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第19話 成長

 

 今日から心機一転、僕は中学生だ。何だか気持ちが軽い。山桜の花びらが舞い新入生の入学を祝ってくれる。向かう先はいつもと同じ、小学生時代の校舎だ。先生も同じ。のどかな日々は変わらず、僕ら子供だけが一皮剥けていく。そして目的地に着く…その前に寄らなくてはいけない所があった。


 「おはようございまーす!」


 僕はインターホンを鳴らす。中でドタドタと足音がする。騒がしい。そして暫くすると姫の母親が玄関を開けた。


 「おはよー!ごめんねぇ。中で待ってて」


 「はい」


 どうやら寝坊したようだ。ボサボサの髪を無理矢理一つ縛りにして平常を装う。休みボケが抜けないのは大人も一緒らしい。子供ながらに気を使い、気付かないふりをした。勘のいいガキは嫌われる。


 「どうしましょうー。えっとぉ…!トモナー!!早く起きなさーい!!遅刻するわよ!!」


 母親の声は一階の食卓から二階の寝室によく響いた。恐らく二度寝の真っ最中だった姫は時計を観て飛び起きたのだろう。奇声が上が聞こえてきた。


 「キャー!やばーい!!!どうしよー!!」


 神崎家の朝は慌ただしく騒がしい。父親だけ居ないのは、もう早朝からビニールハウスの中で薔薇の手入れ作業をしているからだ。一方家に残る母親と娘は同じような行動パターンで焦りの行動を見せる。僕はそれを微笑ましく観ていた。彼女が誰に似たのかは言わずもがなである。そしてまた次の問題が勃発する。


 「ママ!!制服どこ?!」


 「和室にかけてあるって昨日言ったでしょ!!」


 「もう!」


 何が「もう!」なのか。逆ギレからの膨れっ面が目に浮かぶ。きっと可愛いのだろう。想像通りの表情をした姫がドタドタとパジャマ姿で階段から降りてくる。そして眼が合った。


 「おはよ」


 「あ…おはよ」


 何故か恥ずかしそうな表情をした後、急に腕で胸の辺りを隠す。耳が赤い。僕の前を通り過ぎて、和室へ向かう。そこから制服を奪取するとそれを抱いたまま急いで自室へと駆け上がって行った。僕は思う。まるでシャツの中に商品を隠した万引き犯の行動パターンだなと。そして一瞬だけ静かになる。けれど直ぐに煩くなった。彼女は再び母親を呼ぶ。


 「ママ!!」


 「なに!!」


 「ママきてー!!」


 「今忙しいから!!」


 「いいから来て!!」


 一体何が起きたのだろう。気になる。僕は聞き耳を立てた。母親は「もう!」とプリプリしながら階段をドタドタ上がる。行動がソックリである。子供は親の鏡とはよく言ったものだ。そして突如始まった緊急事態はヒソヒソ話で明らかになる。丸聞こえである。


 「これもうキツいの…」


 「えぇ?!…何で今言うの?…もっと早く言いなさい…」


 「だってまだ大丈夫って思ったの…」


 シュンと拗ねたような姫の声。そして動揺する母親。何がキツイのか想像が膨らんでしまう。今朝の怪しい行動から僕の頭脳はある結論を弾き出した。これは恐らく聴いてはいけない話だ。僕は必死に気を逸らそうとする。しかし出来ない。微かに聴こえてくる一言一言から妄想が更に膨らんでしまう。首を振って掻き消そうと頑張った。けれどまた浮かんでくる。そしてその妄想を決定づける言葉がきこえてきた。


 「成長が早いわねぇ、もう…ノーブラで行けば?ふふ…」


 「変なこと言わないで!バレちゃうからヤタ!」


 「じゃあキツイかもしれ無いけど!今日は我慢して着て行きなさい!ママがとりあえず新しいの買っておくから…」


 「…はーい」


 僕は一人でプチパニックを起こしていた。こんな状態でどんな顔をして会えば良いのかわからないのだ。深呼吸をする。腹式呼吸で気持ちを落ち着かせた。そして中々降りてこない。まだ何か言い争っている。


 「本当に大丈夫?」


 「大丈夫!見えてないから!」


 「本当に?」


 「はいもう!!人が待ってるんだから早く行きなさい!!」


 そんな押し問答が繰り広げられた後、ヘトヘトの母親が降りてきた。やっと解放された。そんな焦燥感が漂っている。僕は心の中で「お疲れ様です」そうつぶやいた。


 その後を異様に姿勢がいい凛とした姫が現れた。おニューのセーラー服姿で登場する。たすき掛けで背中を引っ張られたような印象である。その堂々とした出立ちのまま僕の前まで来る。一方僕は何かを隠すように前屈みだ。仕方なく上目遣いで彼女の姿を観た。


 「可愛い…」


 自然と口から溢れ出た。姫はニヤリと口角を上げる。満更でもなさそうだ。そしてとても似合っている。まさに奇跡の美少女だ。一緒に居られるだけで嬉しい。僕は幸せな気持ちになった。この娘を一生大事にしよう。そう思うのであった。


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