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第17話 エルサの秘密&エルサの過去①

「あ、あなたは……あんたは! ──ゼント! ゼント・ラージェント……!」


 なぜだ? どうしてこの車椅子に乗ったエルフの女性──アシュリーの母は、俺の名前を知っているんだろう?


「私だよ、久しぶりね……ゼント」


 若くて美しい、エルフ族の女性は言った。エルフ族は年をとらないから、何歳かは分からない。


「私よ、エルサだよ」

「エルサ……エルサ……ええーっ?」


 俺は目を丸くした。エルサといえば、20年前、俺が所属していた魔物討伐(とうばつ)パーティー「龍の盾」のメンバー。

「龍の盾」のメンバーは、今は夫婦だが、勇者ゲルドンと聖女フェリシア、俺──荷物持ちのゼント。……そして、勝ち気な特攻(とっこう)隊長、女剣士エルサだ。皆、幼なじみだ。


「エ、エルサ……お、お前なのか。本当にエルサなのか」

「……ああ。あんまりまじまじと見ないで。恥ずかしいから」

「え……と、車椅子には、どうして乗っているんだ?」

「体調が悪くてね……すぐに、ふらついちゃうんだ」


 彼女の体は()せている。痛々しいくらいだ。


「あ、あの……私、外に行って遊んでくる」


 アシュリーはそう言って、武闘家(ぶとうか)養成所の外に出て行った。俺たちに気を使ったんだろう。


「ちょ、ちょっと手をさわっていいか」


 俺が言うと、エルサは嫌がらず、うなずいてくれた。

 俺は彼女の手を握って、彼女の手の甲をさわった。細い。力が伝わってこない。


「……話してやるよ。何があったのかを──ついてきて」


 エルサは車椅子を、奥の部屋に向かわせた。

 俺とエルサは、奥の部屋に入っていった。



 

 その部屋の中には、眼鏡をかけた40代くらいの女性が、立派な机の前に座っていた。この人もエルフ族か……? おや? 耳は長くない。


 彼女の机の上のは、水晶球(すいしょうだま)が置かれている。


「ようこそ、ゼント・ラージェントさん」


 う、うわっ。この人、すでに俺の名前を知っている?


「あなたの名前が、水晶球(すいしょうだま)に出ているわ。──私はミランダ。ミランダ・レーンよ。よろしく」


 このミランダって人は、占い師……?


「ふふっ、エルサ。私の予言は当たったでしょう。『今月、この村に人間族の男性がやって来て、あなた──エルサは救われる』って」

「……救われるかどうかは分からないけど……。まさか、ゼントが来るとはね」


 エルサはフッとため息をついた。

 

 すると、ミランダというこの女性は口を開いた。


「私は、この『ミランダ武闘家(ぶとうか)養成所・ルーゼリック村支部』の社長、責任者をしております。エルフ族と人間族のハーフですけどね。今はエルサの治療を私がしつつ、武闘家(ぶとうか)の育成、指導をしております」

「ミランダは、私の恩人なの」


 エルサはミランダを見ながら、俺に言った。

 ミランダさんとエルサは、深いつながりがあるようだな。


「私は『魔法』の(たぐい)も使えます」


 ミランダさんは言った。


「あなたはエルサのご友人ね。すべてこの水晶球(すいしょうだま)の情報によって、理解しています。ゼント君、あなたがエルサの過去を知りたいこともね」


 俺がエルサの過去を知りたい?


 そ、その通りだ。幼なじみのエルサに、何があったのか……知りたい。

 どうして、こんなに()せて、車椅子に乗るまでになってしまったんだ?


 ……が、知るのはちょっと怖い。このミランダという女性が、話をしてくれるのか?


