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無(りなく)課金プレーヤーがヌルゲー世界にINしました。  作者: フェフオウフコポォ


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24 切り開く未来

 無我夢中で切る。

 ただ切る。


 ボナコンはハリーを乗せて笑いながら突進し、ツムリンは敵を攻撃しながら暴走するボナコンを制御しようと動く。

 キキーモラさんは俺のすぐ横で、俺をサポートするように、敵を引き付ける囮となるように動き、皆で一丸となって敵を食い止める。


 身体を冷やす為に汗は流れ続け、流れ出る水分で喉は乾いてゆく。

 筋肉に溜まった疲労がビリビリとした刺激に変わり世界が加速してゆくような錯覚を覚えた頃、ぐぐぐ、と穴が縮んだような気がした。

 疲れによる錯覚かと思いつつ敵に刃を突き立てていると、またも、ぐぐぐ、と穴が縮んだような気がする。


 こう気のせいが続けば、それは事実なのだろうと頭が理解する。

 きっとゴブ吉達が頑張って自分の仕事をやってくれているのだ。

 であれば信じて俺も自分の仕事である敵を倒すだけだ。


 やってくれると信じて、ただ出てくる敵を倒す。

 倒し続ける。



 また少しずつ身体の感覚が麻痺しはじめ、動かし続ける痛みも薄れてゆく。

 頭が多幸感を感じ始め『あぁ、これが脳内麻薬か』と幸せを感じながらもダガーを振るう。


 溢れるドーパミンのせいで、つい楽しくなってしまい俺はとうとう笑いをこらえる事が出来なくなった。


「あははははは!」

「あら? 未登録ユーザーさんは疲れのあまりに壊れてしまったのでしょうか?」


 俺の横に居たキキーモラさんが冷静な声を発する。

 それがまた『なwぜw冷w静w』と面白くなってしまう。


「あははは! ぜーんぜん壊れてないよー! たーのしーなー! ひゃっほー!」


 そんな俺を見て、キキーモラさんがクスリと笑ったような気がした。


「あれ? 今モラさん笑った? ねぇ笑った!?」

「いいえ。」


「いや笑ったよね? あはははは!」

「……フフッ」


「あはははははは! やっぱ笑った! あははははっ!」

「フフっ……止めてもらえませんか? バカみたいですよ?」

「バカで結構! あははは!」


 喉の渇きで声を出すのも辛いが、それでも笑いが止まらない。


「そういえば未登録ユーザーさん。」

「なんだい? モラさん!」


「あなたはこの先に何を望むのですか?」

「なんかしらんが俺が望むのは、いつも一つ! 可愛い女の子たちとキャッキャウフフでムフフでボインボイーンよ! ふははは!」


「フフッ……バカですね。」

「おう! 男はバカですよ!」


 そんなやり取りをしながらも変わらず手を動かしているとボナコンが近くまで突進してくる。


「はっはっはっは! なにやら楽しそうな気配がした!」

「あはははは! おう! たのしーなーボナコン!」


「はっはっは! そうであるな!」

「あははははは!」


 ツムリンがボナコンを追いかけやってきて、笑う俺達を見て一人戸惑う。


「あれ? 何がどうなって、こんな状況になってるんですか?」

「おうおうツムリンおかえり! たのしーなー!」

「ええぇ……」


「フフフッ」

「もう、キキーモラさんまで!」

「はっはっは!」



 笑った事で謎の勢いが出たのかいっそう苛烈になる俺達の攻撃。その攻撃を向ける相手は、いつのまにか上級の敵へとその姿を変えていた。

 縮み始めた穴から数で攻めることが難しくなって質を上げる形に切り替えたのだろう。


 相手が強くなろうが俺達のやることは変わらない。

 ただただ出てくる敵を倒す。それだけ。


 むしろ数が減ったことで、こちらも戦力を分散させずに集中させることができる。

 キキーモラさん、ツムリン、ボナコンだけであれば苦戦もしたかもしれないが、まだハリー達もいる。味方の数の有利は大きい。



--*--*--



 また屠った上級の敵が消滅してゆく。


 もう、何度消滅する姿を見ただろう。

 これまでずっと同じ個所で戦い続けていて、コインや素材を拾ってくれていたゴブ吉が後ろで穴を閉じようと頑張っているから、俺たちは地面を埋め尽くさんばかりのコインの上で戦っている。


