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無(りなく)課金プレーヤーがヌルゲー世界にINしました。  作者: フェフオウフコポォ


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22 巨人と運命


「まだ希望はある俺はそれに賭ける! ゴブ吉、手伝ってくれ!」

「分かった!」


 二つ返事でゴブ吉が答える。今、自由に動けるのはもう俺とゴブ吉だけだ。


「お父さんお母さん! 絶対にすぐに戻ってくるから扉を開いたままにしておいてくれ! 行くぞゴブ吉!」

「おうっ!」


 足は痛む。だがまだ踏み出せる。歩ける。

 俺は扉を通りベースに、そして召喚の間へと足を進める。


「ゴブ吉! 村の人に協力してもらって余っている武器を全部工房に運んでくれ!

 限界突破に使えそうな素材もなにもかも全部だ!」


 俺の言葉にゴブ吉は俺が何をしようとしているのかを悟ったようで、もう走り出していた。


 召喚の間へと向かい『どうせ俺にしか使えない』という理由で置きっぱなしになっている魔宝石の革袋を拾いあげ、紐で絞り上げるように閉じられている革袋の口をガチャの魔宝石入れに当て、逆さにして絞りを緩めていくと革袋の中の魔法石がジャラジャラと音を立てて流れ込んでゆく。


 俺が水着ガチャが出てきた時の為に取って置いた魔宝石3,000と少し。

 エロくて魅力的な仲間を手に入れる為の大事な魔宝石だ。


 革袋の絞りを緩め、革袋を振り、どんどん武器ガチャにつぎ込んでゆく。


 天真爛漫なハルピュイア。


 妖艶なラミアやエキドナ。


 優々たるセイレーン。


 屈託なく、たわわなドリアード。


 色気ならもってこいのエンプーサ。


 ちょっと危険な香りのモルモー。


 そんな夢にまで見た女体モンスター達を手に入れる事が出来る可能性が、どんどん小さくなって消えてゆく。

 



 だが、惜しいとは思わない。




 「はっはっは!」と毎日『なにがおかしい』と思うほどに笑う脳筋丸出しのバカ野郎。

 上半身は天使のくせに、ちょっとした事ですぐに興奮しては俺をゲンナリさせる雌雄同体。

 とにかく顔が怖いこととサボりを許さないという弱点さえ無ければ嫁にしたい候補ナンバー1のくちばし狼。


 普段は嫌な面ばかり目についていたけれど、失うかもしれない今になって、ようやくボナコンやツムリン、そしてキキーモラさんの方が、ずっとずっと大事な存在なんだということに気が付いたのだ。

