葉を疑った。


 「お前らならなれる。お金持ちは才能やないねん。この世界のルール。俺が教えたるわ」


 やばい。やばいでホンマ。一体何を言ってるんだこの人は!心の中でそう叫ぶ。新手の詐欺か?それとも宗教?こんな子供を弄んでもお金は出ない。何処から搾り取ろうと言うのか。僕の警戒心は急上昇中だ。


 そして緊急事態である一刻も早く姫をお救いせねば…けれどもう遅かった。


 「お金持ち…」


 流れた涙は何処へ。その目は既に蜃気楼の中の黄金を観ている。言葉の魔力だ。僕は簡単には絶対に騙されない。必ず見極めてやる。姫と、この中学三年間は僕が絶対に守って見せる。更なるミッションと決意がそこに重なるのであった。


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