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第四十八話 薬剤師が全く役立たずだった話

 先日の失敗談です。

 転院された患者さんは糖尿病の人でした。医師を変えるのは黙ってする人が多いのですが、この人ははっきりと前の医師が嫌だったからとおっしゃいました。血糖値が高いことがわかったのは、十年ほど前だそうです。以来ずっと血糖値を下げる薬を飲んでおられたそうです。転院前と同じ薬が出て患者さんはあきらかにがっかりされていました。

「同じ薬なんですか~」

 血糖値を降下させる薬はいろいろありますが、この人は問診で腎疾患系の病歴ありと判明しています。お薬手帳にもその旨の記載があります。となれば処方薬も限られてきます。患者さんにとっては前の医者が決めたのと同じ薬は嫌だったようです……正直に感情を出す患者さんなので、続けて飲んでいただきたいと思って説明を続けます。

「いきなりがらっと薬を変えず、様子を診ながらということだと思いますが」

「とにかく飲むしかないわね」

「ちなみに血糖値はいくらぐらいでしたか?」

「あ~なんか言われたけど、忘れた。ところでブドウ糖をください」

「ああ、はい。では薬が効きすぎて低血糖になったことがあるのですね?」

「うんまあ……一カ月に何度かあるわ。ねえ、無料なんだから、もっとくれない?」

 この時点でおかしいと思うべきだったのですが、私は一袋だけ追加して低血糖を過去何度ぐらい起こしたのだろうと聞きました。

「食事を抜いたり極端に減らして薬を飲まないでください。頻繁に低血糖を起こすようだったら処方の見直しが必要ですし……」

「私急ぐから、ありがとうねー」


 一か月後、彼女は処方箋を持ってきました。

「薬変わったでしょ?」

 確かに変わっています。変わったことで満足そうに見えましたが、悪い方に変わっています……何があったのだろうと思うぐらいに。私は患者さんに話しかけました。

「あの、もしかして血糖値があがりましたね?」

「そうみたい、病院を変えてよかったわ」

「これは新しく出た薬ですね、それともう一種類追加になっていますね、いろいろと処方が変わったので説明しますね」

「説明は急いでいるのでいらない。ねえブドウ糖をもっとちょうだいよ、あなたはケチよ」

「……ちょっと待ってください。先月のブドウ糖は使ったのですか?」

「全部食べたわよ。スーパーでブドウ糖の特売があったのでそれも買った」

「あ、あれは、あれは血糖値が下がりすぎたときに使うものですよ」

「えーブドウ糖は糖尿用の砂糖じゃないの?」

 患者さんはけらけらと笑いました。私は愕然。そして責任感も感じました。もう長いこと血糖値を下げる薬を飲んでいるといっていたので、それをうのみにしたことにも。わかっていると思っていたので低血糖時の対策をうるさく言わなかったということに。第一ブドウ糖の使い方を教えなかったことに。

 それでより高血糖が出たのでしょう。過去もそれをやっていたに違いありません。腎臓の方の薬も増えています。彼女は糖尿病自体軽く考えています。

 彼女はほがらかに言いました。

「急いでいるの、ブドウ糖ちょうだい」

「だめです、あの、急いでいるところ悪いですが、少しだけ私の話を聞いてくださいますか」

 彼女は顔をしかめました。

「いやあね。先生にもさんざん説教されてきたのに、こっちでもうるさいことはごめんよ。早く薬とブドウ糖ちょうだい」

 この話、同業者さんはうそだろ、と思うかもしれませんが事実です。前回と今回の来局で、この患者さんは薬局にある無料の血圧手帳やおためし商品をごっそり持って帰られる方とわかりました。話が根本的に通じず、ブドウ糖が糖尿病の人には使えるお砂糖だと信じ込んでおられてその考えに固執されました。

 私は絶対にブドウ糖をあげなかったので、あきらかにご機嫌がななめに。薬がひったくられ、乱暴な動作で小さなバッグにぎゅうぎゅうと押し込めます。うわー力任せに入れ込むと薬がつぶれる、防湿ヒートから出てしまう、薬の質が悪くなる。私はあわてて「すみません、ビニール袋をさしあげますのでこれに入れて」 と頼みます。患者はもう完全に怒っている。

「私は急いでいるのに、もうっ! 二度とここには来ないからねっ」

「待って、待ってえー」

 医療費無料の人なのでレジは大丈夫ですけど……彼女はまた別の病院と薬局で同じことをしてじわじわと身体を悪くしているのでしょうか……家族などの生活背景はわからないながら、私は心配しております……でも来局されない限りは調剤薬局は関与できないのよね。

 そして後日談も……医師や私の話を全く聞いてない様子で、もしかしてと思ってた。

 案の定、別の医療施設から、別の医師名の処方箋で来ました。彼女は施設入所中でした。(施設によっては患者が薬局を選べないところがあります。そこがそうだったので、処方箋が契約先のうちに来たわけです)

 私は彼女の役に立ちませんでした。彼女は病気なので全然悪くないです。こういうケースもあるのです。多分かかわった医師も私と同じ事を考えていると思っているが……察してください。



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