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133 大将戦 タールvsルー&ミユ

シュナイダーが体を庇いつつタクトを小さく震わせた。


ドン!!!


天空から大量の水が、逃れられない範囲で降り注ぐ!!!


私が水に足をとられないように踏ん張っているうちに、ルーの砂が全て地に落ちた。いけない!


私は大きくバックステップで跳躍し、ルーの元に戻る。


『この水の量、レリア湖一つ分はあるな』

ルーがブルブルブルッと身震いし、水を飛ばす。私はルーと自分にドライヤー魔法をかける。濡れ鼠だった私たちの体がフワリと軽くなる。


『セレ、チャンスだ、間を与えるな!畳み込め!』

「はいっ!」


私は短剣をホルダーに戻すと再びルーの背中を足場にして、思いっきり高く跳躍する。そして上空から、アス直伝の、溶岩!!!

お父様、アニキ、じい、ギレン!勝手に避けて!!!

ルーはトンッ観客席との境の壁に飛び乗った。


両手を上空に掲げ魔力を集約させ、そのまま両手を下界のシュナイダーに突き出し、灼熱のマグマを一気に吐き出す!


案外サラサラしたマグマをシュナイダーピンポイントで落下させる!

今度こそいける!


真っ赤な溶岩が今まさにたどり着く時に、タール様がシュナイダーの前に立ち塞がった!


そして、上空の私に信じられない重みが襲う!


ズンッ!!!


一気に地面に叩き落とされ、ねじ伏せられる!


「セレフィオーネ!!!」

お兄様の叫び声!お兄様が観客席の最前列まで走り、身を乗り出している。フワリとフードが背中に落ち、心配してる顔が見えた。


これは……G、重力だ。

上からミシミシと圧がかかる。上からの攻撃しか意味のない溶岩の発動を止め、身体強化をかけるが……追いつかない。踏み潰された虫のよう。ぺちゃんこだ。骨が折れそう。


『セレ!!!』

ルーが鋭利なブーメランのような風の刃を放つ。行き先は、タール様。この重力魔法、タール様だったのか。この間、隕石操ってたのを思い出した。ブーメランがガツンとタール様に当たると、Gが緩み、腕を立てることができた。


シュナイダーが回復するには十分な時間を与えてしまった。私は四つん這いになって顔をあげる。シュナイダーが壁から身体を起こし、大きく上から下にタクトを下ろす!


私の見える範囲の空全てが、氷の刃で覆いつくされた。ああ……威力は前回の倍!


「セレフィオーネ、二年前と段違いの強さだ。育ち盛りって恐ろしいよ」


あんたも十分強さ増してるし。

この量は……マジックルームに入れられない。


「セレフィオーネだけが……僕の同志だけれど、生きている限り、不安でしかない。この世で僕を潰せるのは君だけだから」


ほっといてくれれば潰さないって!


「セレフィオーネ、そろそろ助っ人を呼ぶのかな?」

一つ、二つ……やがて五月雨のように刃が地面を襲い始めた!フィールド近くにいるギレンやお兄様にも降り注いでいる!危ないっ!


「バイバイ。ビアガーデンはまた……次の世で」








勝手に……終わらせてんじゃねえよ!


「……助っ人なんて……呼ぶわけないでしょーーーー!!!」


私は絶叫した!

どんだけ、どんだけ、辛く厳しい特訓をしてきたと思ってるんだ。どれだけ地味な基礎上げ筋トレしてきたかわかる?知らない土地で!追っ手やその他に襲われながら、孤独と戦って死にものぐるいで、ルーがもっと強くなるって言ったのを信じて、頑張ってきたんだ!


「何回も言ってるけどね!転生してキツイ思いしてんのは、アンタだけじゃないんだからー!」

私はシュナイダーを睨みつけた!

「あんただけは私が決着つける!!!ミユッ!」


ミユが私の胸から飛び出して成獣化する!

