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第13話 朝の目覚め


 寝付けない夜だ。酔い潰れた親父達を部屋に残し僕らは庭に出た。母さんが「花火をしよう」と突然言い出したのだ。去年買って余っていたらしい。だから姫と一緒に星空を観ながら待っていた。


 「この夏で最後かぁ」


 姫は感傷に浸っている。最後とは小学生最後の夏という意味だ。


 「ありがとね。アンタのおかげで良い思い出になった…」


 「こちらこそありがとうだよ。今度は一緒に東京に行こうよ。今なら何処へだって行ける気がする」


 「うん…」


 何故か様子がおかしかった。恐らく爺ちゃんと父さんの言っていた事が引っかかっていたのかも知れない。この時にもっと真剣に話を聞いてやるべきだった。


 「お待たせぇ〜。はい!これよー!」


 出してきた袋には様々な花火がパンパンに詰まっていた。


 「ちょっと試して?」


 母さんは昔から無駄な買い物が多い。自分からは考えられない行動だ。将来ちょっとした投資家になった僕は「ゴミを買った」と言いたくなる。けれどそれがあったからこそ得られる思い出がある。だからゴミではない。そう思いたくなった。


 「全然つかないね…」


 僕は地面に立てた蝋燭で導火線を炙る。けれど一向に始まる気配がない。完全に湿気っている。残念だ。


 「あ、ついた…」


 姫の顔が花火の光に照らされて夜の暗闇から薄らと姿を現す。とても綺麗だった。唯一火を噴き出したのは線香花火だ。僕らは弾ける光の球を目で追いかけながら、その一瞬を真剣に眺める。そしてポトっと落ちた。


 とても長く感じた。再び蝋燭の光だけが頼りになる。もう十分だ。他にも火がつくモノがあるかも知れない。けれどもう十分だった。僕と姫は眼を合わせる。こんなにも気持ちが通じ合っていると感じた日はないだろう。


 自然と顔が近づく。姫は瞳を閉じてそれを待つ。僕の心臓はバクバクと脈動し血液を沸騰させる。熱に侵される。彼女の耳は恐らく真っ赤だ。暗くてわからないが、よくわかる。気持ちは通じている。許可は出た。行くしかない。行け!


 「どう?!火ついた?!」


 母さん達が到来した。僕らは咄嗟に離れ息を荒くする。まるで一走りした後のようだ。


 「ん?どうしたの二人とも…」


 バレたのかバレなかったのか。今でも明らかになっていない。僕らは少しギクシャクしながら後片付けをしたのだ。


 今日は僕の実家でお泊まりする事になった。追っ払って豪快なイビキを立てる親父達は、はなからそのつもりだったのかも知れない。あまりにうるさいので和室に押し込められていた。


 だから今夜は僕の部屋のベットで寝る事になる。大きさはシングルだから二人では少し狭い。お互いが反転して寝かせられた。母さんの指示だ。


 彼女のすべすべの脚が目の前にくる。現在は頭二つ分弱ほど僕の方が背が高いが当時は姫の方が身長が少し高かった。触りたい衝動を抑えた。へんな気持ちになった。その気持ちは今になったらわかるがウブな少年にはまだ早い。それを紛らわすようにして寝たふりをする。


 「ねえ…」


 僕は返事をしなかった。けれど姫はそのまま続ける。


 「私たちずっと一緒かな…。ずっと一緒がいいな…」


 それが何を意味していたか、今ならわかる。僕は宣言通り上京し、彼女は実家の農園を継いだ。この時から二人の道は少しずつズレ始めていたと思う。


 そして差し込む光で僕は目を覚ました。13年の月日が経ち、マンションの天井が見えた。タイムスリップしたかの様な気分だ。


 「夢か…」


 とてもリアリティーのある夢だった。冬用の布団を床に敷いて寝たせいか目覚めが悪い。腰が痛い。母さんはベットでグッスリと寝ている。気持ち良さそうだ。口が空いている。流石はNASAの宇宙開発で使われた「力を立体的に分散」する構造だ。最高の安眠が襲いかかってくるだろう。


 夢を見る暇もない。旅に疲れた者に抗う術はないはずだ。どうせ買ってくれとせがまれるような気がした。だから先にポチっておいた。数日後には実家に届くだろう。


 「やりますかね」


 独り言をこぼす。台所には母が持ってきてくれた野菜がある。今日から故郷に帰るという事は今のうちに処理しないと全部ダメになる。出来る限り新鮮なうちに食べたい。僕は意外と料理が好きだ。


 トントントンと包丁の音が目覚ましの代わりに朝の訪れを知らせる。全開にされたバルコニーから差し込む朝日を浴びて母親は目を覚ます。とても良い匂いがしてきた。最高の目覚めである。このベットも最高だった。当然、後でおねだりしようと心に決める。


 「朝早いわねぇ。いい息子」


 母さんはムフフとだらしの無い顔で笑う。相当幸せそうだ。僕は基本的に自慢話をしない。だから敢えて「そうだろう」とか「感謝しろよ」と言わない。けれど控えめに考えて「最高の息子」だと思っている。口では言わない。


 「どういたしまして。もうすぐで朝ごはん出来るからコーヒーでも飲んで待ってて」


 「はーい」


 敬礼のポーズを取った母さんは、鼻歌を歌いながら「洗面所借りるねぇ〜ん」とお調子者になっている。僕は苦笑いをしながらその様子を観ていた。子育てから解放された母さんはいつも楽しそうだ。僕は故郷を想う。皆は元気にしているだろうか。トモちゃんは…。今日、10年ぶりに彼女に会うかも知れない。僕は複雑な気持ちになった。


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