79 割と穴だらけの計画(物理)
ロボットの形は両腕の付いていない上半身。
そして下半身は履帯に囲まれた沢山の車輪を持つ広くて長い金属の箱だった。
つまり金属の車体に人形の上半身が付いた形である。
「ウルゾン……J」
ボクは専門家でないので、目の前のロボットの全貌は理解出来ない。
人型を模した上半身はとにかく沢山の、そして複雑な機械が絡み合うように時には接合用のパーツ。時には金属管で繋がっているのが分かった。
それらを所々で鈍い色の装甲板が覆っている。
向こうのクレーンに吊り下げられているのはこれから付ける腕パーツだろうか。
人間の指の様に繊細な物でなくて、鋤のように大雑把な三本の爪で構成されている。角ばったそれは見ていて力強そうだと小並に感じた。
驚くボクと、眼を爛々と光らすシャルを見てエミリー先生は楽しそうに語り出す。
早口で。
「高さは11m、重さ43t、出力は1500馬力。
最大時速100キロを誇り、更に整備されていない悪道でも渡れるよう『下半身』の車体には履帯が使われているのだよ。どうだ凄いだろう!」
「ん~、よく分らないですのじゃ」
「機関車の普段出してる速度が時速70キロだね」
「ひえっ⁉」
聞いた途端、ツインテールが上に持ち上げられそうな程に肩を跳ね上げて、反射的にボクの背中に隠れてウルゾンJを見上げた。
それに対してエミリー先生は笑って付け足した。
「まあ、あくまで最大時速だから。
加速まで時間かかるし、動力の魔石も勿体ないしね。普段は40キロくらいで走らせたいけど、大きい物だしまだ様子見って事で20キロってところかなあ。
あ、馬車が6キロくらいね」
「な~んだ、びっくりしましたのじゃ」
「ごめんね。何時もより頑張って作った子だからつい自慢したくなっちゃった」
言ってエミリー先生は指の先でシャルのサラサラのおでこを小突いてカラカラと笑ってみせた。
それにしても引っかかる事がある。
「しかしエミリー先生は機械関係なら楽にこなすと思ったんですけど、そうでもないんですね」
「まあ、私にだって分からない事だって……おや。ちょっと待ってくれ」
一人の、油の臭いを染み込ませた作業着と安全靴といった平均的な見た目の作業員が設計図を持って、ドレスのフリルを靡かせるエミリー先生に向かってきた。
裏から照明で透けて見えるそれは、今クレーンで吊り下げられている腕のものだった。
彼はエミリー先生にそれを見せて、一部を指差す。
彼女は軽くも少し真面目な顔をする。
「すみません、エミリー先生。此処の冷却部に使う装置なのですが……」
「ああ、そこなら───と、いう訳で新しく私が合成した魔骨が折れないようになっているんだね。定数とか書いとくから参考にしてみて」
「なるほど。流石エミリー先生だ、ありがとう御座います!」
「いいえ、構わないさ。もうひと踏ん張りだしお互いに頑張ろう」
そんな感じの専門的な話し合いをして、作業員は満足したように去っていく。
途端に先生は破顔してボクへ振り向く。
変わり身早っ!
「それで続きだアダマス君。おや、何か言いたい事がありそうだね」
「あ、はい。
随分とエミリー先生に核心部を委ねているんだなぁと。外様ですよね?」
「ああそれね。調整役なんて言われているけど、実際作ったの殆ど私だからもう私なしじゃ回らない状況なのさ。
因みに今の人が名目上此処で一番偉い人ね」
「へぇ……え⁉」
彼女は驚くボクを見て眼を弓にすると髪を掻き揚げる。
因みにシャルは相変わらず純粋に「凄いのじゃ」と、尊敬の眼差しでエミリー先生を見てはしゃぐ。
「ふふ、アダマス君の驚く顔が見れて嬉しいな。
実は古代の設計図が発掘されて、それを大枚はたいて買ったのは良いんだけど、穴ぼこだらけだったそうでね。
元を取り戻す為に色々な錬気術の専門家を回っていたそうなんだけど見つからなくて、その手の名門と呼ばれるフランケンシュタイン家に何度も無理して頼み込んだところ、私を紹介されたってのが今回の経緯なのさ」
実家の名前が出てきたせいだろう、シャルが何とも言えなそうな反応をする。
ただ、同時に彼女もその家の物なので今の一言でエミリー先生がどう凄いのかを、学術的視点で理解したそうだ。
「それは凄いのじゃ。お父様も一割欠けている物をやった事があるのですがの、かなり時間をかけていましたのじゃ。
知識をジグソーパズルの欠片のように嵌め込んで作るからとんでもなく労力が必要だとか。
因みにエミリー先生がやったのはどれくらいの割合だったのですのじゃ?」
「驚くなかれ。六割しかないゴミみたいな設計図を渡された」
「ハァッ⁉ちょっとそれ無茶苦茶じゃろ、国家間のプロジェクトでも数年かかるようなやつじゃよ!」
驚くなかれと言われつつ、お約束通りにシャルは驚く。
う~ん、ケルマもボクと一緒に最低限の錬気術の授業は受けていた筈なんだけどなあ。ちょっと現場の事分かってなさ過ぎだろ。
「それは凄いですね、エミリー先生」
「クッフッフ。私は天才だからね。キスしても良いぞ」
「ハイハイ」
ボクは彼女の頬に軽く唇を落とした。
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