「ミユたん!行くよ!」

『了解!セレちゃまっ!』


私は息も絶え絶えに、ミユたんと約束した通り、騎士団四姉妹のごとく腕をクロスした後に人差し指を天空に突き刺した!なぜかこうすると威力が増す!ミユたんの()()の問題だ。


「『塩カル!!!』」


ミユたんがさっきのシュナイダーの水に負けない量の海水を頭上に出現させる。

私はほぼタイムラグ無しで、海水から塩化カルシウムを抽出する。そして粉末に変化させたあと、上空の氷に噴射した!


シュパーーッ!!!


前世、真冬凍結した高速道路にたくさん撒いてあった塩カル。炎以外で氷を溶かす方法はこれしかないと思ったの。二人のタイミングが肝だったけど、ギリギリで……完成した。


シュナイダーの氷がゆっくりと消滅する。


「なぜ……聖女の東の四天がセレフィオーネの言うことを聞くんだ………」


答える義理などない。エリスさん、ありがとう。


私はタール様のGを気力で押しのけて、シュナイダーに向かってダッシュした。

ミユがシュルシュルとタール様ににじりより、タール様に巻きついたところでルーがタール様の頭を前脚で押さえつけた。呆然としているシュナイダーの右頬に私は思いっきり踏み出す左足に体重をのせて……グーパンチ!!!


ガツンッ!!!!


シュナイダーはもう一度、壁に吹っ飛んで……激突した。



私は息は上がってるけど、Gがなくなった今、大して怪我を負っていない事に気がついた。お兄様のピアスとギレンのプレートに守られた。


シュナイダーは肘で体を起こし、真っ赤に腫れ上がった頰に手をやり、呆然と私を見つめる。




「……勝負あったな。これ以上見苦しくごちゃごちゃと文句をつけるならば、私が相手になろう」

ギレンがギンッと殺気をシュナイダーに放つ。そしてアスもバサリと虹色の翼を羽ばたかせ、竦んでしまうような畏れを含む大風を……シュナイダーサイドに叩きつける!




「ふふふ……セレフィオーネ、強い、強くなったね」

シュナイダーが頭をはっきりさせるためか、右左と首を振る。


「聖獣を〈使役〉もせずに意のままに操るなんて、信じられない」

「操ったことなんかない!」

「そうだね……進んで協力してくれてるってわけだ。どちらにしても、僕には信じられない」

壁に手をつき、ゆっくりと立ち上がるが……すぐに膝の力が抜け崩れ落ちる。


「もっとあれこれセレフィオーネ対策を準備していたんだけど、まずもってスピードが追いつかない」

シュナイダーが空を仰ぎ……微笑んだ。


「フィニッシュだ。セレフィオーネ、僕を殺して?」


……は?簡単に……言ってくれるじゃん?


ひょっとしてこれ狙い?死にたかったの?王妃を殺し、でも何一つ元になど戻らず、虚しくて、悲観して、理由をつけて私に殺されたい、とか?

それとも私に前世を共有するあなたを殺して心に傷を負わせるのが目的とか?いや、こいつ、そんな他人の機微なんてわかってない。今世こそは!と自分と母親が生き抜くことだけに一生懸命だった、ただのバカだ。


どちらにしろ腹がたつ。私はシュナイダーを睨みつけ、もう一度右手を握りしめた。


「ま、待ってくれ!」


私とシュナイダーの間に誰かが走り込む!……閣下!