「エルサ。では、ゼント君にあなたの過去を教えてあげなさい」


 ミランダさんが言うと、エルサは少し考えてから……しばらくしてうなずいた。

 そして躊躇(ちゅうちょ)しつつ、それでいて決意したように、机の上の水晶球に触れた。


「ゼント……あなたに教えてあげる。私になにがあったのかを」


 エルサが念を込めると、水晶球(すいしょうだま)が光り、俺たちはその光に包まれた。




 周囲を見渡すと、そこは草原だった。


「え? ここはどこだ?」


 俺は自分の体を見た。何と、半透明になって、草原に立っていた。


(ここは過去の世界だよ)


 エルサの声がした。


(ゼント、あんたが「龍の盾」を抜けた約3年後だ。今から17年前だな)


 エルサはエルフの魔法を使って、俺に自分の過去を見せようとしているのか。じゃあ、今の声は、今、車椅子に座っている現在のエルサの声というわけか。


 その時!


「どりゃああああっ!」


 聞き覚えのある声がした。


 草原で、男が二足歩行の狼系モンスター、ワーウルフと戦っている。──その男は、若きゲルドンだ! そして、後ろには剣を持ったエルサがいる。17年前のエルサか。

 フェリシアは? いない。代わりに、15歳くらいの銀髪(ぎんぱつ)少年がいる。


 ……誰だ、こいつ。


 ドガアッ


 ゲルドンはワーウルフに前蹴り一閃(いっせん)


 ザムッ


 そして、手に持った剣で、ワーウルフの胸を切り裂く。するとワーウルフは光り、宝石の原石に変化した。この世のモンスターは、すべて宝石の原石から生まれている。


 すると、後ろから全長5メートルはある大ネズミ──ビッグマウスが現れた。


 ビッグマウスは素早く、エルサに突進してくる。

 

 サッ


 しかし、エルサはすぐにそれをかわし、同時に背中の剣を引き抜いた!


 ズバッ


 エルサはビッグマウスを剣で一閃。すぐに倒して宝石にしてしまった。

 モンスターは全ていなくなった。討伐完了(とうばつかんりょう)だ──。


 ゲルドンとエルサ、そして新しいパーティーメンバーらしき銀髪(ぎんぱつ)少年は、そばにいる俺に気づかない。

 そうか、俺は半透明の姿になっているから気づかないのか。


「さすがはエルサだ」


 ゲルドンは、なれなれしくも、エルサの肩に自分の腕をかけた。

 

「調子はいいみたいじゃねえか。エルサ」

「……どういうつもりだ、ゲルドン」


 エルサはゲルドンの手を払いのけた。


「あんたの妻、フェリシアは今、身重(みおも)で、お前の屋敷で休んでいるんだろう。ゲルドン、お前の赤ん坊を産むんだぞ。いちいちあたしに絡むな」

「ああ? かんけーねえよ」


 ゲルドンはニヤニヤ笑いながら言った。


「フェリシアが俺の妻だろうが、俺は大勇者だぜ? エルサ、俺とこっそり付き合おう」

「バ、バカ言うな!」

「おい、エルサ、頼むよ。フェリシアのヤツ、俺を束縛(そくばく)しやがってさあ。他の女に近づかせないんだ。ストレスたまるぜ」


 ゲルドンは、無理矢理エルサを抱きしめようとした。


「バカ!」


 パシイッ!


 エルサは、ゲルドンの(ほお)を平手で叩いた。


「フェリシアを裏切る気か? あたしたちの幼なじみだろ。あんたの妻だろ!」

「ああ、そうだよ。だから何だ?」


 ゲルドンはひょうひょうと言った。


「この世の女は、全部俺のものだ。なんたって俺様は大勇者なんだからよ。何やったっていいんだよ、俺は」

貴様(きさま)!」


 エルサはゲルドンをにらみつけた。


(おいおい……やべえぞこりゃ)


 俺は半透明の体で、一部始終を見ていた。


 俺はすべてを理解した。17年前、ゲルドンは、エルサに不倫(ふりん)を持ちかけていたのか!


(ゼント……あんたに続きを見せる)


 今の時代のエルサの声が、俺の耳の中に響いた……!

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