155 【2巻発売記念!】伝説の騎士団四姉妹!
書籍に合わせ、騎士学校二年生のセレ(本編60話前後)の小話です。
騎士学校から30分ほど歩いた小さな街にある喫茶パルパルは、学校の食堂よりもちょっとお洒落なメニューが揃っていて値段も適正。学生と近隣の住民にとっても人気がある。
青葉が芽吹き、キラキラと輝く初夏、午前の授業が終わって学校から走ってきた私とアルマちゃんは汗だくで、キンキンに冷えたジュースをぐいっと飲み干していると、店内がざわっとした。
「あ!エリスさーん!ササラさーん!こっちこっち!」
今日はお二人が卒業して初めての女子会なのだ。
「うわあああ!」
二人はジュドール軍のエンジの軍服に黒いロングブーツ、ミリタリーベレー姿だった。女性の軍人、初めて見た!
「カッ、カッコいいーー!」
「惚れてまうわー!」
私は鼻血の予感に鼻をつまむ。
「オホホホ!崇めよ敬え!」
エリスさんはそう高らかに笑うと、クルリと一周してくれた。
店内からキャーっと黄色い歓声が上がる。
「もー何やってるの。すいませーん、アイスティー一つ!あと本日のケーキ!」
「あ、ササラ、私も一緒の頼んで!」
「あ、すいません、我々も今度はアイスティー!そしてケーキです」
『おい!オレもケーキ!』
「あーすいません、私ケーキ2個です」
「相変わらずセレフィーってば痩せの大食いだ」
ササラさーん、違うからー!いつも半分は駄モフが食べてるからー!
「ところで今日はお二人、休日なんですよね?何で制服ですか?」
「え、嬉しくないの?」
「まさか我々へのサービスのため⁉︎さすがエリスさん!あざーす!」
私とアルマちゃんは速攻で拝む。
「でもね、官品って微妙にサイズが合わなくて着心地悪いのよ。お給料貯まったらマーカスで仕立てようかな?」
「ササラが節約しないって珍しい!まあでもココはケチっちゃダメなトコよね。動きに支障がある服なんて致命的だもの」
二人の麗人の会話に、私とアルマちゃんだけでなく、パルパル中のお客さんが聞き耳をたてている。
えへへ〜いーだろー、このカッコいい二人、私の仲良しの先輩なんだぞ〜!思わずドヤ顔で周囲を見渡す。
「軍の訓練、いかがですか?」
アルマちゃんが、真剣な顔で聞く。アルマちゃんにとっては将来の勤務先だからね。
「そうね。新人訓練は軽く学校の二倍のカリキュラムってとこかな。まあお給料貰ってるんだから学生と同じ訓練のわけないよね。ついてこれずに今年入隊の一割既に辞めた。今は配属先でそこ独自の知識を叩き込まれてるとこ。私とササラ、基地が違うから新人訓練以来久々に今日会ったのよ」
「私は勤務先が特殊だから、あまり話すことできないの。ごめんね。まあ孤児院のキッチンリフォームするために、馬車馬のように働くわ」
そっか、ササラさんは秘密厳守の情報本部か。あれ?
「でもお二人とも、おばあさまの元に定期的に足を運んでくださってるんでしょ?」
「エルザ様に……隠し事できるわけないじゃん……」
ササラさんが、遠くを見つめた。
『エルザに強制的に……知り得た全てを吐かされてるな……ドンマイ』
まあササラさんエリスさんが知ってて、おばあさまが知らないことなんて正直ないだろう。おばあさまが聞きたいのはあくまで確認のためだ。
「おまたせしました〜」
テーブルに美味しそうなケーキとアイスティーが届いた。
「「「「『いただきまーす!』」」」」
パルパルの今日のケーキは桃だった。スポンジの上に桃のムース。その上にスライスした桃がたっぷり乗っている。素材を生かして甘さ控えめ。
「かわい〜」
「うん、美味しそうだねっ、アルマちゃん!」
「フルーツ嬉しい!男社会って、フルーツの需要なくてあんまり食堂で出ないのよね〜」
ササラさんも目をキラキラ輝かせた。
『セレ、早く!早く!』
私は皆がケーキに夢中になってるのを確認して、そっとケーキをフォークに刺すと、膝の上でイライラしているルーの口に放り込んだ。
『もぐもぐ………ん〜!瑞々しい!マツキとは違う才能を感じる!セレ、スカウトだ!今の給料の三倍出すと言って引き抜け!』
「人間少ないグランゼウスのキッチンにコック二人もいたら気まずいだけでしょ?」
小声で答えつつ駄モフの口をハンカチで拭って、顔をあげると、フォーク片手に頬杖をついたエリスさんとバッチリ目があった。エリスさんはとっても穏やかな顔をしていて、
「ふふふ、美味しいね。セレフィー?」
「はい!」
「ところで、軍に頼りになる、カッコいい男性いないんですか?」
女子会と言えば恋バナ!私は満を持して話を振る。
「そうそう、騎士学校では男子の皆さん牽制しあってたけど、軍だったら身の程知らずがお二人に声かけてくるでしょう?」
アルマちゃんも乗ってきた!いいぞいいぞ!