「セレフィオーネくん!どうか、どうか、私の命に免じて、殿下を、許して、やって、くれ!!!」


タール様がブルブルと身震いする。ミユとルーがゆっくりと縛りを解くと、滑るようにシュナイダーの元に行き、主人の身体を隠す。


『タール……お前……』

ルーの空色の瞳が大きく見開かれる。


タール様の目は……甲羅同様の、キラキラと透明感のある琥珀色をしていた。


タール様、いつのまにか正気だ。正気の状態でシュナイダーを守っている。

はあ……。


「ねえ、閣下、私が殺人鬼みたいな言い方やめてほしい。そもそも私を殺すって追いかけ回したのシュナイダーだから。私は顔合わせたくないって逃げ回ってたでしょ!?」

「そ、そうだ。だが」


「私はシュナイダーを何がなんでも殺したいなんて思ってない。てか、私に殺してくれなんて言った時点で殺す気なくなった。だってそうでしょ?死んだほうが楽なもんだからそんなこと言うのよ。マジ許さんし!」


閣下が私と殿下を交互に見やる。


「そもそも、シュナイダー、あんたはただのモブ!モブと悪役令嬢が殺しあって、いったい誰得?」

「……でも、僕を生かしたら、また君を襲うかもしれないよ?」

「そんな挑発乗らん!もう私疲れた。ヒロインも関わらないストーリーにない戦いに強制力なんかあるわけない!そうね、次にあなたが私に突っかかってきたときには、婚約者様をけしかけるわ。ね、ギレン!」


ギレンが右眉をピクリと上げた。


「君の大事な人を襲ったら?」

「それを止めるのは閣下の役目!」

私が将軍に視線を送ると、将軍は神妙な顔をして頷いた。


「あなたは……これから生きて、その膨大な魔力とセンスを生かして、傷つけた人々に死ぬまで償って生きていくの」

私はゆっくりと諭す。大の大人が、高校生にわかりやすく伝える気持ちで。

「なんの恨みもない、同種の辛苦を舐めた伯父のギルさんを、陰から助けるのよ」

『タール……あなたが導くのだ』


シュナイダーが苦笑した。

「生きて贖罪ね……残酷だ、君は。セレフィオーネ……」

「あなたはあなたの私怨に巻き込まれた人々に懺悔して生きるの。私、すこぶる真っ当なこと言ってるわよ。それに……「お母さん」は亡くなられたけど、一人ぼっちじゃないじゃん、シュナイダーってば」


シュナイダーは自分の目の前に立つ男の背中と、甲羅を見つめ、黙り込んだ。


「私は同郷のあなたを……ずっと見張り続けるわ」

シュナイダーはフウとため息をつき、壁に背をつけたまま天を仰いだ。



『……セレ、終わりだ。よくやった』

『セレちゃま……』


……これで、終わった?シュナイダー強かったよね?でも私も案外強くなってたんだよね?ルーもうんとパワーアップしたし、何よりミユも私を支えてくれた。


『セレ、勝つのは必然だ。セレの努力はもちろんだが、前回お前は子供だった。この二年で体格も大きくなり、保有する魔力量もそれに比例してグンと増えた。シュナイダーと伸び代が違う。その上ミユの存在が丸々プラスだ。セレは強い。勝つべくして勝ったのだ』

ルーが真剣な瞳で断言した。


シュナイダーの胸の深紅のバラは、ルーの熱砂と私の溶岩の熱ですっかり干からびている。


私は生き抜けた……んだよね?17歳の断罪、これで切り抜けたんだよね?

私は自分の手のひらをグーパーグーパーする。

……どこかで諦めていた……穏やかな、真っさらな人生をようやく……手に入れた?












「ラルーザ!!!」

お父様の切り裂く様な声が響き渡った。

光が私の後ろから通り過ぎる!




「ああ!ようやく、ようやく来てくれたのね!」

フィールドの端で顔色をドス黒く変えたマリベルがいつのまにか意識を回復し、体を起こし横座りしていた。


そんなマリベルの手を愛おしげに取って、腰を支えて立ち上がらせる……お兄様。


「うそ……」

『何故だ……』


目をジグザグに動かしてお兄様をつぶさに観察する。首に……私の作った瑠璃のネックレスが……ない。

ああ……


お兄様が振り返る。エメラルドの瞳が、静かに、冷たく、私を、射抜く。






次回の更新は週末です。

海水から塩カル……など、フィクションです。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
なんか、シュナイダーとの因縁?の纏め方が雑でちょっとがっかり…。
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