 理想的な女体モンスターを手に入れいるよりも、みんなを失う方が断然辛い。


 魔宝石を流し込み終わりガチャガチャと回し続け、次々と出てくるオーブを魔法陣へと投げてゆく。

 次々と眩い光が立つが今はとにかく時間が足りない。こうしている間にもスケルトンや岩人達が潰され屠られているのだ。

 強制収容所に閉じ込めていたり馬車馬のような扱いをしてしまっているけれど彼らだって仲間だ。死んで良い訳がない。


 10個目の『武器ガチャ』のオーブを投げた時、ゴブ吉が村のゴブリン達に声をかけ終わったのか戻ってきていた。

 一緒に魔法陣に出現した10個の武器に近づく。


「これは……」

「この中で、俺が装備できる一番強い武器を最大まで強化してくれ……素材でもなんでもあるだけ使っていい。

 頼まれてくれるか?」

「任せとけ。超特急で仕上げてやるよ。」


 武器をゴブ吉と村のゴブリンに任せ、武器の強化をしている間、俺は少しでも動けるように腿に刺さった岩の処理をする。


 俺ができる事はズボンを切り、直接傷を布やなんかで圧迫して余計な血が流れないようにする程度しかできないが、それでも何もしないよりはずっとマシだ。

 奥様ゴブリン達が、簡単に動けない俺の代わりに物を取ってくれたり手伝ってくれた。


 しっかり圧迫し血が見えにくい状態になるだけでもずいぶんと気の持ち方が変わり余裕がでてくる。もちろん痛みが消えるワケではないが、それでも動きやすい。

 心配そうな目をしている奥様ゴブリン達に礼を告げ、気休めに回復薬を飲み、動くのに邪魔にならない量の回復薬を携えてから工房へと向かう。


 工房では、ゴブ吉が一心に一振りの太刀を鍛えていた。

 NやRの武器。そして今のガチャで出てきた武器までも強化の材料に使われたのか、工房にはゴブ吉が手にしている太刀しか存在しなかった。


 油の中に突っ込まれた太刀が、じゅうっと音を立て冷えていく。

 つかが付いたまま焼き入れというあり得ない光景は流石ゲームとしか思えない。

 だが、油から取り出された太刀の輝きは鉄さえも切ってしまいそうな鋭い輝きを放っていた。


「よし……限界突破もできたし、最大まで鍛え終わったぞ。」

「助かる。」

「限界突破レアリティ『UR』……祢々切丸(ねねきりまる)だ。」


 ゴブ吉から祢々切丸を受け取る。

 2mはある刀身、片手では持てない重さに両手でしっかりと持つ。なぜゴブ吉が持てるのか疑問に感じるが、そんなのは今更だろう。

 ずしりとかかる荷重で腿の傷が痛むが、この太刀ならあの巨人にもしっかりとダメージを与えられるはずとも思え、今はその重みも有難かった。

 

「これなら、まだかろうじて希望がつながっているな……すぐに戻ろう。」

「おう。」


 太刀を肩に担ぎ工房から踵を返しゴブ吉両親が開いている扉へと向かう。

 次にここに戻る時、果たして全員で戻れるのか、それとも俺とゴブ吉だけが戻ることになるのか、まだわからない。そんな思いが頭をかすめた。


「しっかし、ここにきて良いの引いたな! 未登録ユーザー!」


 ゴブ吉の明るい声。

 きっと俺と同じことを思い無理にでも明るくしているんだろう。

 俺と同じようにキキーモラさん達と仲が良く、さらに両親の命までがかかっているのだから、ゴブ吉の内心は俺よりもずっと辛いはずだろうが、強いゴブリンだ。


よこしまな事をなんも考えなかったからな!」


 俺も明るい声で返す。


「はっ! 珍しいな! 雨でも降りそうだ!」

「違いない!」


 カラ元気をカラ元気で返す。

 むなしくもあるが、それでもどこかで心が満たされていく。


 だが、そんなやり取りもすぐに終わる。

 扉の前に辿り着いたからだ。


 扉の向こうに行けば、もう後には引けない。

 一つ息を吐く。


「……なぁゴブ吉。」

「なんだ。」


「何回も蹴ったりしたけどさ……俺はお前のことを友達だと……親友だと思ってる。」

「……」


「だから、絶対、あいつを止めるからな。」


 俺はゴブ吉の返答を待たずに扉をくぐった。



--*--*--



 扉をくぐってすぐに目に飛び込んできた光景は、最後のスケルトンがつぶされる瞬間だった。

 こんなこともあろうかと左手に回復薬を持っておいて本当に良かったと思う。


 多分持っていなければ最前線から順番に戦っていて順番的に最後に戦う事になっていたであろうキキーモラさん達が巨人に向けて動き出していたかもしれなかった。


「ギリギリ最悪の事態の前には間に合ったみたいだな……」

「未登録ユーザーさん……」


 キキーモラさんが、なぜ戻ってきたという意志が垣間見えそうな視線を向けてくる。

 そんなキキーモラさんを無視して視線を巨人の腕に向けると腕はユラユラと動いていた。


「回復薬無双で止まってくれたらと思ったけど無理そうだなこりゃ。」


 だがキキーモラさん達が戦いに突入していない以上、味方の足を止めたという意味では回復薬を持っている意味はあった。

 戦闘に参加さえさせなければ、キキーモラさん達が巨人の攻撃を食らう事もないのだから。


 しかし回復薬を持ったままでは、手に入れた太刀の祢々切丸を振るう事も難しく巨人を相手にする事ができない。

 どうしたものか悩んでいると足元で小さく動く気配を感じた。


「ピュイ!」

「ハリーじゃないか!」


 俺のハリネズミ達。3匹が無傷で俺の足元に居た。

 彼らは『R』のモンスターだ。


 まだ無事だったのか。


「よしっ! ハリー、ポー、ター! お前たちは編隊だ! あいつと戦うぞ!」

「ピュイ!」

「ただし、あいつに攻撃はしなくていいからな!

