エピローグ
「ふむ。やはりこちらは素晴らしいですね。
これほど調味料や設備、道具があるのであればどんな料理でも作れてしまいそうです。
さて、何か食べたいですか? ご主人様。」
「ん、んん。え、そ、そうでございますね。
え、ええと正直思いつきません。ごめんなさい。」
「ご主人様。ボクこの洋服がんばって用意してみたんですけど、どうしょう? 似合いませんか? ちょっと恥ずかしい感じもするんですけど……えへっ。」
「ん、んふっ! ええと、その、アミアミな感じで肌の透け具合がですね。その、まぁなんといいますか。アレですね。素晴らしいと言っていいかと思います。はい。」
俺は今、自宅のアパートにいるはずなのに、あり得ない緊張感に包まれている。
なにせ美女系メイドとカワイイ系小悪魔が俺に愛想を全力でふりまいてくれているのだ。
正直どうしたらいいかわからんとです。
黒髪黒目でスラブ系の顔立ちの美女が、左手で右ひじを抱え、右手人差し指を自身の顎に当てて少し首を傾げる。本人が意図していない事は明白だが胸が強調されて正直たまりません。
「はて? 頑張ったご主人様の望みを叶えるべく、とりあえず私がそれなりの人間の女らしくなってみることにしましたが……いまいち反応がおかしいですね。
ご主人様? ご自由にキャッキャウフフで、ムフフのボインボイーンとやらをしてくれても全然かまわないのですよ?」
「キキーモラさん! それはボクがするの! ボクもちゃんと女の子の身体になったんだから!」
「えぇ。ツムリンも頑張ってましたからね。ご主人様は『女の子たち』とも言ってましたから、二人の方が好都合ということもありましたからね。ねぇご主人様。」
「ふぁい!」
わかっている。
キキーモラさんは見た目がちょっと変わっただけで、ちゃんとキキーモラさんなのだと。
ツムリンはちゃんとオスの機能が無くなって、完全女の子になっただけで、それ以外は変わらないのだと。
だが、緊張するものは緊張するのだ。
キキーモラさんは美人だし、完全無欠になったツムリンは可愛さが120%になってしまっているから無駄に意識してしまうのだ。
これまでは二人とも負の面が目立っていただけに、それが無くなるだけでこんなにも違って見えるのが衝撃的ではあったけれど、もう仕方がない。
それに二人のことをよく知っているからこそ、ここで一歩踏み込んで色々が色々になってしまったら、今後どうなるのかという怖さもある。
でも、それを向こうも望んでいるんだもの。
応えたいし、俺だって色々したいけれどあああああああああああああああああ。
「み、見ろよアイツ! 超テンパってる! ふははは!」
「はっはっはっはっは! 情けないな!」
「うるせぇな! 覗いてんじゃねぇぞ!」
部屋に空いた穴からゴブ吉とボナコンが茶々を入れてきたので返す。
穴の向こうにはベースの村で寝床に使っていた家が繋がっていて、そこでゴブ吉とボナコンは飲みながら俺の様子を酒の肴にしているのだ。
「覗くも何もお前なんもしてないじゃんよ。いざ始まったらちゃんと閉じてやるよ。」
「はっはっは! まったくヘタレだな!」
「うるせぇんだよ! ボナコンは直球ストレートを投げるな! 的確に俺の心を抉ってくるから普通に傷つくわ!」
実際はゴブ吉とボナコンがニヤニヤと見てくれているおかげで、なんとか正気を保てて間を繋げているように思うから、見ていてくれるのは本当はありがたい。
ゴブ吉もそれをわかって穴を開けているのだ。流石親友だ。
「あら? あらあら? ちょっとゴブ吉。あまり邪魔しない方がいいんじゃないかしら?」
「おや? おやおや……そうだぞ。若いっていうのは色々あるからな。」
ちょっと待って珍しく来ていたゴブ吉のお母さんとお父さん。後ろから変な事言わないで。
遠慮しなくて構いませんから! 穴を閉じられちゃうと、ストッパー無くなって、なんかもうどうしていいかわからなくなりそうなんです!
余計なお世話なので黙ってろください。この野郎。
そんなことを考えている俺の目を見たゴブ吉が察したようにコクリと頷く。そしてニコリとほほ笑んだ。
その微笑みは、純粋に裏しかない笑みだった。
「それもそうだな! じゃあまた明日な! 頑張れよ!」
「はっはっは! また明日!」
「まーー!」
俺は穴に向けて『待って』と手を伸ばす。
だけど穴は手を振る面々の顔を向こうに急速に縮み、そして消えてしまった。
静寂。
静寂を破るように、ツムリンが俺の伸ばした腕をとり抱き着いてきた。
「ふふふふふふ。ボク……もう興味津々です。」
「なななな何がでございますか。」
腰が引けて尻もちをつきながら後ずさると、ふにっと後頭部が柔らかい感触に当たり止まる。
キキーモラさんの両手が俺の胸へとまわり、後ろからそっと抱きしめられていた。
「こういうのがお好きかと思いまして。」
「んんんんんんんん! そりゃあ好きですけれども! 正直ご馳走様です!」
「んふ、んふふふふ。」
「ちょ、その笑い方やめてツムリン! なんか怖いから!」
「あら? 大丈夫ですよ。ほら、天井のシミを数えていればなんとやらと言うではないですか。」
「それ男女逆だよね!?」
前門の虎! 後門の狼!
逃げ場がない!
これは覚悟を決めるしかないかもしれなくもないないない――ふへへへ。
突如、空間に穴が開き、ひょっこりゴブ吉の顔が出てくる。
「で、どうする? 助けとく?」
「んんーーっ! また絶妙に嫌よ嫌よも好きの内になったタイミングで出てくるこのクソ野郎!
あぁもう! 助けろ!」
「ふふっ、あいよ。」
俺とゴブ吉のやり取りを見て、キキーモラさんとツムリンの俺を捕まえていた力が弱まる。
「どうやら今日はここまでのようですね。これがキャッキャウフフというヤツなのでしょうか? よくわかりません。」
「キキーモラさん……キキーモラさんって実は色々と惜しい人なんだって、ボクようやく気が付いたよ……はぁ。」
二人が離してくれると同時に俺の下に穴が開く。
そのまま落ちるとボナコンの上だった。
キキーモラさんとツムリンが手を振っている姿が見えたが、すぐに穴が閉じた。
俺は残念さと安堵の両方を感じながら大きく息を吐く。
「はっはっは! 今日もまたヘタレだったな。」
「な~、まったくよ、さっさと腹くくりゃあいいのにな。」
「うるせぇよ! 色々アレでアレなんだよ! 俺は色々考えてるの!」
「はいはい。んじゃストレス解消に飲むか? それともなんか狩りにでも行くか?」
「はっはっは! 我はどっちでもいいぞ!」
「はぁ……まぁ、俺、明日も仕事だからなぁ……でもちょっとムラムラしてるとアレだから、よし! ハリー達連れて狩りに行こうぜ!」
「おう!」
こうして毎日、日本での暮らしを満喫しながら、モンスターワールドの世界も行き来し、波乱万丈ながらも幸せに暮らしましたとさ。
駆け足過ぎた感ありありでごめんなさい。
またラスト2話はいずれ書き直すかもしませんが、とりあえずこれで完結いたします。
勢いだけで書いた感がありますが、ここまでお付き合いいただき、そして読んでいただき有難うございました。




