17 お兄様の試合を観戦しました
ザワッ!
私達が楕円形のスタジアム観覧席に入場した途端、空気が変わった。
お父様とおばあさまの不仲は思いの外有名だったのかしら?
その二人が、仲良く入場。隙のない紺のスーツ姿の父上がスッキリとしたラインのラベンダー色のドレスを姿勢良く着こなすおばあさまの手を取りエスコートしている。そしておばあさまは不仲の元凶であるはずの私の手をしっかりと握り、穏やかな微笑みを浮かべていらっしゃる。
おばあさま、上品笑いもできるのね!
そして空気のような私は全く自己主張のないアイボリーのドレスにウエストを黒のリボンで巻いてるだけ。髪は緩くサイドに下ろして、おばあさまとお揃いのプラチナにエメラルドと瑪瑙をあしらった髪飾りで留めた。私の肩(当然髪飾りがないほう……)には本人と私とお父様、三重に幻術をガチガチに施したルーが乗っかり、キョロキョロと物珍しげに周りを見渡している。
「ヒソヒソ……グランゼウス伯爵、最近は全く顔を出さないのに何故………」
「ヒソヒソ……あれが噂の〈魔力なし〉か。伯爵もお気の毒に。」
「ヒソヒソ……あれがトランドルの女傑だと!?あんなお美しい人が千人斬り?」
「…………おばあさま、千人斬りって?」
「ウフフ、セレフィーちゃん、女は秘密で出来てるのよ?」
それ、前世で不○子ちゃーんが言ってた!万国共通!
バタバタと会場整理の係がやってきて、出場選手の家族だと告げると会場中央の最前列に連れて行かれた。イケメンと美魔女に挟まれちょこんと腰掛ける。
「目立ちますね、ココ。見世物状態ですわ。」
私がそういうと、おばあさまがニコっと笑い大振りの扇子をザンっと音を立てて開き、おばあさまのお顔と私の顔を半分隠した。音が重い!その扇子……ヤバイヤツ仕込んでるね?経験でわかります。
「全てを晒すのも……面白くないもの……ね?」
あらゆる場面を楽しむ度胸のあるおばあさまに、お父様が苦笑いする。途端に若い女性の「キャー」という歓声が…………
あー!いっちょん落ち着かん!
ふとお父様が右手人差し指を動かした。防音魔法だ。はい、パパンも新作魔法使いこなしますが何か?
「セレフィー、3時の方向に緋色の幕がかかっている一角があるだろう?あそこにいるのが王族だ。今日は陛下と王妃殿下はいらっしゃらないようだが、顔を覚えておいて損はない」
「王族もどなたか試合に出場するってことねえ。うちのラルーザに恥かかされる前に消えればいいけれど。絡まれるとホント面倒!」
「ルー?あの時の子、いる?」
『ん……いない』
子供数人と従者の姿が見える。
…………いた。第二王子、ガードナー様。金髪碧眼のザ!王子。小説中婚約者。現世他人。清々する。
幼い子供である今のガードナー様に罪はないけれど。
「セレフィーちゃん、どうかして?殺気が漏れていてよ?」
「……気をつけます」
目を閉じて、目頭を指先で揉んだ。お父様が心配そうにしていることに気づいたけれど。
魔法トーナメント大会、定刻通り開幕した。
第三試合にお兄様登場。相手は3年生の女子生徒。いかにもな杖を持っている。この大会、武具はオールオッケー。でも魔法で倒すこと。そして致命傷は与えないこと。これがルール。
杖やロッドは魔力の増幅器だ。魔法師にとって一般的な武器と言える。
そんな中、お兄様の武器はただのナイフ。魔力半端ないグランゼウスは増幅器など必要なし!あ、敵の女子、アニキの手元見てぶち切れてる。無自覚に彼女のプライドを逆なでしちゃったね!アニキ!
ピーッ!
開始の合図とともに、彼女、自分の体の二倍はある火の玉をこしらえた。観客席に熱が押し寄せる。ほほう、このボリューム、どの程度持たせられるのかな?
「お逝きなさい!」
彼女が完璧に叫ぶと、火の玉はアニキ目掛けて転がった。見た目は運動会の大玉ころがし!頑張れ赤組!
お、アニキがナイフを握ってない左手を突き出した。利き腕使わんのか?うわぁーつまんなそうな顔!左手から風が吹き出す。瞬時に風は盾になり壁になり天高くそびえ……
「ありゃ?」
風の壁に火の玉がコツンと当たると壁から吹き出る風に煽られ、火の玉は一気に彼女目掛けて高速逆回転で転がった!
「ギャー!」
襲いかかる赤玉に悲鳴を上げて、彼女は観客席に逃げ込んだ。
「ピー!場外!勝者ラルーザ.グランゼウス!」
白組の勝ち!
『……つまり自爆か?』
「ルー、それ言っちゃダメ!」
「ご覧なさい。ラルーザのあのやりきれない顔、ほほほ!」
「御母上様、高笑い目立ってます!」
第1回戦、うちのアニキはその実力に謎だけを残してフィールドを去った…………




