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第11話 プレゼンテーション


人には得手不得手がある。僕は情報を整理するのが得意だ。的確な判断を素早くする事ができる。そのかわり工作するのは全くの苦手とした。一方、姫の絵は大変上手だ。字も綺麗である。僕が走り書いた文を清書してくれたのも彼女だった。


 「目的は!公共交通機関の使い方を覚える事です!そしてその狙いは!…」


 姫がダンボールを差し替える。皺一つなく貼り付けられ、パキッとしている。大きく見やすい字で「狙い!」と書かれ、可愛い女の子のキャラクターから吹き出しが出ている。


 彼女の部屋からはこのキャラが登場する自作漫画が度々発見される。専属のハウスキーパーである僕はその上達ぶりを良く知る者の一人だ。このプレゼンではその才能が余すことなく発揮される。


 「僕らが立派に成長している姿を村のみんなに見せる事です!!」


 プランAを強調して言った。母さんは「あらま…」と言って拍手の真似をしたが、父さんには響かなかったようだ。けれどこれだけではない。得られるメリットは他にもある。タイミングを見計らい姫がイラストを差し替える。


 「そしてこの村が農業で成り立っている事は知っています。けれど、どうやって売られているかは僕らは知りません。それを実際に観に行きます!」


 プランBである。A3用紙に取引先と物流ルートがザックリ書かれそのキャラクター一人一人が笑顔のイラスト。それは売買が成立する事で皆がWinWinの関係である事を強調していた。そして消費者の元に販売している各スーパーマーケット。その中で最も利益率の高い。地域密着型の道の駅に行く計画である事が記載されている。


 「僕は農協の職員さんに聞きました。父さんが作った野菜は凄く評判だって。お店の中にコーナーがあるそうです」


 最近、よく見る販売方法である。ただ野菜が売っているだけでは機械作業のように商品を見るだけだ。けれど生産している農家さんの顔写真と名前が近くに記載されれば、情を持って見てもらえる。


 人はそこに書かれた生産者の背景やストーリーに想いを膨らませるだろう。お客様はただ野菜を買ったんじゃない。地元の活性化のために投資したのだ。それは周り回ってみんなの為になる。地産地消は作る者、販売する者、消費する者が一体となって地域の産業を守る役割を担っているのだ。


 「行って確認してきます!」


 イラストにはその最寄り駅から道の駅までのルートが細かく描かれて、実際に行き来する両親も納得の出来栄えだ。僕達が明確に道筋をリサーチしたのが伝わったはずだ。


 「…ほう」


 父さんが初めて唸った。読みは当たったらしい。求めていた答えは僕達の安全確認だろう。無事に行って戻って来れるだけの能力があるか。それを証明する必要がある。そこで極め付けのプランCを展開する。


 「そして、近くで農園をやっているトモちゃんのお爺ちゃんお婆ちゃんに会いに行きます!」


 それはつまり、他所の協力農家を視察に行くことを意味していた。姫の両親が先代花農園からどんなノウハウを継承して現在に至るのか知る事ができる。栽培されている花はシンピジウムだ。


 「到着したら必ず連絡します!」


 現在は代が変わり兄夫婦が農園を管理している。僕達がそこに辿り着き次第、家に一報を入れてくれるだろう。それは強力な安心材料になる。


 「どうでしょうか!」


 父さんは腕を組んだまま目を閉じた。迷っているわけではない。不安材料を分析しているのだ。そしてすぐに切り返した。


 「中々、良いじゃないか。よく勉強したのが伝わった。だがタイムスケジュールが出来てないだろう。到着時間は何時になるんだ?」


 そのセリフを待っていた。どんな質問が飛んでくるのか事前に予想していた。プレゼンが完璧であればあるほど厳しい内容が用意される。それを見越して、幻のプランDがここで生きる。


 「はい。そこは父さんと母さんに協力して欲しいです!実は時間割を立てています!けど僕達だけでは上手くいきません」


 姫が最後の切り札を見せる。そこには出発の時間、電車のダイヤ、到着時間がスゴロクのようなイラストで描かれいる。


 その中に白い軽トラが行き帰りのマスに載っていて窓から父さんと母さんの顔が笑顔で飛び出している。それは送り迎えよろしくを暗に示していた。


 「送り迎えをよろしくお願いします!」


 僕と彼女は深く頭を下げる。母さんは「そういう事ね。良いじゃなーい!」と手を叩いてスタンディングオベーションだ。父も満更でもない。子供が全く親を頼らないのはそれはそれで良くない。様々な人の協力でこの計画は成り立っている。その感謝を示すかのように僕らは根回しを何一つ怠る事はなかった。

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