 俺が攻撃するからハリー達はとにかくアイツの攻撃をずっと避け続けることに集中してくれ!」

「ピュイっ!」


 ハリー達が編隊として成立していれば、システム的にキキーモラさん達が戦うのはハリー達が全滅した後になるはず。

 長く生き残ればそれだけ俺がキキーモラさん達を気にせずに戦うことができる。


 そんなことを考えている俺を挑発するように、巨人の腕は振り上げられた状態のまま、ゆらゆらと動く。まるで俺の考えは無駄だと言っているようにも見えた。


「よし……いくぞ!」

「ピュイっ!」


 元気な返事と共に駆けだすハリー達。

 3匹が一塊になって突進する。


「あ。」


 その姿に一撃で全滅させられる可能性が頭を過る。

 そして、その可能性が実現されそうな雰囲気のまま巨人の鉄槌打ちが振り下ろされた。


「ピュッ!」


 ハリー達は三方向へと散らばり、鉄槌打ちを躱して見せた。


「え?」


 思わず声が漏れる。

 呆気にとられたが数度(まばた)きをして正気を取り戻す。


 ハリー達はやれそうだ。


 持っていた回復薬を飲みほして容器を捨て足を巨人の下へと進める。

 巨人は攻撃方法を平手打ちに変えたのか、地を這う横なぎの攻撃が来た。


「マズイ!」


 足を早めて腕の攻撃範囲へと近づく。


「ピュッ!」


 ハリー達は俺の後ろに移動した。

 俺を殴ることはできない腕は、目前でピタリと止まる。


 スケルトン達とまったく違う行動をとるハリー達に少し困惑するが、正直助かる。


「いいぞハリー! その調子だ!」


 声をかけて祢々切丸を鞘から抜き、鞘を投げ捨てる。

 その間に巨人は腕を引き、何かを確かめる為か顔を覗かせていた。


 巨人の目はハリー達を見て、ピクリと反応を見せる。


「バグか 邪魔な。」


 そう一言発し、また腕を穴から伸ばし、そしてまるで蚊でも潰すかのように開いた手で何度も地面を叩き始める。


 ハリー達を指して『バグ』と言ったのだろう。巨人の言葉はストンと腑に落ちた。


 このスマホゲームの仲間にハリネズミは存在しないかった。だが、まるで仲間モンスターのように存在していた。きっと俺がこの世界に紛れこんだように、ハリー達もまたイレギュラーな存在という事なのだろう。


