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第1話 姫との出会い

お読み頂きありがとうございます。


  僕の初恋は運命的だった。今でもそう思える。だからもう一度彼女の顔が見たくなったのだ。とある村のとある小学校。そこで僕らは出会った。今は残念ながら廃校になっている。何せ児童が2人しかいなかったのだから仕方がない。僕らが卒業した時点でそれは決まった事実だった。


 今はもう僕と言えるような歳じゃないがあの頃を思い出すとそんな気持ちに回帰する。現在25歳になって大学生のうちに立ち上げた会社が軌道に乗った。その事業を王手企業に売却した事で僕は多額の富を得たのだ。


 そして今まで背負っていた肩の荷が降りた瞬間。僕の前には長い時間が広がっていた。全速力で走り抜けた先に本当の余裕が待っていたのだ。ふと故郷に置いてきてしまった彼女のことを思い出した。あれから何年連絡を取っていないのだろう。


 もう結婚しているかもしれないし子供もいるかもしれない。何ならもう故郷にいない可能性だってある。けれど僕は確かめたくなった。スマホのアプリから母親のアイコンをタップする。そして通話ボタンを押すだけの簡単な作業。けれど心臓がバクバクして手汗が止まらなかった。


 頭の中で彼女のことをさりげなく聞くだけの簡単なシミュレーションだけが繰り返し思考を過ぎる。けれど何度やっても不安が拭えない。情けない事である。こんな事は朝飯前じゃないか。それでも良くない結果だけが頭をよぎり、その受話器のアイコンをタップさせなかった。


 そんな煮え切らない僕を何処かで見ていたのだろうか。向こうから通話がかかる。


 「マジか…」


 もう押すしかない。後回しにしても意味がない事は散々身に染みている。まるで営業マンの決まった所作を撫でるかのように僕は緑のアイコンをタップして耳に当てた。


 「もしもし」


 (もしもし?元気ぃー?お母さんねぇ。今どこにいると思う?)


 野暮な質問だ。僕はドアホンのカメラからエントランスを確認して母親の姿を見た。


 「開けたよ。迎えに行くから待ってて」


 そのまま自動ドアを遠隔で開けて上まで入って来てもらう手もあったが、大荷物を抱える母の姿を見るとそれは少し冷たい事のように思えた。


 エレベーターから降りると大きなキャリーバックにダンボールを括り付けてエントランスのソファーに座る母がいた。


 「やだもうー!久しぶりぃ!早く来てよぉ。こんな所で待ってたら緊張しちゃう!」


 ソファーの先っちょに軽く腰を下ろし、背筋をピーンと張らすのは恐らく場違いなアウェー感のせいだろう。


 「母さん!来る時は連絡してって言ってんじゃん!」


「もう…。今ここで言う事じゃないでしょ?あっ、ほら!アンタが好きなミニトマトいっぱい持ってきたのよぉ。食べて食べてぇ」


 それこそ「今ここで言う事じゃない」と思うが母はいつも脳天気が取り柄な人である。僕は「はいはい」と軽く受け流しながらこの場で開けられようとしているダンボールを手で抑え無言で母のキャリーケースを掴んで引き寄せた。

 

 「ほら行くよ」


 上昇するエレベーターの中。再び何かを思い出したのだろう。「あっ」と口癖のように言うものだから、どうせまた下らない事に違いないと黙って聞き耳を立てた。


「あらそうだ!トモナちゃんがね、ほらアンタと仲良かった子。てか2人しかいなかったもんねぇ。その子がさアンタと連絡取りたいって言ってたの…」


 その後の話はあまり頭に入っては来なかった。会いたいと思ったタイミングで向こうも同じ思いを抱いたのだろうか。とにかく僕はあの頃に思いを馳せる。


〜15年前〜


 この村に転校生が来るという噂が広まった。田舎の情報網はネットの広まるスピードに負けず劣らずの速さで広まるものだ。


 だから「今日は新しいお友達が来たよぉ〜」とおばあちゃん先生がサプライズのように紹介してくれてもさほどビックリする事はないと思っていた。けれど教室に入って来た彼女を見た瞬間に僕は心臓を射抜かれたかのように心拍数が速くなる。


 「神崎トモナ…よろしく」


 そんなに愛想のいい娘ではないのは第一印象から気付いていたがバラのように咲き誇る彼女の美しさは兎に角、僕の恋心を鷲掴みにしたのだった。


 それから彼女の両親がこの村でハウス栽培のバラ農園を始めると聞いて、ドンピシャだと思ったのを今でも覚えている。


 「君さ。中々喋んないよね。私の事嫌い?」


 純粋だった僕はそんな事をストレートに聞いてくる彼女を「なんて真っ直ぐな娘なんだ」って思った。だから僕も素直にならないといけないと感じて上擦った声で慣れない事を言ったものだ。


 「そんな事ないよ。むしろ凄く好きだよ」


 一瞬の間が空いて彼女は固まる。顔も少し紅潮している。そのあと僕の運命を決定付ける一言がその薔薇のように赤い唇から漏れでた。


 「そっかぁ。じゃぁ私がそんなに好きなら…証明して見せてよ」


 その瞬間から僕はトモナに「大好きである」という証明を示し続ける日々を送る事になったのだった。


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