エリスさんが苦笑した。
「まあ、正直言えばモテるわよ。私の部隊、女、私だけだし。手紙やらプレゼントやら持ってくるわね。でもやがて『神兵』になるって言ったら大体引き下がってくれる。諦め悪いヤツには強制的にお引き取り願うけど、ね」
エリスさんのウインクに、私とアルマちゃんはちょっぴり震えた。
「えー、エリスモテてるのー?私全然だけどー?」
「……ササラに声がかからないのは、そのエルザ様の髪留めのせいだから」
ササラさんが目を大きく広げ、ベレー帽を取る。おばあさまの髪留めが長めの前髪を耳の後ろで止めていた。
「「『それだ!』」」
「だって使い勝手のいい髪留め、これしか持ってないもん」
マレ蜂の毒仕込んでるのに、使い勝手いいんだ……
「私は通常任務の時は髪留め危ないから付けないの。ササラはデスクワークが多いからね」
「ってことは、お二人とも、彼氏出来てないんですかあ?」
「楽しい話題提供できず、ごめんねえ」
ササラさんがコテンと首を傾げる。
「まあ、私たちより強くて賢くてお金持ちだったら、すぐにでも付き合うわよ?ね、ササラ!」
「うん、その通り!」
「ハードル高!」
「無理だわ」
『一生無理だな』
私たちが、ワイワイとおしゃべりし、ルーが私の分のケーキにまでかぶりついていると、
「あ、あのっ!」
可愛い声に振り向いた。10歳にも届いていない、焦げ茶の髪を背中で三つ編みにした、女の子が口を真一文字に結んで立っていた。
「どうしたの?」
ササラさんが、優しく、ゆっくりと、微笑みながら返事をした。
そんなササラさんの表情に、女の子は少し力を抜いた。
「あの、私、騎士様たちに憧れてて、さ、サイン下さい!」
少し汚れたハンカチをササラさんに向かって差し出し、頭を下げた。
「か、か、か、かわいーね!セレフィー!」
アルマちゃんが小声で囁く。私はウンウンと頷く。サイン欲しい気持ち、よくわかるよっ!
「まあ、ここに私の名前を書けばいいの?」
女の子はコクコクと頷く。ササラさんはサッと彼女の後ろに視線を流す。
そこには彼女に良く似た……母親らしい女性がハラハラと、手を揉み絞っていた。ササラさんが頷くと、母親も頷き返した。
「お名前は?」
「み、ミモザです!」
ササラさんは胸ポケットからペンを取り出し、女性らしい字で「ミモザへ」、その下に名前を書いた。そして、はいっとエリスさんに渡し、エリスさんもそれを真似た。
ササラさんがハンカチを返そうとすると、
「こ、こっちのお姉ちゃんたちも!」
「え、私たちはまだ、学校に行ってる生徒なのよ?騎士ではないの」
アルマちゃんが優しく説明する。
「知ってる!騎士学校の制服だもん。わ、私も、試験受けて、騎士学校に行って、騎士様になって、ママを守るの!」
ああ……騎士学校、夢なんだ。私もそうだった。この子の年の頃、騎士学校に行くことだけを目標に、ずっと鍛錬してきた。
それはここにいる四人同じ。今の子供も夢に思ってくれるんだ。
「そっか。わかった」
アルマちゃんも、そして私もサインして、
『一途な瞳……懐かしいな』
ルーがチョンとハンカチを触った。クリーンと状態保存魔法をかけたみたい。
「ミモザが後輩になるのを、楽しみに待ってるわ!」
私はハンカチを彼女に返した。彼女は目をキラキラと輝かせ歯を見せて笑い、ペコリと頭を下げて、母親の元に戻り、息を詰めて見守っていたお客さんたちからドッと歓声が上がった。
「……勇気がある子ね」
エリスさんが、アイスティーをストローでかき回しながら言った。
庶民にとって、軍人は憧れであり頼りにもされているが、畏怖の対象でもある。決して歯向かえない。
「騎士向きですよ!将来有望!」
アルマちゃんが嬉しそうに笑った。
「私たちみたいな女性騎士が増えれば、もっと、庶民との距離が近くなるわ」
ササラさんがふんわり微笑んだ。その微笑みは神殿の女神のように慈悲深く……私たちの様子を見つめていた全ての観客をノックアウトした。
◇◇◇
その少女ミモザは必死に努力して騎士学校に入学し、騎士になった。
危機に瀕したジュドールの民のために、懸命に力を尽くし、晩年は家族に恵まれ穏やかな生涯を閉じた。
その息子は、母が死ぬまで肌身放さず持っていたお守りのハンカチを広げて、ガタガタと身体を震わせた。
そこには生前母が騎士学校の先輩として尊敬してやまなかった、
数々の偉業を成し遂げた聖女二人と、
S級冒険者で自国初の女性将軍閣下、
そして聖人であり、トランドル王であり、世界最強国ガレの皇妃、
四人の若かりし頃……貴重な旧姓のサインがあったのだ!!!
「で、伝説のっ!騎士団四姉妹!!!」
どう考えても母が手に入れて数十年経っているというのに、全く色褪せていないハンカチ。
息子は自分が持っていて良いものではないと思い、すぐさま四人にゆかりのあるトランドル神殿に寄贈した。
いつまでも変わることのないハンカチは四人の不変の友情と幼子への慈しみの伝承とともに、トランドル神殿の西の壁に額装されひっそりと祀られた。
やがて騎士に憧れる少女ミモザと、それを温かく応援する四姉妹の話は、大人気の子供向け芝居の演目となり、トランドル神殿は騎士学校を受ける女子受験生の聖地となった。
◇◇◇
『セレ、あのふざけた騎士団四姉妹が伝説になるらしいぞ?』
「はああああ?」
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読んでくださる皆様のおかげです!ありがとうございますm(_ _)m