 だからこそ巨人の攻撃を賢く避けることができたのかもしれない。


「まさかハリー達に助けられるとは思ってなかったな。」


 ついハリネズミに助けられた事実に鼻が鳴る。


 目を前に向ければ、まるで地面が揺れるような錯覚を覚える程に、手当たり次第に叩きつけられている巨人の手。

 だが、俺に触れることはできないのだから、どれだけ激しく動こうと問題はない。


 両手でしっかりと祢々切丸を持ち、八双の構えをとる。

 そして巨人の腕の付け根。穴へと足を進めてゆく。


 近くまで歩み、つかをしっかりと握り振りかぶる。 


「食らいやがれこのクソ野郎!」


 巨人の腕に向けて祢々切丸を振り下ろした。



--*--*--



 手ごたえは――わからなかった。


 切ったような気もするし、切れなかったような気もする。

 堅い岩にあたったような気もしたが、その割には祢々切丸の切っ先が地面に埋まっている。


 顔を上げ腕を見ると、あれほど盛大に動いていた動きが止まっていた。


 やがて、ぷっつりと腕に巻かれていた包帯のような布が裂け、そしてその下の赤黒い巨人の肌が見えた。

 そしてその肌にもぷっつりと一筋の線が走り、裂け始める。


「オオオオオオオオオオ」


 巨人の呻き声が穴の向こうから聞こえた。

 傷から黒い血のようなものが流れ始める。


 巨人の腕に傷を負わせることができたのだ。


「ああああああああああああああ!」


 切っ先が埋まっていた祢々切丸を引き抜き、再度切りかかる。

 またも布が裂け、肌も切り裂く。


「オオオオオオオオオオ」


 効いている。

 そう感じさせる叫び声は腿の痛みを忘れさせるのも十分で、俺は無我夢中に巨人を切り付けた。

 




 ――気が付けば、巨人はこちらに切り落とされた指を一本残して腕を穴の向こうへと引き上げていた。



「こんなことは 許されない。

 なぜ 運命のあるべき姿を 拒む。」


 俺を見据えて巨人はそう言った。

 疲れから荒く息をしながらも、俺は地面に落ちていた祢々切丸を持ち上げ肩に担ぎあげ、巨人を見返し口を開く。


「お前に許してほしいなんて頼んでねぇ。

 そしてお前が言う運命なんていう未来も望んでねぇ。」


「許されない 許されない。」


 祢々切丸を正眼に構える。


「そもそもお前の言う運命なんて、たかがプレーヤーでしかない俺一人に左右されてんじゃねぇか。その程度で動くようなもんを運命なんて呼ぶのはおかしいんだよ!」


「許されない ユルサレナイ。」


 祢々切丸を上段に構える。


「つまり、お前の言う運命は、ただの予定でしかないってこった!

 だから俺は、俺の欲しい未来を自分で切り開く!」


 穴から覗く顔に祢々切丸をまっすぐに振り下ろした。



 巨人は時が止まったようにピタリと動きを止める。

 俺も疲れから、重い祢々切丸を持ち上げることはできず、顔だけを上げる。


 はらりと巨人の顔を覆っていた包帯のような布がはがれ落ちた。

 一枚、また一枚と落ちてゆく。


「ユルサレナイ ユ ルサ レナイ」


 壊れた玩具のように時折止まりながら『ユルサレナイ』と繰り返す巨人。


 やがて包帯のような布の下から赤黒い肌がみえ、そしてプッツリと切れ込みが走った。

 そして溢れるように流れだす巨人の血。


「ユルサレナイィィィ!」


 叫びながら遠ざかってゆく巨人の顔。

 巨人の叫び声と共に放たれる血が穴から流れ込んでくる。


 血を流しながら遠ざかってゆく巨人の姿に、俺は脅威が去ったような安心感を覚えた。

 そして安心した途端に腿の痛みや腕の疲れや痛みが襲い掛かってくるように知覚し、あまりの倦怠感に膝が折れて崩れた。


「大丈夫ですか!?」


 ぐっと引っ張られるような感覚。どうやらツムリンが倒れるのを支えてくれたようだ。

 おかげで、穴から流れこむ巨人の血に顔からダイブするような事態は阻止された。

 どうやらツムリン達の臨戦態勢の呪縛も、巨人が遠ざかったことで解けたのかもしれない。


 波乱はあったが、これで当初の予定通りゴブ吉の両親の力で巨人が干渉しにくい大きさまで穴を小さくさえしてしまえば無事に終われるかもしれない。


 そう思えると、安堵から深く息が漏れる。


 刹那――


 流れ込む巨人の血の中から仮面が浮かび上がる。

 そして中級の敵へとその姿を変え始めた。


「はっはっは!」


 形作り始めた中級の敵をボナコンが吹き飛ばした。

 だが、巨人の血だまりからは次の仮面も浮かび上がってくる。

 キキーモラさんがそれを爪で引き裂く。


 だが穴から流れ込んでくる巨人の血は大量で、次から次へと敵を形作ってゆく。


「これは……大量の敵が攻めてくる予感がしますね。」 


 キキーモラさんの言葉に、俺は疲れの中、気づいた。


 ゴブ吉の両親が亡くなるストーリーをなぞっているのだと。


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