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夢話堂  作者: 若葉 美咲
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夢録4 儀式まがい


 雨ですね。耳をすませば面白い音が聞こえてきていい日です。雨が地面や木々をたたく音。水たまりが跳ねる音。傘をたたむ音。そして、この店へ。

 こんな日はきっと不思議なお客様が来るのでしょう。

 ほら、噂をすれば。


 いらっしゃいませ、お客様。おやおや、これはまた面妖な……。

 いえ、失礼しました。ここは遠いと言えば何よりも遠く近いと言えば何よりも近い店。すべての中間にあると思ってくだされば間違ってはいない思いますよ。

 今回はどんなものをお探しでしょうか。いえ、この質問は少し違いますね。何処へ帰りたいのでしょうか。

 さあ、思い出してみてください。貴方が本来持っていた姿を。目には浮かばずとも心は覚えているものです。何を懐かしく思い、どんなところへ行きたいのか。

 今のその入れ物は貴方のものではないのですよ、残念ながら。貴方は思い出さなくてはならないのです。

 すいません、困らせるつもりはなかったのですよ。

 そうですね、順を追って考えて行かなければなりませんよね。

 ではまず、貴方はどうやってその体に迷い込んでしまったのかを思い出せますか。

 ほう、『人狼ゲーム』ですか。人と狼に分かれどちらが生き残ることができるかを競う人間のゲームですね。騙し騙され、嘘と真実が入り乱れる世界。自分が人間なのか狼なのか。それすら曖昧になってきた時。世界の境界線はなくなっている。

 強いて言うなら黒でも白でもない灰色。決してパンダのように白と黒が分かれている状態ではないということです。すべてが混ざり合う世界と表現するのが適切な気がしますね。

 あれは、遊びのような儀式の慣れ果て。元々は外国のお祭りからやってきて形が変わったなんて説もあります。

 だから、境界線が曖昧になったときに存在が安定していない貴方は自分の体を離れ、その人の体に入り込んでしまったのですね。でも、その体は人の子のもの。あまり貴方が干渉してしまうと壊れてしまいます。


 私には分かりましたよ、貴方がなんなのか。初めにあった違和感も。でも、答えは自分で見つけてもらわなければなりませんね。さて、困ったものだ。

 では、なぞなぞと行きましょうか。これもまた、儀式のようなもの。しかし、これは曖昧な境界線を元に戻すための儀式。ね、面白いでしょう?

 ええ、きっと思い出せますよ。さあ、始めましょう。


“貴方は人の真似が得意。昼間は小さくて夜は大きい。闇夜には紛れることができるし、光があれば必ず存在するもの。人にできるとは限らない。貴方は道具にも動物にも人にも必ずついている。そこに存在するしょうめいのようなものですよ”


 お分かりになりましたか?

 まだ難しい?

 そうですね、では……


“大抵は黒。夏、暑い時間、貴方は安らぎを与えてくれる存在ですよ”


 そうです。貴方は影。その人の子の体に居るはずの影。全ての闇を司り、存在の照明をする。さあ、あるべき姿であるべきところへ。


 おっと。

 隆元りゅうげん。すまないけど、この子が目を覚ますまで休ませてやってくれないかい? 相当体力を消費しているみたいだからね。

「かしこまりました」

 頼んだよ。


 この話が本当かどうかですか? さあ、どうでしょうね。

 信じるも信じないのも貴方次第。

 ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。

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