3
「どうやらその大きな馬車にはもう1人分入る余裕はないみたいなので、こちらでお預かりしますわ」
「ええと…それは、しかし」
貴族の言い淀む姿を見てカトレアは自分の予想が当たった事を察した。大方、子供には歩かせるつもりでいたのだろう。タンザナイト家から貴族の家までは随分遠い。自分は安全なところから苦しんでる人間を見ようだなんて、どこまで腐った精神をしているのだ。
「連れて帰れるのなら確認しても良いですか?馬車の中身」
「い、いえいえいえ!中は結構狭いので、ご令嬢がわざわざ見るほどではありません!」
先ほどの反応も合わせて考えると、どうやら馬車には規則に反する物を詰め込んでるらしい。おそらく違法な武器や不正取引した高価な物だろうが…今のカトレアにはどうでもいいことだ。
「それでしたら…交渉成立ですわね。この子はこちらでしっかりと預かっておきますわ」
「は、は。しかし、噂は本当なのですね。ご令嬢は美しいものがお好きだとか…。国中から宝石や絵画などの芸術品を集めてると聞きました。…確かに、この奴隷は、見た目だけは良いですからな…」
貴族は悔しそうに顔を歪ませてるが、全て負け惜しみにしか聞こえない。カトレアは笑顔で受け流す。
「どうぞご自由に受け取りくださいませ。私が美しいものに目がないのは事実ですもの。あ、一応小切手を用意しようと思いましたが、必要でした?」
「!!いやいや、ご令嬢は本当に慈悲深い。風前の灯のような奴隷をわざわざ自ら保護なさるなんて!ああ、ぜひお渡ししましょう!これは正当な取引です!」
カトレアはにこりと微笑んだ。勝者と敗者がはっきりと決まった瞬間である。
「……」
子供はただただ静かに貴族のやり取りを眺めていた。




