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第10話 最高の計画


 村にある唯一の最寄り駅は実家から車で10分の距離に位置している。大人の足で1時間半、子供なら2時間はかかりそうだ。僕らは自転車を持っていない。つまり最低でも徒歩で行くことが大前提だった。


 「歩いて行くなんて絶対ヤダ!軽トラに乗せて貰おうよ」


 「確かにそうだね」


 夏の暑さの中、灼熱の日差しを浴びて歩くなんて自殺行為である。熱中症になるのが目に見えていた。安全を考慮して人に頼ることにする。何でも自分一人で出来ないとダメという考え方は視野が狭い。他人の協力を得られる人ほど大成するものだ


 そして軽トラに乗せて貰うのは簡単だと思う。父さんは毎日のように使ってるし、往復20分ぐらいなら大目に見てくれるはずだ。


 野菜を出荷するタイミングを狙うのがベストだろう。必ず街の方へ出掛ける。ついでに乗せて貰うのだ。本当は二人乗りだけどトラックには荷台がある。今にしてみれば罰金ものだ。それは僕の知る田舎では当たり前の光景だった。


 「電車は2時間に一本しか来ないんだって。パパが言ってた」


 それを逃す事は絶望に値する。この暑さの中。ホームで2時間待ちは辛すぎる。根性論では解決できない生理的な困難が待っていた。最高のタイミングと最高の支援を受けてこそ、この計画は成功を収めるだろう。


 僕らはプランを3つ立て最低でもプランCを通すべく活動し、いよいよ対決の日がやってきた。


 「父さん。お話があります」


 「…おう。どうした」


 恐らく、勘づいていたと思う。電車が来るダイヤの時間や線路図を眺める僕を何も言わずに黙って見守ってくれていた。そして満を持して「お話」が持ち込まれたのだ。「どれどれ親父の威厳を見せ付けてやる!」とばかりに腕を組み不敵な笑みを浮かべた。


 まるで悪の親玉である。僕は勇者の魂を胸に秘め、人生最大の試練に立ち向かった。


 「僕たちの夏休みの計画を見て下さい!!」


 すると姫が後ろからA3用紙が貼られたダンボールのプレートを見せる。そして紙芝居形式の可愛らしいプレゼンテーションが開催された。


 「あらあら急にどうしたの二人とも〜」


 台所で家事をしていた母さんが野次馬の如く現れる。白々しい。終始ニコニコしているのは一部始終を知っているからだろう。子供がどれだけコソコソと何かを企んでいても母の眼を誤魔化す事は出来ないのだ。実家にプライベートなど存在しない。


 「おい、静かにしてくれ!話が始まらん」


 父さんの眼は真剣だった。母さんは「はいはーい」と言ってその隣に座る。僕は唾を飲み込む。激しい緊張感が襲ってきた。けれど納得いくまで練習を重ねたのだ。緊張はアドレナリンに変わり、頭が真っ白に…ならなかった。それどころか限界を超えたパフォーマンスが発揮される。


 「何故、僕達が子供だけで電車に乗らねばならないのか。その目的を説明します!」


 子育てに関心のある親御さんなら必ず教育方針があったりするものだ。それは文章化されていないため、無自覚に展開される場合が多い。目的はそれに沿う必要があった。


 僕の両親は決して教育熱心とは言えない。けれど何処か筋の通った育て方をされていたと思う。父は言った「時間は限られている。充実した毎日を過ごせ」。それはパリピになれという意味ではない。勘違いしないでほしい。


 まだ僕が姫と出会う前。小学3年生の時だ。それまで一緒だった近所のお兄ちゃんが高校へと進学した。そして独りぼっちの小学生になってしまったのだ。当然、精神は荒れた。


 「学校なんか行きたくない!!」


 絶望した。行く意味がわからなくなった。勉強は家でも出来る。一人なら尚更だった。そんな僕に父は言う。


 「そうか、行かないのか。なら学校より充実した一日を過ごせ。それが出来ないならダメだ」


 叱られたのか叱られなかったのか。別の何か事をされたような気がする。僕は父を困らせたかっただけなのかもしれない。そう思った。父さんは一枚も二枚も上手だ。僕の反抗動機を見透かし、強力なカードを切ったのだ。凄まじいプレッシャーを感じた。


 そしてその日、僕は急いで駆け出した。充実した一日を証明する為に必死で頑張らないといけない気がしたからだ。学校なんて楽なものだ。自発的に学び、行動し、成果を出す。それがどれだけ大変か。身をもって感じた瞬間だった。


 次の日、朝刊に昨日の成果物を挟み込み。僕は学校に行ったのだ。父さんにそうしろと言われたわけではない。けれどそうしないと僕が納得出来なかった。後によく褒められたのを憶えている。だから今回も同じである。


 両親は筋の通った眼差しで僕らを観ていた。その期待を下回る企画など望まれてはいないのだ。このプレゼンから得られたい成果は外出の許可である。その裏にどんな思惑が隠されていても大人に知らせる必要はない。


 ただ一つ伝わればいい。僕達は最高の夏休みを計画しているんだ。その想いが届くように一生懸命頑張ったのだった。


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