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15 トランドル領に行きました

おばあさまが私の人生に現れて二カ月ほど経つ。


なんつーか、おばあさまは脳筋だった。お母様が亡くなったことにわだかまりがあったみたいだけど、お父様に当たる話でもないと理解さえしたら、スパっと気持ちを切り替えられた。

あとは、強さこそ正義!わけわからん大層な存在のルーにひれ伏している。そんで、強さを求めて努力する私とお兄様に涙を流す。ハンパないシンパシーを感じるらしい。

まあ、これから成長するに従って、女子には女子にしかわかんない悩みがアレコレ出てくるので、このタイミングのおばあさま参戦は大歓迎だ!


にしても、お母様の実家、トランドル家が武の名門なんて知らなかった。勝つためには何でもありらしく、アニキにその血は濃く濃く遺伝したようだ。例えば暗器とか闇討ちとか暗殺とか……


おばあさまは若かりしとき、軍部のナンバー3だったらしい。しかし、武力と知力で登りつめたのであって、魔法は生活魔法程度。なんでルーが見えるんだろう?


『自分は魔法を使わなくても、感知する能力がずば抜けてるんだよ。おばあは「カンがいい」くらいにしか思ってないんだろうけど、感知能力のおかげで先の先を読んで、正確な判断をしてきたんじゃない?とにかく常人離れして強い!セレと波長が似てる!だから見える!かな〜』


また、私の周りにスーパーマン増えた。


「なんでルーはおばあさまの頭をぽんぽんするの?」

『おばあの頭からオレも知らない毒の匂いがプンプンしててさあ。確認してみた。あれヤバイ!セレとの話聞いて護身のためってわかったけど、額にチロっとでも垂れたら死ぬよ?おばあなかなかのマニアだな』


その髪飾り、私も付けさせられてんですけどーーーー!!!



そんなスーパーおばあに日々鍛えられ、本日は実習ということでトランドル領にアニキの帰省に合わせて連れてこられた。トランドル領は王都を守る最後の砦ということで王都に隣接しており、我が家から日帰りできる。そしてトランドル領に無断で入り込む命知らずなどいない。脳筋の家臣は皆脳筋だからね。密猟者とか瞬殺らしい。ってわけで私、ルー、アニキの秘密特訓にはもってこいなのよ。




◇◇◇



「…………お兄様、この戦闘服どこで………?」

「海を渡ったマルシュ国の留学生の着ていたものを参考にして、仕立てたんだ。身体にフィットして、動きやすく、持ち運びしやすく、身体のラインが出ないから性別もわからない。ここを、こう引き上げると、顔も隠れる。セレフィオーネとおばあさま、いい加減ドレスから解放されたいだろうと思って!」


「……なんて斬新な!ラルーザ、素晴らしいわ!問題は強度ね……。わかったわ。おばあさまが金属を織り込んだ布を手配しましょう。刃物が通らない程度でいいわね。まあ、我々の10メートル以内に踏み込める者がいるとも思えないけど。ふふふ」


『布の段階で幻術をかけておくといいね。敵に認識阻害させて、相手が誰かもわからんうちに撤収する。そうなると、黒よりグレーのほうがいいかな?黒は光を吸収し過ぎるよね、セレ?』


ってこれ、まんま〈忍装束〉じゃーーん!

ってわけで、おっきいクノイチ一人、ちびっこクノイチ一人、イケメン忍者一人、白モフ一頭、森の入り口に仕上がってます。とりあえず本日のところは真っ黒で、魔法効果はなし。


ここは江戸村か!?お兄様、先天的な忍びなの?お兄様これからどのキャラで生きてくの?敵が気づく前の撤収?ルー、あんたも暗殺推奨なの?