 そして無数に出てくる上級の敵を相手に無傷というワケにはいかず、俺以外の仲間が傷を負う姿が目立ち始めていた。

 喉がカラカラに乾き、続ける辛さが頭を何度も過り、少しずつ動きを止めたい気持ちが生まれる。


 終わりの見えない辛さと苦しさに、弱気が垣間見え始めていた。



 だが、その時、


 穴がこれまでの少しずつ縮むペースから、一気にペースを変えて勢いよく縮めはじめた。

 その急激に変わったペースに、穴の向こうから出にくくなった上級の敵が詰まるように止まりながらも何とか出てくる。


 もう5分か10分もあれば穴が完全に閉じてしまうような変化に、とうとうゴブ吉たちがやってくれたのだと思い後ろに目を向ける。


 俺の視線の先でゴブ吉は、両手で印を結び汗を流しながら一心不乱に念じていた。

 ゴブ吉のお父さんやお母さんがその両脇で同じように念じている。


 親子3人で必死にこの穴を閉じようとしている事が見て取れ、そして、3人の協力する姿に、俺は運命が変わっているのだと確信した。


「みんな! あともう一踏ん張りだ! 穴さえ閉じてしまえば俺達の勝ちだ!」


 俺が最後の発破をかける。

 その瞬間。


「させん」


 巨人の声が聞こえた。

 そして、血を流す巨人の顔が現れる。


 巨人が現れると同時に俺が切って割れた顔から流れ出る血が、形を変え新たに小さな巨人を作りはじめ、その血から生まれた小さくなった巨人が両手で穴の収縮を止めた。


「ぐぅうっ!」


 後ろから聞こえたゴブ吉の声に目をやると、ゴブ吉が辛そうに顔を歪め、歯を食いしばっている。

 縮めるのを止められたせいで、力を余計に使っているに違いなかった。


「あるべき形へ 戻れ」


 巨人が収束を止めながら、上級の敵をこちらへと流し込む。


 俺の疲れた頭でも一目で巨人の最後の抵抗である事が理解できた。

 そして、また逆にあの巨人を退けなければ、運命はあるべき形に戻されてしまうことも。


 横に目を流せば、傷つきながらも上級へと立ち向かっている仲間達の姿。

 上級の敵は、このに及んでも俺を無視している。



 つまり、すぐに巨人に立ち向かえるのは俺だけだ。


 ゴブ吉は運命を変えようと懸命に戦っている。

 その流れを止めようとしている巨人を相手にできるのは俺しかいない。

 親友の背中を押せるのは、俺だけなのだ。


 最後の力を振り絞り、祢々切丸を拾いあげる。

 そして上級の敵を無視して巨人の下へと駆ける。


「ゴブ吉の邪魔すんな!」


 穴の手前で祢々切丸を振るい巨人の腕を切る。

 巨人の腕が落ちる。

 枷が無くなった穴は収束を始める。


「させん」


 だが、その溢れる血がまた小さな巨人を作りだし穴が縮むのを止める。


「このっ! いい加減にしろよクソが!」


 祢々切丸で切り替えし、腕を落とす。

 だが、またすぐに小さな腕が生えて動きを止める。



「ぐぅっ!」


 ゴブ吉の声。

 目を向ければ、ゴブ吉も両親も膝を折って崩れている。


 限界が近いのは明らかだった。


 そこで俺は閃く。


「巨人よぉ。おめぇ確か俺には直接さわれねぇって言ってたよな。」

「なにを する気だ」


「こうするんだよ!」


 一歩、また一歩と祢々切丸を振るいながら穴に向けて足を進める。


「やめろ」


 巨人は意図に気が付いたのか小さくそう言った。

 だが俺は足を止めない。


 穴へと向かい歩き。

 祢々切丸を振るう。


「やめろ!」


 巨人の腕が落ち新たな腕が生えようとしたその時、俺は祢々切丸を正眼の構えから右わき腹へと引ように構え、


 そして


「もう邪魔させねぇ!」


 突きを放ちながら穴の向こうへと飛び込んだ。


 長い祢々切丸が巨人の新たに生え出てきた巨人に突き刺さる。

 何度も小型を繰り返した巨人は、随分と小さくなっていた。


 俺は巨人に祢々切丸を突き刺しながら穴の向こうで巨人の動きを邪魔する。俺に触れる事が出来ない巨人は俺をどうすることもできず、巨人はただもがくだけだった。


 穴の向こう側はただの暗闇だけの世界。

 暗闇と巨人だけの世界だった。


 チラリと後ろを振り向けば、穴の向こうが輝かんばかりの光を放っている。

 そして邪魔が無くなった事でゴブ吉たちが力を発揮できたのか、もう随分と穴は小さくなっていた。


 穴の大きさを見れば、もう俺が戻る事も難しそうな大きさになっている。


 誰かが俺を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、その声を最後に、俺は穴の向こうでしっかりと穴が閉じるのを見届けるのだった。


 巨人は穴が閉じると何も言葉を発さずに砂と化すように消え去り始めた。

 俺はそれを眺めながら、どこか寂しい気もしたけれど、運命を変えた心地良さに満足し笑いながら右手で拳を作る。


「やったな……ゴブ吉。」


 そしてそのまま目を閉じ。

 暗闇の世界に溶け込んでゆくのだった。

 

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