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第四十七話 避病院、隔離病院の話

 昔の薬剤師さんの話。大昔です。

 当時は良い抗生剤、根治薬などはありませんでしたので、結核などの感染性があるものは隔離病棟、隔離病院などに入院……強制入院、というか収容というか……そういう時代もありました。探せば世界のどこにでも似たようなことがあります。歴史上一番大規模で悪辣なのは病気でもないのに、人種で収容したアウシュビッツになるでしょう。私は無名なので取材というか聞きとりをしても公開できる媒体がないので、聞いてメモを取るだけで終わったのですが……今回はその話。


 某先生は若いころにその類の隔離病院に勤務されていました。長じて薬局長に。その経歴を知ったある思想家さんから隔離された場所で一生を終えてしまった人々に対して、人権無視をしたことについてどう思っているのか、そういう環境で平然と普通に仕事をしていたなんて信じられないと非難されたそうです。隔離病院に勤務していたことが、まっすぐに人権無視になるかどうかの思考の是非はここでは論じません。彼女の糾弾は……つまり。

① 当時の国策に反対しなかったこと、

② そういう場所で働いて給料をもらっていたこと


 件の先生は別に患者さんに対して暴力をふるったとかではなく医師と一緒に医療活動を職務としていただけ。そしてその働きで家族を養った。糾弾した人だって、その先生が患者に暴力をふるったとは思ってはいない。そういう意味ではなく「その場所で働いていた」 ということが許せなかったようです。また本人や家族の許可なく生殖能力を奪う処置、部屋の面積に比して大勢の病人を住まわせていたこと……人権無視な事例も残っていることを鑑み、そういう場所で働くべきではなかったのにと言ったそうです。先生はとっくの昔に定年退職して今はその施設すらなくなっているのに責める。

 つまり思想家さんは「過去、そういう場所でなんの考えもなく働いていたことを責める」 のです。思想家さん側の聞き取りはしていないのですが、おそらく先生に反省して謝罪してほしかった? のでしょうか。私がそう問うと先生は首を振って「◎◎◎◎◎◎」 と言われました。(←自主規制)

 言われた先生は、誇りある医療従事者としての生き方を一刀両断に否定されたことで残念に思っておられました。ものすごく。温厚な先生が、思想家さんに対して怒るということは心が傷ついたのです。患者の人権云々を振りかざして先生の人生や業績を全否定した相手に。温厚なお人柄ですので、先生は言葉を尽くして説明されました。しかし、どういう言い方をしても、理解してもらえなかった無念もあるようです。


 あの時代でいわゆる伝染病は隔離という手段しかなかった。隔離……治療ではないです。治療法がなかったから。隔離しかない。

 特効薬がないので、対症療法的な医薬品しかなかった。しかし

① 「隔離しなかったら患者はもっとひどい目にあっていた」 はず。

② 周囲の感染者も増えただろう。病名が周囲にわかれば、家を放火されたり、家族も蔑視され一家離散の目にあった時代。

③ 患者自身も乞食さんよりひどい目にあっていたはず。家族は病名を隠し体調を崩したので大きな病院に入ってそのまま死んだと周囲に説明していた時代


 ……それを国費で養い、衣食住すべてを賄っていた。対症的な処置しかできなかったが、医師も薬剤師も看護師もいて病院が機能していたのです。ちゃんと。

 それ以上は書けない……またいかに私が同業者であっても守秘義務もあるというので教えていただける内容も浅かった。でもこの糾弾された話だけは残念だったようで、教えていただけた。

 当時の世相状況や偏見もあり、患者と患者の家族のためにも、そういう国策でよかったはずだとどんなに説明しても、人権無視だとの一点張りの糾弾で終始されたそうです。私はその先生の哀しい表情は忘れられないです。

 どうも思想家さんは先生をやりこめたかったふしもみられます。糾弾して先生を謝罪させ、反省させ、泣かせたかったのでしょうか? でも話してくれた先生も話を聞いた私も、当時の人権云々の批評という形をとってはいても、それが本人のためか、それとも「自分が言いたくて相手を貶めるため」 かは直感としてわかるはずです。


」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 実はレベルは違いますが私も過去、先生と似たような目にあいました。医薬分業の推進が始まったころに私も末端として業務にあたったのですが、それを医薬分業という改悪をなぜ止めなかったのか、おかげで患者は余計な出費や待ち時間を強いられて大迷惑、なぜそんな仕事を引き受けたのだと言われたことがあります。

 私は弁が立つ方でないので説明にすごく困りました。国策は国策で私は下知に従い忠実に業務をこなしたつもりです。やり方や進め方に反省点は多々ありますが、その業務を担当したという点では責められるべきことはないと思っています。糾弾するのは簡単なのです。一言でできる。気軽にできる。

 一方、糾弾を受けて「納得されるよう説明」 するのは難しい。


 話を戻しますが、いわゆる思想家さんは伝染病隔離の趣旨と理論を飛躍させて人権無視につながるのなんだの言いますが、どこか違うのではないかと思っています。

 隔離政策の医療的史跡として記録や建物を保存するのは私も同意します。しかし、日本はこんなにひどい人権無視の政策をする国でしたと国内外に広めることを目指すのは奇妙に感じます。つまり日本を下げる思想につながっていることを危惧しています。

 日本の国に住んでいながら日本の良い所を一切認めず、日本を貶め、責め、未来のヴィジョンを一切語らぬ思想家さんたちにはどう書けば納得していただけるのか非才な私にはよくわかりません。



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