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ヨネシゲの記憶  作者: 豊田楽太郎
3章 海からの悪夢
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第66話 上陸間近の船首

 イソマル漁船の船首。

 ユータは緊張した面持ちで刻々と迫り来る南ヨネフト島を眺めていた。


 目を凝らすと島に上陸しているマロウータン海賊団が戦闘体勢に入っているのが見える。それくらいの距離までユータたちの乗った漁船は南ヨネフト島に近づいていたのだ。


 あくまでも今回はヨネフト地区副領主のテツを救出するのが最優先である。しかし島に上陸すれば海賊たちとの激しい戦闘は避けられない。双方多くの血が流れる事であろう。


 それにテツが生存している保証もない。もしもテツが既に殺されていたとしたら、今回の上陸は無駄になってしまう。新たな被害者を出すだけだ。


 上陸直前になってユータの心は揺れ動いていた。

 本当にこのまま上陸しても良いものなのか?

 多くの人を守るどころか、多くの犠牲者を出しかねない。そうなるとウオタミから託された望みを踏みにじってしまうことになる。


 ユータの心に再び迷いが現れ始めたその時、彼の側にイソマルがやって来た。するとイソマルはユータに声を掛ける。


「緊張しているのか?」


「いえ……少し迷いがありまして。」


 イソマルはユータの命の恩人であるウオタミの兄である。弟をマロウータンに殺された兄としてどの様な考えを持っているのか。ユータは自分の胸のうちを打ち明けた上で彼の意見を聞こうとした。


 ユータの心境を聞いたイソマルがゆっくりと口を開く。


「何故マロウータンは世界中から恐れられているか知っているか?」


「それは……」


 イソマルから意外な質問を投げ掛けられ一瞬戸惑うユータであったが、すぐに彼の質問に答える。

 マロウータン海賊団が世界中から恐れられている理由、それは残虐非道な行為で世界各国を荒らし回り人々に恐怖を植え込んでいるからだ。

 ユータがそう答えると、その答えに対しイソマルは更に質問を続ける。


「では何故それを可能にできたかわかるか?」


「それはマロウータンが強いからですか?」


 世界各国を襲い人々に恐怖を植え付けるにはそれなりの強さが求められる。確かにマロウータンは強い。実際多くの街や国を滅ぼしている。しかしイソマル曰くマロウータンは物凄く強いわけではないとのことだ。


 マロウータンの力では全世界を支配することは不可能。とはいえ世界各国の人々に恐怖を植え込んでいるのだ。


 では何故それを可能にしたのか?イソマルが解説を始める。


「マロウータンは勝算のある相手としか戦わない。残虐非道な行為で連戦連勝。そんな無敗神話は瞬く間に世界中に広がると人々はマロウータンの事を極度に恐れるようになる。次は自分たちの番ではないのかと。そんな海の悪魔が目の前に現れれば人々は無条件で降伏する様になる。それがマロウータンより強い国であってもな。」


 マロウータンは勝算のある相手としか戦わない卑怯者。マロウータンは残虐行為で連戦連勝を重ね“海の悪魔”と呼ばれるようになる。人々は極度に彼を恐れるようになった。やがて人々は無条件でマロウータン海賊団に降伏をするようになると、彼らは戦わずして勝利を収めるようになっていた。これもマロウータンの計算の内なのであろう。


 イソマルが解説を終えると、マロウータンに怒りを滲ませる。

 

「こんなこと何時までもまかり通って良いのか!?いや俺は許さんぞ!!今回はテツの救出が最優先となっているが、少なくとも俺の目的は奴をぶっ潰すことだ!おそらく……マックスも同じ考えだろう。」


 ユータはイソマルの考えを聞かされて驚きの表情を見せる。

 確かにイソマルは弟のウオタミをマロウータンに殺され、復讐心に燃えていることであろう。とはいえマックスからはあくまでテツの救出最優先とお達しが出ている。しかしそのマックスさえもマロウータンに報復を行うつもりなのか?


 だがよくよく考えてみれば“テツの救出最優先”は表向きの名目なのかもしれない。本気でテツを救出するとなるとマロウータンやキャロルたちを完全に制圧しなければ無理であろう。彼らの目を盗んで救出する方が難しいだろう。


 マックスは初めからマロウータン海賊団を殲滅するつもりなのであろう。彼の力を持ってすれば容易いことかもしれない。ただテツの救出最優先を謳っている理由は、ユータたちを余計な戦いに巻き込まないためなのかもしれない。


「ユータ、俺は弟を殺され黙っている訳にはいかねぇ。だからお前は無理する必要はない。だが……最終的にはお前の判断だ、無理するもしないも。お前はウオタミから望みを託されたそうだが、マロウータンを許す許さないはまた別の問題だ。悔いのないようにやるんだ……!」


「イソマルさん……!」


 イソマルはユータにそう言葉を伝えると海に飛び込んだ。

 “西ヨネフトの魚雷”の異名を持つ彼だ、恐らく停泊している海賊船を沈めに向かったのだろう。


 その直後、一緒に同行していた複数の漁船から雄叫び声が上がってきた。この漁船団にはイソマル率いる西ヨネフト漁師たちが乗っているのだ。そしてユータは目を疑う光景を目にする。


 各漁船の漁師たちが武器を手にして海の中へ飛び込んで行くではないか!?

 彼らはイソマルの後を追うように海の上を跳び跳ねたり海中の中へ潜ったりして泳いでいた。その姿はまるで飛び魚だ。


 ユータがあり得ない光景に驚いているとヨネシゲが彼の真横にやって来る。


「いよいよだな……」


「ヨネさん。」


「何だ?」


「俺、奴らは許せません……!」


「ああ、俺もだよ。」


「だから俺!!」


「あくまでテツの救出が最優先。あくまでもだ…」


 ユータはヨネシゲの言葉を聞き終えると静かに頷く。


「どちらにせよマロウータンとの戦いは避けられん。ユータ、覚悟はできているな?」


「はい!そう言うヨネさんは?」


「おうよ!もちろん覚悟はできているさ!」


 二人がそんなやり取りをしていると周りにはマックス、ゴリキッド、マッチャン、ジョーソン、マッチャン一家四人衆が集結していた。そして一同静に南ヨネフト島を見つめる。


 やがてユータたちの乗る漁船は海賊船からの砲撃を避けながら南ヨネフト島に到着した。



 ついに上陸……!


つづく…

豊田楽太郎です。

今回も投稿遅くなってしまい申し訳ありませんでした。

次回からマロウータン海賊団との本格戦闘開始です。

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