そうそう、幻術は例の魔力検査で少年にルーを見破られてからすぐに二人で編み出した。ルーの前方の光の流れを屈折させて、ルーの後ろの景色がダイレクトに眼のレンズに入るように。それ以来、グランゼウス邸を出るときはルーは自身をそれで覆っている。ここでは着いた途端解いたけどね。



「さて、ここから5キロほど離れた地点にイノシシや鹿が現れるポイントがあるの。まずそこに行きましょう。身体強化なしよ!ハイ!」


おばあさまの合図で駆け出した。まあ確かに走りやすいよ。うん。揃いの地下足袋作っちゃおうかな?



三人特に問題なく、目的ポイントに到着……って、おばあさま60歳過ぎてるよね?5キロ10分切るってどういうこと?息乱れてもいないし!?


「10時の方向に大鹿が見えるのわかる?そうね……1キロちょっと先かしら?ラルーザ、どうやって捉える?」


「私は弓は苦手なので、手裏剣に雷と風魔法を纏わせ飛距離をつけて投げたあと電気ショックで仕留めます」

「効率はいいけど合成魔法は学院向けではないわね。学院レベルで答えて!」

「身体強化も秘匿だしな……火魔法で黒焦げも趣味じゃないし。ワンパターンですが、風魔法単独を脚にまとい、跳躍して鹿の頭上から脳天に電撃を打ち込みます」


雷魔法は水魔法の発展系だけど、水→水蒸気→水蒸気同士の摩擦→静電気発生……というメカニズムを理解した上で練度を上げなきゃ使えない……つまり、学院向けではないんじゃ?と思うんだけど、単一魔法といえば単一だし、まあおばあさまが良いっていうからいいのかな?


「次、セレフィオーネ!」

「はい!私のマジックルームに引き込んで、窒息させます!」

「…………騎士学校レベルで!」

「う……片手剣ですよね?蹄動物の弱点である膝下のトウキのツボを蹴りで打ち付けたあと、腱を切って動きを止めて、首にトドメを刺します」

「セレフィオーネ、それではかなりの流血で面倒だぞ?」

「だってお兄様、空間魔法もウイルス操作も針も使えないのよ?」


「……まあ、いいでしょう。では二人とも、作戦スタート!」

私は一気にダッシュ、アニキは二歩の助走で頭上高く蹴り上がった!



…………嘘でしょ?

獲物の前にたどり着いた新米忍者二人は揃って口を開け、呆然と佇んだ。

「なんだこりゃ?」

目の前の鹿は……ゾウよりデカかった。ナニコレ?ココ、もののけふんふんの世界?


確かにおばあさまは言った、大鹿だと。

1キロ先の鹿が見える時点で常識と遠近法というものを考えなければならなかった。

腱を切る?ツボをつく?脚一本が丸太みたいなのに?


『へーこんな街のそばにもこのレベルの獣がいるのかあ。こいつは200歳超のこの森の主だな?殺すことは許さない。二人とも寸止めして?』


ええっ!殺すより難しいこと言い出してくれちゃったよ、もうルーのバカ!

「お兄様……」

「しょうがない。セレフィオーネはひたすら脚を叩け。私は脳天一点狙いで電撃を落とし続ける。散!」




結局、暴れ大鹿に踏まれないでいるのがやっとな私。ルーはすっかり打ち解けた鹿の背中でピョンピョン飛び跳ねて遊び、私の神経を大いに逆撫でする。日が傾きだして、ようやくおばあさまが魔法オールオッケーしてくれて、私が幻術をかけ、お兄様が身体強化し雷をまとった拳で眉間を打ち付け、気絶させた。


「自分の力を過信しないこと、敵の正確な情報を把握すること。緊張感を持つこと。二人とも、よく覚えておきなさい」


おばあさまがドヤ顔で教訓をたれた。ちびっこくノ一と少年忍者はがっくり膝をつく。


この世界、まだまだ不思議がいっぱいだということがわかった。でもこの歴史に残る?大大鹿との戦い、私とアニキの人生に役に立つのか、騎士学校入試にプラスになるのか、さっぱりわからない…………。




時間や長さの単位、暦など、ほぼほぼリアルと同じです。

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