わがままお嬢様とメイド
カトレアに呼ばれたケイトは、長い廊下をとにかく歩き、ようやく部屋の前にたどり着いた。
「お嬢様、ケイトです」
「……」
「失礼します」
返事がないのももう慣れたものだ。扉を開けると、今回は珍しくベットではなく、ソファに座るカトレアの姿があった。いつもと変わらず人形のように可愛らしい顔。しかし何故か両眉の間に一本の皺をつけている。せっかくの可愛い顔が台無しだ。カトレアは不機嫌を隠さずにケイトに告げた。
「…遅いわ、専属メイドなら主人のスケジュールを確認して動くものではなくて?」
聞き捨てならないカトレアの一言。ケイトは一瞬思考が止まった。
専 属 メ イ ド ?
「お嬢様…専属メイド、というのは…」
「あら、まだ執事長から聞いてないの?」
カトレアは小さな手をケイトに向ける。ケイトを見上げるその姿は、まるで暴虐夫人な時の天下人のような、不思議とそう思わせる威厳さで。つまり大きな態度で、ふんぞり返ってるのである。
「喜びなさい、ケイト。あなたを私の専属メイドに任命します。…これはとても貴重でありがたい命なのよ。嫌とは言わせないわ。…ねえ、聞いてるのかしら」
不敵に笑うカトレア。しかし、次第に声は尻すぼみになり、最後にはケイトに問いかける形で相手の様子を伺う始末。ケイトは、思わず顔が綻びそうになるのを抑え、自分が生涯仕えるお嬢様の足元に膝をついた。
「…はい、聞いていますとも。カトレア様」
強気で少しわがままなお嬢様。貴族らしからぬ人と思いきや、その裏で多角的に物事を見ていて、意外にも情があり、貴族としての品格も持ち合わせている強くて優しいお嬢様。
「私は、初めて会った時から、カトレアお嬢様に仕えたいと思っていました。…カトレアお嬢様、あらためてこれからもよろしくお願いします」
ケイトの真っ直ぐな思いは、この先もきっと変わることはないだろう。
「…ふん。あなたは相当変わり者ね。辞めるなら今のうちなのよ」
顔を背けるカトレアの頬はほんのり桃色に染まっている。
「ふふ、カトレアお嬢様のわがままを聞けるメイドはそういません。私が居なくなると困るのはカトレアお嬢様ですわ」
ケイトがにっこりと笑いかけると、反対に主人であるカトレアはその淡い桃色の頬を不満げに膨らませるのだ。
「にゃあ」
カトレアの膝には、飼うことを許された灰色の猫が気持ちよさそうに目を細めて、2人の様子を眺めていた。




